第6話 森の脅威
ドォォォォォン!
地響きとともに巨大な影が木々の間を縫って現れた。
体長は10メートルを超えるか? 灰色の巨木。太い幹の両側から2本の腕状の枝が生えている。
「エルダー・トレント……! こんなところに? なぜ?!」
リナの顔から血の気が引いた。
「リョージ、逃げて! エルダー・トレントは普通の人間じゃ勝てない! 領主様の軍隊を呼ばないと!」
叫びもむなしく、エルダー・トレントはすでにリョージたちを敵として捕捉していた。
「ギャァァァァァオ!」
怒声とともに巨大な両腕を振り上げ、少し離れた地面へ叩きつけた。
ドガァァァン!
衝撃で地面が割れ、砕けた大地の破片が飛び散る。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.1β〉:友好関係者保護を推奨。
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「くそっ!」
考えるより先に、立ちすくんでいるリナにリョージは飛びついた。地面を転がりながら、散弾と化した土片を防具で受け止める。
「! リョージ!」
我に返ったリナはすかさず立ち上がり、ボウガンを構えて矢を放った。
カィン
だが、ボウガンの矢はエルダー・トレントの樹皮で乾いた音を立て弾かれた。
「効かない……!」
「こいつ、樹皮が硬い!」
エルダー・トレントは咆哮しながら突進し、今度はリョージを狙って枝状の腕を振り下ろす。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.1β〉:最善対応 回避
友好関係者への被弾確率76%上昇のため 非推奨
次善対応 防御 推奨
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リョージは一歩踏み込み、敢えて腕の硬い防具で受け止めた。
ズンっと重い衝撃が加わり、体が沈む。
地面を蹴って衝撃と圧力を逃がすように後方へ飛ぶ。そのまま背中から立ち木に突っ込んだ。
「ぐっ……!」
神チートの鉄壁防御に守られて痛みはないが、息が詰まり、頭の奥が痺れる。
「くそったれ!」
思わず罵声が出た。砕けた木々の残骸から身を起こしたとき――
エルダー・トレントの視線はリナに向いていた。
「リナ、危ない!」
エルダー・トレントが地を蹴った。リナに向かって突進する。
リナはボウガンを投げ捨て、後ろに向かって走り出した、思い切りがいいがそれは悪手だ。
突っ込んでくる相手と同じ方向に逃げては駄目だ。横か斜めに逃げて少しでも速度を落とさせないと。
「きゃあぁぁぁぁぁあっ!」
リーチも瞬発力もエルダー・トレントの方がはるかに上だ。
当然、リナは追い詰められていく。
エルダー・トレントは腕を振り上げた。
「リナァァァァ!」
リョージの中で何かが弾けた。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.1β〉:最優先目標を捕捉。全機能を優先解放します。
目標:対象の保護
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リョージの体が光に包まれた。
視界がスローモーションになる。
エルダー・トレントの動き、リナの表情、全てがゆっくりと見える。
思うより先に体が動いた。
エルダー・トレントとリナの間に割り込んでいた。
振り下ろされる腕を静かに見つめ。
ずんっ!
素手で受け止めた。
「ギ……!」
エルダー・トレントが驚愕の表情を浮かべる。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおお――――!」
そのまま、腕ごとエルダー・トレントを真横にぶん回し――
「りやぁあああああああああああああ――――!」
巴投げのごとく背中で地面を転がりながら後ろへ投げ飛ばした。
ドゴォォォォォン!
地面が大きくえぐれ、周囲の木々が根こそぎ吹き飛ぶ。リナの方へ破片が飛ばないように気を配ったつもりだが、うまくいったかはまだわからない。
リョージの体から光が消えた。どうやら終わったらしい。
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【スキル発動完了】
神チート〈ver.0.2.1β〉:強敵を撃破しました。
結果:エルダー・トレント(Lv.350)撃破
経験値:150,000獲得
レベルアップ:Lv.38 → Lv.43
HP:3,782/3,800 → 4,300/4,300
MP:3,800/3,800 → 4,300/4,300
【新スキル獲得】
《感情共鳴》:大切な存在への強い想いが力に変換されます
新称号獲得:【魔樹殺し】
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よろよろと立ち上がる。
見れば、エルダー・トレントの頭部は地面に埋まりピクリとも動かない。まるでマンガの世界だよ。
「はぁ……はぁ……」
息を整えながら、リナの方を振り向いた。
「リナ、大丈夫か?」
リナは、呆然とリョージを見つめていた。エルダー・トレントに睨まれた時より呆けてやんの。
「リョージ……今の……」
「ごめん、驚かせた。でも、リナを守りたくて……」
リナの目から、涙が一筋流れた。
「……あ」
やっと感情が戻ってきたのか、一筋をきっかけに両目から大河のようにとめどなく涙があふれた。
そして崩れるようにその場にへたり込んでしまった。
「あ、あ、あ、ありがとう。あた、あたしここで死ぬのかと――」
リョージは寄り添い、肩を抱きしめてやる。泣きじゃくりながらガクガクと全身が震え嗚咽を漏らす。
「大丈夫、リナは絶対に俺が守る」
リナはリョージに縋りつき、胸に顔を埋めて泣いた。
「リョージ……リョージ……あたし……」
その震える声が、胸に沁み入る。
リナの体温を全身で感じながら。リョージはあることを決心した。
リナを両手で抱きかかえながら帰り着いた時、村は一時騒然となった。だが――
「少し足を滑らせて挫いただけだから……」
リナの説明に村長もペータも胸をなでおろしていたし、リナを見捨てずに連れ帰ってきたリョージに心からの感謝の言葉を伝えてくれた。
それだけで十二分に胸がいっぱいだよ。
エルダー・トレントを倒したことは、リナと二人だけの秘密にした。
もう排除された危険で村人たちに要らない不安を与えないためと、言っても信じてもらうのが大変だからだ。
巨大なエルダー・トレントを巴投げ式バックドロップもどき一発で倒したなんて馬鹿げた話誰が信じる? 俺なら信じない。
リナもエルダー・トレントの討伐部位は分からないと言っていたので、まるごと無限収納に収めてある。
だから証拠として魔核を見せることもできない。無限収納は一応村人にも秘密にしておこうと思うので、死骸もやっぱり見せられない。
それ以外の収穫だけでも昨日の倍近くはあったので村長たちも十分に満足してくれた。
村長宅で皆と夕食を囲んだ時、昼間リナを抱きしめたときに決心したことを村長に告げた。
「……村長、明日もう一日魔物を狩ったら、明後日には村を出ようと思っています」




