表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第一章 セイシスト教会本部孤児院

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

【第一章 - 20】静かな街

 その頃のれいりが何をしていたかといえばーー特に大きなトラブルに巻き込まれていたわけではない。

 孤児院の件も、ひとまずは調べ終えた。なので、一旦、一度宿へ戻ろうと街を歩いていた。


 サンクティアは、やはり良い街だ。

 人は多いが、酒場は少しうるさいものの、騒がしすぎず、教会関係者も忙しそうではあるが、対応は丁寧だ。

 甘猫の言っていた通りーー「一部を除けば、優しい人が多い街」である。


 そんなことを考えてた、その時ーー。

 路地の向こうを歩く、見覚えのある後ろ姿が視界に入る。


 思わず、れいりは二度見した。見間違えるはずがない。

 だが、その視界の端にーー

 黒いフードを深く被り、セイシスト教会の紋様を身につけた人物が映った。


 その瞬間、頭に嫌な予感がよぎり、胸の奥がひやりと冷える。

 甘猫が出歩くこと自体は、れいりが許可したことだ。だが、わざわざ人通りの少ない路地を選ぶ理由が見当たらない。


 れいりは即座に判断する。

 ーー屋根へ。

 音を立てないよう近くの家屋へ飛び上がり、宿へ続く最短の通路をなぞるように移動する。


 ーーやはり、いた。

 下を歩く甘猫。その少し後ろ、一定の距離を保って進むフードの人物。


「…なんで、こんな所を…」

 独り言のように呟きながら、れいりは屋根の縁から静かに飛び降りた。

「えっ、れいりさー」

 振り返りかけた甘猫の口を、れいりは素早く塞ぐ。驚きで強張るその耳元へ、息を潜めて囁いた。

「…落ち着いて。セイシスト教会の人に、尾行されてる」


 れいりは、一旦宿へ戻ろうと判断し、甘猫の手を強く握って歩調を速めた。

 その瞬間ーー

 背後から、はっきりとした足音が近づいてくる。


「…っ」

 小さく舌打ちするより早く、後ろから抑えた声が飛んできた。

「失礼。貴方は、どちら様で…私は、そこのNo.7様に用があるのですが…」

 れいりは足を止めず、視線だけを横に流す。


「そんな人知りません…ただ顔が似てる人違いじゃないですか?」

「いえ、間違いありません。登録されている魔力波形が、完全に一致しています」

 ーー面倒くさい

 れいりは、甘猫をすっと抱き上げ、そのまま屋根へ跳躍した。 


「ちょっー」

 驚きの声を置き去りにし、建物の上を疾走する。

「…なんなの、あの人。顔見知り?」

「いえ…初めて見る方です」

 甘猫は息を整えながら答える。


「きっと…私を施設へ連れ戻すつもりなのでしょう」

 そのまま宿へ飛び込むーーはずだった。

「れいり様…!」

 甘猫の声が強張る。


 背後。

 ー乾いた音。

 銃声。

 れいりは反射的に軌道をずらすが、着地の瞬間、足を取られた。

「っ…!」


 体制を崩し、屋根を転がる。

「ごめん…!」

 甘猫を下ろし、即座に収納魔法で刀を引き抜く。

「私も…足でまといにはなりません…」

 甘猫の声は震えていたが、はっきりとしていた。れいりは一瞬だけそちらを見る。

「足手まといじゃない。だからーー」


 言い切る前に、銃声が路地に反響した。れいりは刀を逆手に構え、反射的に刃で弾道を逸らす。

 金属音が火花を散らし、弾は壁に当たって砕けた。

 街中で本気で撃つなど正気じゃ無いのは定かだ。

「…本気で連れていく気だね…」


 相手は返事をしない。距離を詰める動きは、無駄なく正確だった。

 れいりは一歩引き、甘猫の前に立つ。

「甘猫、結界。私の後ろで」

「はい」

 短い詠唱。

 淡い光が二人を包み、路地の空気がわずかに歪む。

 次の瞬間、相手が踏み込んだ。

 早いーーけれど、殺気は薄い。


 殺すより、確保を優先している。れいりはそう判断し、刃を振り抜く代わりに、刀身を横に滑らせた。

 斬るわけではない。弾く、押し返すような軌道だ。

 金属と金属が掠れる音。


「チッ…」

 相手が舌打ちをする。

「なんだ。無理に連れていく気はないんだ」

 れいりは間合いを保ったまま静かに言う。

「ここはセイシスト教会の街。騒を大きくしたら、あなたの立場も面倒になるでしょ」


 一瞬の沈黙。

 その隙を、れいりは逃さなかった。

「甘猫、今!」

「ーーはい」

 甘猫の結界が一段階、強くなる。同時に、れいりは足元の魔力を解放し、屋根へ跳んだ。

「追わないでね。次は、ちゃんとやり返すから」


 れいりは後ろを振り返り下手なウィンクをお見舞いする。二人は屋根伝いに距離を取る。

 幸いなことに、背後で、追撃は来なかった。


 しばらく走り、物陰に降りたところで、れいりはようやく息を吐く。

「…はぁ、心臓に悪い」

 甘猫が、不安そうにれいりを見る。

「れいり様…大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと足やられただけ」

 冗談めかして言いながら、れいりは壁にもたれた。


 やはり、サンクティアは静かな街だけでは無いらしい…。

 でもーー

 甘猫が無事でいることだけは確かだった。れいりは刀を収め、視線を上げる。

「…一旦、宿に戻ろ。ここは、まだ長居する場所じゃない」


 甘猫は小さく、でも力強く頷いた。

「はい。れいり様」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ