未来はお月様だけが知っている
「お父様、お母様、行ってまいります」
「気をつけてな」
父と母が優しく微笑んでくれる。
行方不明のナルトを探しに旅に出る。
侯爵令嬢がそんな無茶をするなんてありえない事だ。
だが2人はそんな私の我儘を許してくれた。
「転生だろうと何だろうと、貴方が私達の娘である事に変わりはないわ。だから早くラーを見つけて帰って来なさい。いいわね」
「はい!」
前世の私は、幼い頃に親が死んでしまってその記憶が殆どなかった。
だから、お父様とお母様が私にとっての唯一の両親と言っていい。
除籍されたっておかしくない身なのに、二人は私の事を待っていてくれると言う。
それがすごく嬉しくて……
「やれやれ、これから出発だと言うのに泣く奴があるか」
「すいません、お父様」
両親が私を優しく抱きしめてくれる。
家族はとても温かい。
あの子――ナルトもきっとこれを求めていたのだろう。
早く見つけてあげないと。
「ペペロン王子、どうか娘の事をよろしくお願いします」
「ああ、まかせておけ」
王子がいつもの太陽スマイルで歯を煌めかせる。
結論から言うと、彼は私との婚約破棄には決して首を縦に振らず、それどころか私の旅に付いて来る事になってしまった。
普通に考えれば王族が人探しの旅に付き合うなどあり得ない事だが、どうやってか国王夫妻や兄弟王子達を説得し。
影武者に戻ってくるまでの代わりを務めさせるという力技で、その問題を解決して見せる。
「王子?本当にいいんですか?外は王宮と違って安全とは限りません」
一応最終確認はしておく。
旅に出れば危険な事に巻き込まれる可能性だってある。
私は魔法を使えるし、王子も剣の腕前は超一流だ。
大抵の事は切り抜けられるだろう。
だがそれでも絶対安全とは限らない。
「安全じゃないからこそ、君に付いて行くんだろ」
王子はウィンクを飛ばしてくる。
態度は少々軽い――けど、純粋に嬉しくもある。
魔法が使えるとは言え、小さな女の子を連れての二人旅は正直心許なかった。
だから王子が付いてきてくれるのは、本当に有難い。
「ありがとう。ペペロン王子」
因みにもう一人の同行者はナルトの従魔。
ペスト ジェノベーゼちゃん――私が名付けた。
彼女こそナルト探しのカギだ。
従魔には主を見つけ出す能力がある。
その為ナルト探索は彼女ありきと言っていい。
「王子は無しだぜ、カルボ」
「ふふ、そうね。宜しく、ペペロン」
王子なんて敬称を付けたら一発で身元がばれてしまう。
それでなくとも彼は超美形で目立つのだから、気を付けなければ。
「では、行ってまいります」
そう告げると、私と王子は窓から飛び降りた。
月の光の中、魔法の輝きが私達を包み、音も無くゆっくりと着地する。
「お待たせ。ペスト」
そう言うと、下で一足先に待っていた彼女はにっこりと微笑んだ。
彼女は言葉を話す事は出来ない。
その気になれば魔法で話せる様にする事も出来た。
だが彼女は私が生み出した従魔ではない。
下手に体を魔法で弄って、何か障害が出ても困る。
だから彼女への対応はナルトを見つけてからだ。
「じゃあ行きましょう」
そう言うとペストの手を取って私は歩き出す。
見上げる空は月が儚げに輝き、ついつい見惚れてしまう。
「君の方が綺麗だよ」
隙あらば王子は私を口説いてくる。
王子は私の肩に手をまわし、寄り添うように歩く。
旅の間、偶に魔力を籠めて殴ってくれと頼んできた変態さん。
少々きつい欠点ではあるけれど、まあイケメンだから許そう。
何故なら私は面食いだから。
「ありがとう」
そう答えて、私は彼に最高の笑顔を向ける。
王子が私の事を思い続けてくれるのなら、その気持ちを素直に受け入れるのも悪くはないと今なら思える。だが今は、ナルトを見つける事だけを考えよう。
こうして私達の旅が始まる。
この先に待つ未来。
変態王子と結ばれるのか、ひょっとしたらお互い別の相手と結ばれる可能性だってある。
先の事など誰にも分かりはしない。
それを知っているのは、きっと天に輝く美しいお月様だけだろう。




