【第一章 - 21】いつから信用していたのか……
クローマの追跡装置で追った先は、甘猫の予想通りセイシスト教会本部の孤児院だった。
「やっぱりここですか…。それにしても、いつ来ても体が震えてしまいますね…」
甘猫の発言には、れいりも同感する。
まだ来たのは2回目とはいえ、セイシスト教会という名前を聞いただけでもゾっとするのに
…。
「あの子を助けるためにこの中に入らなきゃいけないんでしょ? …どうするよ、これ…」
れいりが指していたのは、孤児院の目の前に建てられた大きな壁。昨日行った方が正門なのだろう。
向こうの道はセイシスト教会の許可がないと入れない上、れいりはまだしも、甘猫やクローマがいると許可を取りに行くにも都合が悪い。
「クローマ、なんか良い方法無い?」
れいりは、そう言って後ろを振り向く。でも、そこにクローマは居なかった。
もしかして、さっきのクローマはオバケだったのだろうか…。なんだか、寒気がする。
「僕は、幽霊なんかじゃ無い…」
背後から少年の震えた声がする。
れいりは、恐る恐る後ろを振り返った。
そこにいたのは、ある長身の男性で、黒い目に、黒い髪の毛ーー見覚えの無い人だった。
「……プロソポン?」
甘猫は言う。
「えーっと……、君は誰だっけ…。あ、そうだ!子猫ちゃん」
わざと高らかに男は言った。
「なぜ、貴方がここに…」
「それは、こっちのセリフだよ。なんで、逃亡中の猫ちゃんがわざわざ捕まりに来ているのさ…」
「それより、クローマはどこへ言ったんです?」
甘猫の問いかけに、プロソポンは鼻で笑う様に言った。
「あぁ、あれは幻覚魔法だよ。最初から、幻ってわけ…。もちろん、ただ呼び込んだわけじゃ無い。今回は、君たちに協力するよ」
この言動から見るに、普段は敵対する立場なのだろうか…。ただ、ろくな話じゃない気がする。
「ゲーム、やってみない?」
直球な問いかけに、二人は呆然と立ち尽くす。
「僕は、ここの施設長なんだけどさ…。ヘリオス研究所の事件にインスピレーションを受けて…、僕もああいう風な光景が見てみたいんだ」
幸せそうな顔でプロソポンは言う。それから、何かを味合うように頬を手のひらで抑えた。
「断りますっ」
れいりは、そう吐き捨てその場を立ち去るつもりだったーー。
なのに…。
次の瞬間、目の前にはプロソポンが立っていて、目が一瞬輝く。それからは、何があったのだろうか。
* * *
「頭がっ……」
一瞬ノイズのようなものが見えたような…。
「れいり様、朝です。早く起きて下さい。それに、頭って…」
目を開けるとそこに居たのは、白く長い髪がとても綺麗な美しい女性であった。
「ルミナ…? えっ、いつの間に……もう治ったの?」
「何を言っているのですか、私はずっと元気ですよ。何か変な夢でも見たのでは? それよりも、今日は大切な任務があるのですから…」
「任務って」
「もう忘れてしまったのですか?ゲート周辺および地区全体の安全整備点検ですよ」
それを聞いて、本当に長い夢でも見てしまっていたのかと思い、れいりは、布団から体を起こして、支度を始める。
支度が終わったれいりは、鐘を鳴らしルミナが迎えにくる。
そして、朝食を食べ終え、ルミナからの任務の説明、その後あとのパンがとても美味しかった。
何故、ここまで夢と同じ内容なのか、しかしここまで時間が経ってしまうと、もうどんな夢だったのかも良く覚えていない。
そして、ルミナが孤児院の子だったという話、その孤児院を目撃、その後検問所に着いてから、れいりはやっと全てを思い出す。
「ルミナ。ここは危ない、早く引き返そう!」
「何を言っているのですかれいり様……また夢の話ですか」
れいりは、ルミナを引き返そうと手を一生懸命引っ張るがびくともしない。
「違う、さっきから夢で起きたことと全部同じことが起きてるの!」
「そうなんですか。でも、これは重要な任務です。逃げられませんよ?さぁぱあっと行って、帰ってきたら美味しいパンでも一緒に食べましょう」
「本当なんだって!」
そう言ったって、れいりの力はルミナには叶わない、なんだか複雑な感情だ。
結局検問所を通らされて先ほどとすべてが一緒。それに、武力行使でなんの防ぎようもない。
あの夢の内容が、もし悪夢に作り変えられた内容だったなら…、大丈夫かもしれない。
でも、れいりが思い出せたのはあくまでも、ルミナが倒れるところまでで。その後何があったのかはよく覚えていない。
結局、結界の所まで来させられて、結界の測定という名の途轍もない頭痛まで…。
「それでは、これで整備点検は終わりです。先ほど魔物討伐もしましたので」
「知ってる」
「それも、夢で?」
ルミナの腕をれいりはガシッと掴んだ。
「ダメ、これ以上は行かないで!」
そこまで、長い時間一緒に居たわけではないが、優しくしてくれたルミナに対してとても感謝している。
それに、れいりはこの時確信していた。
「ルミナ、貴方昔どこかで…私…」
その言葉と共にれいりの目から一粒の雫が滴った。ルミナは、少し驚いたような顔をしてから、その雫を拭うように、れいりの顔にそっと手を当てて、強く抱きしめた。
その時、何か銃声のような音がした。そして、れいりは一気に床へと倒れ込む。
「ルミナ…ねぇ、ルミナがやったの?」
その銃弾は完全にれいりの下腹部を貫通しており、地面には血が広がっている。
それを避けるように、ルミナは一歩後ろへと下がった。
「えぇ、そうですよ? 貴方はいつから私を信用していたのですか?」
そう、笑いながらルミナは答える。その言葉に返事をしようとするも、傷が痛んで言葉が出ない。
下腹部に手を当てて回復魔法を発動するも、一向に回復する気配はなく…。
そのうち、意識も朦朧としてきており、視界が一気に歪み始めた。きっとこの銃弾には、ヴァンパイアを殺す薬が入っているのだろう。
ヴァンパイアなのにここまで回復が遅いとは…それ以外の理由が考えられない。
「いや、貴方はいつからセイシスト教会を信用していたのでしょうか…」
そこで、れいりの意識は完全になくなった。




