表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第一章 セイシスト教会本部孤児院

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/28

【第一章 - 3】オバケなんて信じてないし…

 就任式の夜ーー

 式の後開かれた簡単な晩餐会を終え、れいりは帝都の中央にある「賢者専用宿泊棟」の一室に泊まることになっていた。


 家までは空飛べば15分だというのに…。れいりはホームシック気味になりつつあった。

 ローブを床に投げ捨てベッドにダイブしたれいりはため息を吐く。


 先ほど案内係の人に「お疲れのところをご自宅に戻すのは心苦しいですわ」と言われ、その言葉に、なんだか帰るのが申し訳なくなってしまい了承せざるを得なかったのだ。


とはいえ、断れなかった自分に責任があることも勿論自覚している。


 その時ーーベランダの方から、『トン』と小さく何かが降り立つ音がする。

「…誰?」


 れいりは、腰を沈めながらゆっくりとベランダへと近づく。

 もちろん三大賢者なので…あくまでも、オバケが出るんじゃないかとか、そんなことは思っていない。


 警戒しながられいりがそっとカーテンをめくると、そこには銀色の髪を揺らす女性がーー

「ぎゃー! おオバケ、オバケが出た〜!」

 れいりが腰を抜かして床に倒れこむと、その女性は目を丸くして、丁寧な口調で話しかけてくる。


「おやすみのところ、失礼いたします…」

 それから女性は、れいりを見下ろして気まづそうに告げる。

「あと、その…私はオバケではないのですが…」

「へっ?」


 その顔をよく見るとたしかにオバケではなく、確かに顔見知りであった。

「ルミナさん。どうしてここに?」

 れいりが戸を開けるとベランダからからすっと入り、窓のカーテンを閉める。


 そして、彼女はどこか張り詰めた様子で話し出す。

「視えてるんですよね、あなたも」


「…え?」

 れいりの問いかけに応せず、ルミナは静かにれいりの目を見つめる。

「あなたの瞳は、あの線を捉えていた。空を走る、あのゆらぎを。それが何かは分からなくても、視えている。違いますか?」


 部屋の空気が、少し冷たくなったように感じた。

 れいりは言葉に詰まりながらも、小さく頷く。


「…なんで、ルミナさんがそれを…それに、なんで視えるって」

「この国で、視える人は極めて稀です。でも私は、祈ってきました。…ずっと。あなたのような、私と同じくそれに気づいている人に出会えることを」


 ルミナはふっと目を伏せ、懐から紙封筒を差し出す。

「翌朝、正式な任務としてあなたをセイシスト教会本部へとお招きします。


 ーーこれは建前上の護衛任務です。けれど、その深層にはもっと別の意味がある。

「どうか、来ていただけますか?」


 れいりはしばらく黙ったまま、封筒を見つめた。そして、少し考えてから首を縦に振る。

 それを見て、ルミナは少しだけ安堵の色を浮かべてーー「では、明日の正午この宿泊棟のエントランスで…」


 ルミナはそのまま、再びベランダから静かに夜の闇へと溶けていった。

 残されたれいりは、固く封をされた紙を手に、しばらく窓の外を見つめていた。


 窓の外には、黒く塗りつぶされたキャンバスのような空が広がっていた。

 でも、その奥に、何かが息を潜めている気がして……れいりはそっとカーテンを閉めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ