第7話 湖畔で
おちゃらけた話をしていたペータの口が止まった。
ぱたり。
リナが千切りかけのパンを落とした。
「そうか、いつかはこの日が来ると思っていた。明日も今日と同じ成果なら、普通の冒険者の一か月分かの。十分じゃのう」
どこか達観したような村長の言葉だった。
「旅支度を用意しよう。討伐部位と魔核も持っていくがいい、街のギルドで交換すれば銀貨になる。それで残りの支度を整えるとええ」
「いや、それじゃ貰いすぎなんじゃ?」
村の儲けがないんだが?
「魔物を狩って村の安全を守ってくれたことで十分助かっとる、干し肉は狩ってくれた動物の肉で補填する、オークの肉まで振舞ってもらったんじゃ、村中感謝しておる。当然じゃろう」
にこにこしながら村長は語った。
「おいリョージ、お前はリナが気に入らないっていうのか?」
ぶっきらぼうにペータが口を挟んできた。
「や、やめてよペータ」
リナの制止の声を無視して、ペータは続けた。
「オレはお前がリナと結婚して、次の村長になってくれたらいいと思ってる」
おい、ペータ。
……あ、リナの風呂を覗かせたのって、もしかしてそういうことか?!
「やめて、ペータ! リョージとあたしはそんなんじゃ――!」
リナの声も次第に大きくなっていく。
「ごめん、ペータ。俺は自分が何にも知らないことに気づいたんだ。この国を旅して、いろいろと勉強して、強くなって必ず戻って来るよ」
リョージは真剣な気持ちで、ペータと向き合った。
ペータは斜め下に目をそらす。
「……そう言って村を出て行った奴らは、一人も帰ってこない。父さんも母さんも、オレたちを守るために出て行って帰ってこなかった」
ガタリ。
席を立ったペータは、振り向きもせず食卓を出て行った。
「すまんの、リョージ。ペータも普段はおどけて明るく振る舞っているがの、両親を失ったことがかなり堪えているのじゃよ」
「大丈夫です、わかっていますから」
そう答えるしかなかった。
次の朝。
リナに案内してもらい、森の奥で魔物を狩る。
浅い区域は狩りつくさないように気を配った。
魔気の濃さに注意しながら、森奥ギリギリを攻めていく。
今日も大漁だよ、おっ母さん。
無人の野を行くがごとく森を練り歩いた。
エルダー・トレントはめったに出てこない天災のような魔物で、そこまで気を張らなくてもよさそうだ。
リナと二人で、森の奥の湖畔に辿り着いた。
透き通った水面に、青空が映っている。
周囲には色とりどりの花が咲き乱れていた。
心が洗われるような風景にどこかホッとする。
時間的にも昼時だし、狩りの成果も上々だ。
二人ともピクニック気分で昼食にした。
ブドウ酒とハムチーズを挟んだパンは、最高に旨かった。
満腹になり少しお酒も入り、まったりとした空気が流れる。
「ここ、幼馴染と二人だけの秘密の場所だったんだ――」
リナが湖を見つめながら言った。
幼馴染って——ドラゴンに……。
リョージは、どう返せばいいのか分からなかった。
「綺麗な場所だな」
「うん……だから、リョージに見せたかったんだ」
「……」
「……結婚の約束もしてたんだ」
男だったのか、なんか勝手に女の子かと思い込んでた。
「一生、一緒に居ようねって約束してたのに」
リナがリョージの方を向いた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「リョージ、明日行っちゃうのね」
「リナ……」
「リョージが絶対に守るって言ってくれて、すっごく嬉しかった。あたし忘れない」
リナの言葉に、リョージの胸が熱くなった。
「俺も、リナと離れたくはないよ。でも……」
「分かってる。リョージは旅に出て、いろいろと勉強したいんだよね」
リナはリョージに体を寄せた。
吐息が熱い。
「お願いがあるの」
真正面から見つめるリナの視線がまぶしい。
「どれだけ時間がかかっても、あたし待ってるから」
「約束するよ。必ず戻ってくる。リナを忘れることは、絶対にない」
「うん。信じてる、だから——」
ぶわっとリナの体温が上がる。
顔が朱く染まった。
なんだ!?
どうしたらいいんだ?
分からない、『だから——』の後ろ何だ?
理解不能! 助けて神チート。
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……【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.2β〉:【システム対応外案件】
対女性経験値大幅不足
チート補正不可能
※10秒後に自動アップデート開始します
更新予定時間3600秒
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逃げた?!
リナは、リョージの首に体を預けるように腕を回した。
潤む目で、真正面からじっとリョージを見据えている。
「リョージ——」
「リナ——」
リナの熱い吐息を感じる。
リナの腕に引かれるまま。
覆いかぶさるように寝ころんだ。
リョージの唇はリナの唇に重なった。
湖畔の静けさの中。
二人は共にはじめてだったけれど――
互いの体温と吐息は静かに、そして激しく重なり合っていった。
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