【第二章 - 7】狐につままれた猫
ーー結局何の為にやったのか分からない教養試験。それが終わってから一夜が明けた。
「うぅーん……。もう朝?」
なんだか、今日は目覚めがよく、まだ日が上がったばかりなのに起きられた。れいりは、部屋の窓を開け、朝の空気を口いっぱいに吸い込む。
しかし、やはり寒いので開けた扉を一瞬で閉じ、珍しくホットコーヒーを入れ始めた。
今日は雪が降っていて、空気が青い。雪が降るということは、一年の終わりを意味するということ。
今年は本当に長く、面白い一年だったが、まだ待ち人は私のことを待っているのだろうか。
「やっぱ、さぶい」
ベットの毛布を体に巻いて、もう一度椅子に座る。なんだか暖かくて、もう一度寝てしまいそうだ…。
しかし、せっかく朝早く起きれたというのに…、それはなんだかもったいない。
何か良い方法はないのかと、れいりは部屋を散策してみる事にした。
この家はちょっと変わっていて、お母さんの遊び心で隠し部屋みたいなのがいくつかある。
私もこの家に住んで17年目くらいになるが、今だにその隠し部屋というものを調べたことがない。
つまり、この部屋にも隠し部屋がある可能性がある。
例えば、いつも使ってるこの万年筆、これは部屋を渡された時に一緒に貰ったもの。つまり、隠し部屋へのキーで間違いないはずだ。
「ヒットって、言ってみたかった…」
くまなく、調べてみたが特にそれといったものはなく……。
「れいり様……朝ですよ。まぁ、どうせ今日も3時間のたたかっ」
どうやら、れいりを起こしにきた様子の甘猫。一度扉を開けて、れいりの方を凝視する。
そして、なぜか一度扉を閉めた。
「ちょっと待ってください。これはきっと幻覚です。私はどうかしてしまった、働き過ぎ?いや、私は昔より良い環境で暮らしています。もう一度見てみましょうか」
扉の向こうからそんな声が聞こえる。
甘猫は一体私のことを何なのだと思っているのだろうか。
そして、もう一度扉が開く。
甘猫はしばらくこっちを見つめてから、不思議そうな顔をして目をこする。
それでも、納得いかなかったのか、もう一度扉を閉めた。
「なんででしょうか。おかしいですよ、こんなの……」
そして、もう一度部屋に入って来た甘猫は、れいりの方に近づき、れいりの手をそっと触った。
「って、れいり様!これ、現実?いいえ、ありえませんよ。私、もしかして死んでしまったのでしょうか…」
「さっきから、何を言っているの?」
「いや、れいり様がこんな朝起きるなんてありえません。毎朝7時に起こしに行っているのにも関わらず、結局起きるのは10時。そんなれいり様が自分から朝7時前に起きているだなんてありえません!」
「本当?じゃあ、ほっぺつねってみれば?」
甘猫は、れいりの言われた通り、自分のほっぺたを引っ張る。
「痛いです。あれ、これはもしかして幻痛?いままで聞こえていたのはきっと幻聴です。そうに決まっています」
衝撃のあまり、ついに頭がおかしくなってしまったのだろうか…。それをみかねたれいりは、甘猫に死灯蜜を渡す。
「あぁ、死灯蜜ですね。安心してください、これは夢です。食べても大丈夫ですよ」
謎の安心感を抱き、死灯蜜を口に放り込んだ瞬間。
「バタッ」と倒れる音がする。
床に突っ伏していた甘猫にれいりは、毒耐性魔法と、解毒魔法を同時にかけた。
息を吹き返した甘猫は立ち上がってかられいりの方を見る。
「もしかして、本当に現実?」
「だから、ずっとそう言ってるじゃん」
「なんだか、衝撃のあまり逆に頭が痛くなってきました…」
れいりのベットに腰を下ろし、少し休憩した甘猫は、ペンをいじっているれいりをじっと見つめる。
「れいり様、何をしてらっしゃるのですか?」
「寒いから、適度に暖を取れる部屋を作りたくて、この部屋の何処に隠し部屋があるのかと…」
「確かに、この家はやたらと隠し部屋が多いですよね。私も最近来客用の部屋を自分の部屋に変えて貰ったのですが、来客用の部屋でさえ、隠し部屋があるのですよ?」
甘猫はれいりに近づき、ペンをじっくりと見つめる。
「特に、細工はありませんね。多分、これ自体が鍵なのだと思います。何処かに、はめ込む場所があるはずです。探してみましょう」
「詳しいんだね」
「まぁ、孤児院で色々あったので、こういうのを覚えざる負えなかったのですよ」
そう言って、甘猫はれいりの部屋を漁り始めた。
「ちょっと、待った。プライバシーがない。プライバシーが」
「ぷらいばしー?何ですかそれ」
すると、何かを見つけた甘猫はそれを手に取った。
それは、黒くて神秘的な箱。中身を開かれないように、れいりはその箱を一瞬で奪い取る。
これは、絶対に見られてはいけない。
そう、これこそ魔力を誤魔化している、その根本にあるものなのだ。
「人には、秘密っていうものがあるの」
「なるほど…。確かに物はありませんが、私にも隠し事は沢山ありますね」
(正直、物凄く気になる……)
「まぁ、大丈夫だよ。見られたくないものはこれ以外にないから。絶対に見ないでね。さもないと、個人契約しないから。魔法も頑丈にかけておくから」
それを聞いた甘猫は、顔がひきつり、自分から箱から遠ざかった。
この反応なら、問題ないだろう。
それからしばらくしてーー。
「れいり様!見つけましたよ」
そう言って、甘猫が指を示したのは、机の横にある、魔道具コレクション棚の後ろ。
「この、大きなドア、ここの鍵の部分にペンが丁度入るほどの鍵穴があります。こんなに分かりやすい大きさのドアなのに、何故気づかなかったのか不思議なくらいです」
「え、この部屋を貰った時はこんなドア無かったけれど……。そもそも、これ、魔力で創造されてる。しかも、お母さんの魔力だよ。きっとさっき甘猫が何かの細工に触れたんじゃない?たとえば……」
そう言って、触れたのは例の箱の近くにあった一つの魔導書。外見は、紫とピンク、金色が基調のとても可愛い本。
この魔導書は、仕掛け絵本みたいな内容になっていて、本の表紙に綺麗な宝石が埋められている。
この本は、かなり昔からあるものだから、自信はないが、半信半疑でその宝石に触れてみた。
「れいり様、消えましたよ!」
「ヒット」
れいりが、ドアに、ペンを差し込み横に回すと「カチッ」という音が鳴る。
そのドアを開けると、天井の少し低い狭い空間。その中には、暖炉と机があった。
「なんだか、落ち着く部屋ですね……。では、少し改造しましょうか」
それから、甘猫はれいりに任せてくださいとだけ、言い残し掃除を始めた。
まずは、れいりの魔道具コレクションの中から、風魔法の魔道具を使い、全体のほこりを吸ってから、全体を雑巾がけでピカピカにする。
その後、外から取ってきた、薪と炭を暖炉の隣に置き、テーブルの上には毛布をかけて、壁に埋め込まれている棚に、ゼリーやフルーツ、紅茶の茶葉などを置き、天井についている照明の明るさを光魔法で少し調節した。
「れいり様!出来ましたよって……、何寝てるんですか?」
それから、いつものように甘猫VSれいりの朝の戦いが始まるのであった。




