【第一章 - 9】世界はただのデータに過ぎない
ゲートへと向かう途中ーー魔物とは遭遇したが、数も少なく…想定よりも早く着くことができた。
「着いたし、さっそく任務をやろっか」
れいりは軽く背伸びをした後、ふとある疑問に気づく。
「具体的に、安全整備点検ってどんなことをするの…?」
「まずはゲートの測定からですね」
「ゲートの測定?」
「はい、ゲートになにか問題が起きていないか確認するのですよ。れいり様ならゲートに触れれば分かると思いますよ。
ルミナに言われるがまま、れいりは結界に手を伸ばした。
その瞬間ーー頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
「頭がっ…痛い…」
急な大量の情報に頭はパニックを起こし、視界が揺らぐ。
「れいり様、大丈夫ですか?」
倒れそうになったれいりを、ルミナが必死に支えた。
それからしばらく時間が経ちようやく視界が安定してきた。頭が流れ込む情報に慣れてきたのだろうか。これでも、結界に含まれるほんの一部の情報なのだ。これを全て吸収したら一体どうなってしまうのだろう。
その時ーーれいりは流れ込んできた内容に愕然とした。
「これは…」
「どうかされましたか…れいり様…?」
「所々で数式が欠落していて…しかも、それを補うようにその上から別の数式がっ…」
「れいり様、それ以上は…」
ここでようやく、昨日ルミナに言われたことを思い出す。
「ごめん、なんでもないっ。異常はなかったよ…」
「分かりました。上には、そう報告します」
ルミナはどこか痛ましげな表情で、小さく胸をなでおろした。
「それでは、これで整備点検は終了です。先ほど魔物討伐も行いましたので」
「これで大丈夫なの?」
ようやく頭痛も治ってきたところで、ルミナはそう告げた。
「はい、それでは任務も終わりましたので例の場所へ...」
その言葉に、れいりはコクリと頷いた。
例の石碑はゲートからそれほど離れた場所では無かった。森の中の少し開けた空間の中央にその石碑が立っている。
「なんと書いてあるか読めますか…?」
その碑石に刻まれていた文字は古代文字。
ちょうど三大賢者セイシスト・リオンが生きていた頃に使われていたものだ。専門教育を受けていないルミナが読めないのも無理はない。
石碑の状態は、つい最近書かれたと言っても驚かない程綺麗なものである。
―この世界は、ただのデータに過ぎない。
空も、大地も、海も…いや、命すらも、一つ一つが、演算によって生成された数列に過ぎないのだ。
数は数列となり、数列はデータに、データは形あるものへと変換される。
逆もまた然り。
形あるものはデータに還り、数列に還り、数に還る。
「読めると言えば読めるんだけど…その、内容がよく分からないっていうか…」
けれど、言葉を追ううちに胸の奥がざわついた。
理解できないはずなのに、どこか知っている気がしたからだ。
「…れいり様もきっと、分かる時が来ます。その時は…子供達を、どうか…っ!?」
その時だった。ルミナは頭を押さえ、苦し気に地面に膝をつく。そして、背後の木々が不自然にざわめく。
風の流れが乱れ、空気が一気に張り詰める。
「余計なことを言うなと、忠告したはずなのですが…」




