【第二章 - 4】三者面談
それから、しばらく片手にコーヒを持ち、論文をちまちま書いて、充実した時間を過ごした。
そうしてると、部屋のドアが、ーーガラという音を立てた。
「れいり様、お待たせしました。免許更新が終わりましたので…。もしかして、お邪魔してしまいました?」
れいりは、論文を書くのを止めて甘猫の方を見る。
「大丈夫。丁度序章を書き終わった所だからちょうど良いタイミングだったよ」
「それなら良かったです」
甘猫は、ほっと息を吐いてかられいりの向かいの席に腰を下ろした。
「甘猫も、コーヒー飲む?一応、魔法でカフェイン取り除けるけど」
「アイスクリーム入りですか?」
それに対して、れいりは首を横に振る。
「いや、ブラック。……なるほど、コーヒー苦手なんだ…」
れいりは、少しニヤついてから、収納魔法から、今日の朝冷蔵庫から盗んできた牛乳を取り出し、もう一つのグラスに注ぐ。
そして、そのグラスの中にカフェインを抜いたコーヒーを少しだけ入れた。
「じゃじゃーん。カフェラテ、どう?これならいけるんじゃない?」
「……カフェラテ。なるほど、これをカフェラテと呼ぶのですか…」
甘猫は恐る恐るコップを手に持ち一口飲んでみる。
「これは…。美味しいですっ!れいり様、これはなんですか?これはこないだサンクティアで飲んだコーヒーがけアイスクリームの次に美味しいです。なるほど、コーヒーには乳製品が合うんですね。まろやかになって飲みやすくなると…」
甘猫がそんな力説をし始めたと同時に、丁度良いタイミングで部屋のドアが開く。
お辞儀をしてから、れいり達の方をみてポカンとしているのは先ほどの職員であった。
「お茶の最中でしたか。申し訳ございません」
そう言って後ろを振り返ろうとした職員をれいりは慌てて止める。
「大丈夫です。なんなら、一緒にコーヒーどうですか?」
* * *
職員は大きく鼻から息を吸う。
「とても良い香りですね。やはり、高級な豆を使っているのですか?」
職員が要望したのは、ホットコーヒー。
なので、れいりが飲んでいるものより薄めのコーヒー豆を用意した。
「それ、私がブレンドしたコーヒーなんですよ」
「それは凄いですね」
そして、コーヒーを一口すすった職員は、ホット息をつく。
「おいしいです」
のほほんとしてる職員を見て、れいりはどこか可愛いと感じる。
「さて、このままコーヒーを飲みながら、面接でも始めていきましょうか……」
一旦、カップを机に置いた後、先ほど持ってきた書類を出す。
「それでは最初の質問です。まず、ルナさん。れいり様を尊敬していますか?」
「いいえ」
その言葉を聞いた職員は少し驚いた反応を見せる。
「れいり様は尊敬されるのが嫌と、そういう方なので尊敬はしていません。ですが、凄い方だとは思っていますよ?」
その回答を聞いて納得したのか、職員は少し微笑んでメモをし始めた。
「では次に、れいり様の普段の生活や性格について…、合わないと思うことはありますか?」
「性格は、まぁそうですね。丁度良い関係だと認識しています。ですが、生活については論外です、れいり様、私が一時間も起こしに行っているのに全然起きないんです。いくらなんでも朝弱すぎますよ」
甘猫は怒り気味にそう言い、れいりの椅子が少し下がる。
「なるほど。楽しそうでなによりです」
「何が、楽しそうなのですか……」
甘猫はそう言って、ため息を吐いた。
「それでは、れいり様。ルナ様のことで何か困っていることはありますか?」
「特にないです。なんなら、助けて貰ってることが多くて…。私、不器用な性格なので、こういうしっかりした子が付いてくれていると安心感があります」
そう言った途端に隣で、鼻をふんと鳴らしている少女がいたように見えたのは幻覚だろうか。
「では、ルナ様をメイドとして受け入れようと思った理由は」
「えっと、そもそも甘猫はセイシスト教会に行って紹介されたわけじゃ…」
そう言いかけたれいりを、甘猫が睨みつける。
すると、同時に目の前に白い文字、それも魔術式を使った当て字が……。
疲れているのだろうか。
目を擦ってみるもなんの変化もなく、しょうがないのでその文字を読んでみた。
(れいり様これは光属性魔法を使ったもので、れいり様の角度からのみ、見えるようにしています。今から現れる文字を読んで下さい。さもないと、私の処刑確率が上がるので…)
それを見たれいりは、焦って甘猫の方にアイコンタクトした。
そして、出てきた文字をれいりの口調に変えて、職員に話しはじめた。
「あっ、さっきのは、ちょっと存在しない記憶だったみたいで…。ごめんなさい」
「れいり様は、大の娯楽小説好きと聞きましたのでそういうこともあるのでしょう。大丈夫ですよ?」
その言葉を聞いたれいりは、なんだか心がもやもやした。
「いくら娯楽小説好きったって、現実との区別くらいは分かるもん」
そう言って、れいりは顔をムスっとさせる。
「それは、大変ご無礼を。申し訳ございません」
職員は頭を下げる。
「分かったならよろしい」
れいりは、鼻を高くして言った。
「それで、話を戻しますけど。甘猫と会ったのは、そう三大賢者になった2日後ですね。私は、自分のメイドを探しに行くべく、ルミナスタウンの聖堂へと向かったんですよ」
職員は「なるほど」という様子でメモを取る。
「そこで、私のことに真っ先に気づいてくれたのが甘猫、じゃなくてルナ?というわけで……」
「先ほどから、甘猫と仰られておりますがルナ様のあだ名なのですか?それに先ほどルナと言った時も驚かれていましたし…」
「まっ、まぁそんな感じです」
れいりはごまかすように苦笑いし、強引に話を引き戻す。
「そっ、それで、私のお母さんのメイドであるルミナの知り合いだという話を聞きまして…。感じも良さそうだし、この子を選んだと。そういうことです」
「なるほど。私から見れば本当にそれだけだとは思いませんが……。まぁ、この話に関しては少しぼかして書いておきましょう」
それから、いくつかの質問に答えたれいり達はついに最後の質問へと移る。
「それでは、最後の質問です。いえ、これは個人的な質問ですね、もし答えたくないのであれば、回答しなくても良いのですが…、れいり様、何故貴方は三大賢者として認められたのでしょうか」
その言葉にれいりは沈黙する。
「すみません。物凄く失礼な質問ですよね…。でも」
「いいえ。別に失礼な質問なんかじゃありませんよ?ただ、私にも分からないから困っているんです」
れいりが三大賢者になった理由、それは前に説明した通り結界のヒビを調べるためであることに間違いはない。
ただ、魔法研究が得意とはいえ、世界にはれいり以上に魔法研究が得意な人がいることもまた事実。
その上、戦闘能力もそこまで高くない。
甘猫の方がれいりよりも何倍もの戦闘能力、センス、胴体視力を持っていることは言うまでもなく分かることだ。
三大賢者の応募者数は毎年約10万人。
何故、この中で受かることが出来たのか不思議で仕方がない。
「私には分かりますよ?そんなの分かりきった話ですよ、れいり様。れいり様は晩成型なのです」
「晩成型?」
「はい。つまり、まだ成長途中というわけです。私が昔読んだ本にはこのようなことが書かれていました。長寿族であればあるほど、晩成型が多い傾向にあり、短命族であればあるほど早熟型が多い傾向にあると、私は獣人ですので、まぁ元からハイスペックな器とはいえ、長く生きても100歳くらいでしょうか、まだ成長の余地がありますが、それに比べてヴァンパイアは寿命という概念が存在しない、その遺伝子はお母様の方を受け継いだのでしょう。れいり様はまだ17歳で、この能力の高さ、それにまだ成長の余地があります。ですから、三大賢者に抜擢されたのです」
なんだか、寿命の残酷さを聞かされ気分が落ち込む。
別に、れいりの血を多めに分け与えれば、甘猫は無限の命を手にすることが出来るが、それは甘猫に取って望む選択とは限らない。
れいりにとって100年なんて、人生の一部にしか過ぎないのだろう。
少し、寂しそうな目をしているれいりを慰めるように、甘猫がれいりの方に手をポンっと置く。
「そんなに心配しなくても大丈夫です。れいり様の為なら何年でも生き続ける覚悟はありますから」
「三大賢者をやめても?」
「はい。もちろんです」
長寿族の三大賢者の在籍期間は契約上100年まで、契約期間が終了後以降も、再試験を申請するのであれば、籍を外すことなく続けることができる。
れいりは100年でやめる予定だが、三大賢者じゃなくなっても、そばに居続けるという意思がある甘猫にはなんだか嬉しく思う。
「ありがとうございます。それでは、これで面接試験を終わります。これから行う戦闘試験は別の職員が担当する予定ですので、用意が整い次第開始させていただきます」
職員は書類をまとめ、席を立つ。
「あ、コーヒーありがとうございました」
「いえいえ」
「それでは、私はこれで失礼します」
職員は、お辞儀をしてから部屋を後にした。




