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楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第二章 ミラグロス帝国

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【第二章 - 6】戦闘試験

 ーーそれから、案内されたのは宮殿の庭。

 とはいっても、周りはレンガで整備されており、結界も貼られている。これならいくら暴れまわっても問題なさそうだ。


「と、いうことで、いよいよ戦闘試験。お二人とも今の心境は…」

 インタビューっぽく、拳を顔近づけてケフィーは尋ねる。


「そうですね。ちゃんと力が抑えられるかが心配です」

 甘猫は、そう言って、手を握ったり開いたりする。


「れいり様は…」

「えっと、心境と言われても…。強いて言うなら緊張でちゃんと力が出し切れるか心配です」


「れいり様、そんなに、力に執着しなくても良いんですよ?」

 何だか、よく分からないがケフィーのその言葉にれいりは謎の安心感を覚える。


 元の位置に戻ったケフィーは、床に置いてあった書類を持ち上げてから話始める。

「詳しい試験内容についてですが、私と戦ってもらいます。採点基準は、息の合った連携。私に与えたダメージが基準。そして、私オリジナルの芸術点ですね、私に新鮮な魔法や美しいと思える魔法を使えばその分芸術展が上がります」


 説明をしている最中、甘猫が小さく挙手をする。

「はい、ルナさん」

「えっと、ケフィー様に攻撃するのは、なんだかとても申し訳なくて…」


「その点については安心してください。私はドラゴンですので、アースドラゴンを1日に2体くらい倒せるくらいの実力者じゃなければそう簡単はに……」


 その瞬間ーー。

 ケフィーの顔が真っ青になる。

 甘猫が、収納魔法から取り出したのは、アースドラゴン三体であった。


「この間、腕試しに狩に行って来たんですけど、ちょうど良い所にアースドラゴンが居たのでつい……」

「私は、三大賢者のれいり様にはハンデを…。と言おうとしたのですが、ハンデが必要だったのはルナ様の方だったみたいですね……」


 どこか引き吊った笑いがどこか奇妙に見えて、ケフィーの尋常じゃない恐怖がこっちにまで伝わってくる。

 その様子を見て、同族からの恐怖心からだと思ったのか、甘猫は即座にアースドラゴン三体を収納魔法の方に戻した。


「えっえーっと、その…。ハンデについてですが、ルナ様の方が多めでも良いですか?」

「はい。もちろんですよ、私も不安でしたので」


「そ、それでは。ハンデについてですが……。基本的に、魔法によるものとなっています」


 ハンデの内容を簡単に要約すると、れいりは、属性制限魔術。

 甘猫には、身体能力低下の魔道具(特に、反射神経と、魔力制限)それに加えて、体力低下用の、手足へのおもりだそう。


「れいり様は何の属性をお選びになられますか?」

「じゃあ、光属性で…」

 選んだ理由は単純。


 甘猫に、魔力補給が出来るからだ。

「それでは、私は少し準備をしてきますね」


 少し待っている間、れいりは収納魔法に顔を除き込み、何かを探し始める。

 そして、お目当ての物が……。

「じゃじゃーん。こちら、グラツィアの悲劇って本…」


 あまりにも悲劇的な要素しかない本の題名に、れいりはだんだんとテンションが下がる。

「なるほど。これが、先ほどれいり様の話ていた本、というわけですか」


 甘猫は、その本を受け取り本をパラパラとめくる、そして、少し上を見上げた。

「なんだか。思ったより深刻な話みたいですね、家に帰ってからゆっくりと読んだ方が良い気がします」


「この本、今や非売品なんだよね。なんか、セイシスト教会に目を付けられたらしくて…存在ごと消されたらしく……。だから実質売られてたのは三時間ってわけ」


「そんな凄いもの、貸して貰っちゃってもよろしいのですか?」

「うん。それに、甘猫も知りたいでしょ?」

 甘猫は、まだためらう様子を見せるものの、無理やり自分の中で納得させ、その本を収納魔法でしまう。

 ちょうど、その時、ケフィーがこちらに向かって走ってきた。


 * * *


「よし、これで大丈夫なはずです」

 れいりの右手には、属性を制御する為のブレスレット。

 甘猫には、手足のおもりに加えて…、大量の魔道具。


 ネックレスにブレスレット、指輪にピアスまでなんだか全体的にじゃらじゃらしている。

「ちょっと、ルナ様。光属性の初級魔法、ライトニングを打ってくれますか?武器は無しでお願いします」


 言われるがままに甘猫は詠唱を始める。

「ライトニング」

 そう、ぼそっと呟いた言葉とは裏腹に、その魔法はかなり激しいものだった。


 空から堕ちた光は地面を軽く沈ませ焦げている。

「うぅ、ま、まぁこれくらいなら…。だだだいじょうぶででです」

「全然大丈夫じゃなさそうですけれど。安心してください、今のは普通に打ったものですから、本番ではちゃんと手加減します」


 その微笑みは、確かに純粋なものであったが、ケフィーは何かの猛毒のヘビから逃げるような、そんな表情をしていた。


「各位、ちゃんと配置に着けましたでしょうか。それでは、今から私の手の平にある、このコインを投げます。床に落ちたらスタートの合図ですので…。分かりましたか?」

 その声に、二人は同時に頷く。


「それでは、投げますね」

 その瞬間ーー。

 ケフィーはコインを上に向かって弾き飛ばす。そして、巨大ドラゴンの姿に変わった。


「れいり様がメインで、私がサポート役に回ります」

 甘猫がそう言った瞬間、詠唱を始める。コインの方を見ると、すでにコインは床に落ちていた。


「や、やばい」

 そう言ったと同時に、ケフィーの方から巨大な氷の塊が放たれる。

 れいりは、収納魔法から刀を取り出し、後ろにある魔法陣の中から結界の魔法陣を出し、れいりの前に出した。


 無事、氷と結界はぶつかり合い、氷は砕ける。そして、少し深呼吸をした後、れいりは、刀を鞘に収めた。

「甘猫、多分刀じゃドラゴンは倒せない。その、槍貸してくれない?」


 甘猫は微笑んで、収納魔法から取り出した武器をれいりの方に投げる。

 れいりは少し槍を回した後、しっかりと握り締める。


「甘猫、シャイン・テイアを打って」

「かしこまりました」

 そして、甘猫が詠唱を始めたと同時に、れいりは、地面を力強く踏み締めケフィーの方へとジャンプした。


 そして、甘猫の「シャイン・テイア」が撃たれると、ケフィーは動きを封じられ、それと同時に、れいりは眉間を槍で突き刺した。

 槍を抜いたと同時に、ケフィーが地面に倒れる。


 完全に倒れ切る前に、ケフィーから降りたれいりの横にはいつの間にか甘猫が立っていた。

「お疲れ様です。すぐ終わってしまいましたが、凄く面白い戦いでしたね」


 甘猫は、元の姿に戻ったケフィーを近くのベンチに寝かせる。

「ケフィー様もお疲れのようですので、しばらくの間はここに寝かせておきましょう。その間に、私は目覚めた時のお紅茶の用意をしておきますね」


 * * *


「はっ」

 声をした方を見ると、ケフィーが目を覚まし、何か驚いたように口をポカンと開いていた。

「おはようございます。ケフィー様。紅茶と、クッキーを用意しましたが、召し上がれますか?」


「はい、召し上がります」


 それから、差し出されたクッキーをボリボリと頬張りながら、ケフィーはれいりたちに話し始める。

「きょうの…戦闘、試験ですが…」


「あの、まず食べ終わってから話始めませんか?」

「確かに。それもそうですね、ですが、食べ終わってからではなく話終わってから食べることにしましょう」


 そう言って、手に持っていたクッキーを口の中に放り込み紅茶で流し込む。

「今日の戦闘試験。とても素晴らしかったです。特にシャイン・ティアという魔法、その魔法は芸術展が高くなりますよ。ってことで、点数合わせといきましょうか」


 ケフィーは紙とペンを鞄から取り出した。

「まず、れいり様の筆記試験これが、42/100。面接試験が16/100。戦闘試験が100/100+芸術展80ですので、300点満点中238点。合格点は250点なので不合格ですね」


「えっ?」

 二人の声が同時に響く。


「主な、不合格理由は。上下関係がなさすぎる。いくら考慮してるとはいえ、二人の回答が斜め上過ぎる。などと、そういった所ですかね…。お二人とも残念でした」


「ちょっと待ってください。不合格というのは、新しいメイドが就くとか…」

「あぁ、安心してください。志願しなければ大丈夫です。だいたいこの試験に落ちるのは問題児ばかりですから、帝国はもう諦めてるんですよ。不合格となった者は、志願しない限り、メイドを就かせる義務をなくしたんです。ですから、まぁ帝国から給料は出ませんけれど、もしルナ様がそれでもメイドをやりたいと言うのであらば、セイシスト教会を出て、個人契約のメイドをすることをおすすめしますね」


「なるほど…。では、それで良いですか?れいり様」

 甘猫がまじまじとした目でれいりの方を見る。

「ちょっと考えさせて…」


「何でですか!」

「冗談だって。まぁそれでも良いよ、契約書はそっちが用意してくれる?」

「もちろんです!」


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