第7話 湖畔で
相変わらずのおちゃらけた話をしていたペータの口が止まった。
ぱたり
リナが千切りかけていたパンを落とした。
「……そうか、いつかはこの日が来ると思っていたがのぅ。
明日も今日と同じ成果なら、普通の冒険者の一か月分に相当する。十分じゃのう……」
どこか達観したような口調の村長は。
「明日、旅に必要な物を用意しよう。討伐部位と魔核もすべて持っていくがいい、街のギルドで交換すれば銀貨になる。それで旅の支度を整えるとええ」
「いや、それじゃ貰いすぎなんじゃ?」
……村の儲けがないんだが?
「魔物を狩って村の安全を守ってくれたことで十分助かっとるし、干し肉は魔物のついでに狩ってくれたシカやイノシシの肉で補填すればええ、新鮮なオークの肉まで村中に振舞ってもらったんじゃ、皆感謝している。それくらい当然じゃろう」
にこにこしながら村長は語った。
「おいリョージ、お前はリナが気に入らないっていうのか?」
めずらしくぶっきらぼうにペータが口を突っ込んできた。
「や、やめてよペータ」
リナの制止の声を無視してペータは続けた。
「オレはお前がリナと結婚して次の村長になってくれたらいいと思ってる」
おい、ペータ。……あ、リナの風呂を覗かせたのってもしかしてそういうことか……?!
「やめて! ペータ! リョージとあたしはそんなんじゃ……!」
リナの声も次第に大きくなっていく。
「ごめん、ペータ。俺は自分が何にも知らないことに気づいたんだ。この国を旅していろいろと勉強して、強くなって必ずまたこの村に戻って来るよ」
リョージは真剣な気持ちでペータと向き合った。
ペータは斜め下に目をそらした。
「……そう言って村を出て行った奴らは一人も帰ってこない。次の村長に決まっていた父さんも母さんもオレたち兄妹を守るために出て行って帰ってこなかった。必ず戻るって約束したのに」
ガタリ。
席を立ったペータは、振り向きもせず食卓を出て行った。
「すまんの、リョージ。ペータも普段はおどけて明るく振る舞っているがの、両親を失ったことがかなり堪えているのじゃよ」
「大丈夫です、わかっていますから」
そう答えるしかなかった。
◇◆◇
次の朝もリナの案内で森の奥で魔物を狩る。浅い区域は狩りつくさないように気を配った。魔気の濃さに注意しながらギリギリを攻めていく。
今日も大漁だょおっ母さん。
二人で、無人の野を行くがごとく森を練り歩いた。
エルダー・トレントはめったに出てこない天災のような魔物らしいからそこまでは気を張らなくてもよさそうだ。
リナの案内で突き進み、森の奥の美しい湖畔に辿り着いた。
透き通った水面に、青空が映っている。
周囲には色とりどりの花が咲き乱れていた。
時間的に昼時だし狩りの成果も上々だ。ブドウ酒とハムチーズを挟んだパンで昼食をとることにした。
満腹になり少しお酒も入り、まったりとした空気が辺りを支配する。
「ここ、ドラゴンに殺された幼馴染と二人だけの秘密の場所だったんだ……」
リナが湖を見つめながら言った。リョージはどう返せばいいのか分からなかった。
「綺麗な場所だな」
「うん……だから、リョージに見せたかった」
「……結婚の約束してたんだ、その幼馴染と」
……男だったのか、なんか勝手に女の子かと思い込んでた。
「一生愛し合おうねって約束してたのに」
リナがリョージの方を向いた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「リョージ……明日行っちゃうのね」
「リナ……」
「昨日、リョージが絶対に守るって言ってくれたこと。すっごく嬉しかった、あたし忘れない」
リナの言葉に、リョージの胸が熱くなった。
「俺も、リナと離れたくはないよ。でも……」
「分かってる。リョージは旅に出ていろいろと勉強したいんだよね」
リナはリョージに体を寄せた。吐息が熱い。
「お願いがあるの」
真正面から見つめるリナの視線がまぶしい。
「どれだけ時間がかかってもあたし待ってるから」
「約束する。必ず戻ってくる。リナを忘れることは、絶対にない」
「うん。信じてる、だから。あたしに信じる理由を頂戴」
ぶわっとリナの体温が上がり、顔が一気に赤く染まった。
なんだ!? このシチュエーション。分からない、『信じる理由』って何だ? 理解不能! 助けて神チート。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.2β〉:システム対応外案件
対女性経験値大幅不足
チート補正不可能
※10秒後に自動アップデート開始します 更新予測時間3600秒
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?! 逃げた!
リナは、リョージの首に体を預けるように腕を回した。
リョージの体を引き落としながら潤む目で真正面からじっとリョージを見据えている。
「リョージ……」
「リナ……」
リナの熱い吐息を感じる。
リナの体に覆いかぶさるように寝ころんだ。
リナの腕に引かれるままに、リョージの唇はリナの唇に重なった。
湖畔の静かな景色の中、リョージもリナもはじめてだったけれど――互いの体温と吐息は静かに重なり合っていた。
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