第62話 うららかな日々
うららかな日差しを浴び。
やわらかなベッドの上でリョージは目を覚ました。
傍らですやすやと寝息を立てている幼子の頬を優しくなでる。
「おはようジーナ」
起こしてしまわないように気を配りながら小声で我が娘にささやく。
身支度を整えダイニングキッチンへ向かうと、妻のリナが二人の赤ん坊を抱えおっぱいを吸わせていた。
「あー。おはよーリョージ」
「うん、おはようリナ。リョーシア、フリージもおはよう」
んくんくと無邪気に乳を吸う赤青の髪と蒼い肌二人の赤ん坊、そしてリナをまとめてハグする。
リナの大きいお腹の中で順調に育っている生命も含めれば4人まとめてハグだ。
「すぐオッパイ張っちゃうからリョーシアとフリージが居てくれて助かるわー」
子供たちを見やるリナママの幸せそうな表情を見るとリョージも胸の底がホカホカと暖かくなる。
この赤ん坊たち、同い年の兄弟にして叔父と姪でもあるという複雑な関係なんだが、10人の異母兄弟に囲まれているのだから今更である。
あと3人増えることも確定しているし。
ゼヴィママとサラママはフリママとシャンママに護衛されながら、隣国たちへ恫喝外交——でなく和平交渉行脚に勤しんでいる。
まぁ隣国同士を戦わせて共倒れになったところを、漁夫の利で食い荒らそうと画策していた連中である。同情の余地なぞ微塵も無い。
この世界の最強戦力と自他ともに認める魔王を下したうえ、双方共に戦力的被害がほとんどなかったルミナス人魔連合王国。
ウチと戦って勝てる国家なぞこの世界にはもはや存在しない。
連合という名の併合圧力を次々と受け入れ、連合王国の版図は超古代魔導帝国に近づきつつある。
力は平和を作るのだ。
卵焼きをおかずにおにぎりとみそ汁の朝食をすませる。
本日もお仕事の始まりである。
グリーンフィールドの広大な敷地に広がる巨大倉庫群の中には、本日の運搬コンテナがギッシリと並んでいる。
「リョージ!」
帳簿を持ったベルタが声をかけてきた。
「イーストランチャー村でコメをもっと欲しいって言ってたぞ」
「あー……供給が追いつかないんだよなー」
イスラの実はリョージの出身地での名称に倣って、『コメ』と呼ばれるようになった。
グリーンフィールドのトレント節も需要拡大中だけれど、コメ不足はもっとひどい。
倉庫内のコンテナを無限収納に格納し、サクサクと空のコンテナを並べる。
倉庫の外に出ると目の前にはトレントスプライトの植わった畑が広がっている。
森のトレントが枯渇する前に広大な草原を使ってトレントの養殖を始めたのだ。
将来的にグリーンフィールド村はトレント節の一大産地になるだろう。
「あっ、リョージさん。おはようございます」
インキュバスのルザクが声をかけてきた。
「おはよう、ルザク。今日はキューバスにも立ち寄るけどなんかある?」
「キューバス向けコンテナ便に家族あての手紙を入れてありますので、それで大丈夫です」
キューバスでは本気の殺し合いをした仲だからな。
今では英雄リョージと本気の一戦交えたことある勇者として、皆の尊敬を集めているのだそうだ、世の中どうなるかわからんもんだな。
しばらく世間話を楽しんでから転移スキルを使った。
「リョージさん、お疲れ様です」
転移先の商都リベルタで待ち受けていたのは。
「おはようございます、カイザール・ヴィスグラーフ・ツー・リベルタ総督」
いつものお約束通り、新しいフルネームで呼ばれたカイルが苦笑いをして迎える。
「総督の器ではないと毎日冷や汗三斗の思いですが、毎回呼ばれるとさすがに慣れてきましたね」
はにかみながら答えた。
カイルの脇に立っていたサキュバスの女性がリョージの差し出した伝票を受け取り帳簿と対照しながらコンテナを確認していく。
「旧国王派はあらかた粛清されてしまったからね。ルーシー派の貴族はどんどん増えて貰わないと」
新魔王位を継承したゼノヴィアが王女ルーシーと共にルミナス王国国王を訪問し、和平を持ちかけた際、アホの国王は魔族領の属国化とゼノヴィアの側室入りを要求。
生まれた子供に魔族領を継がせるのだとのたまった。
自分が和平を求めた時には娘を差し出したのだから、今度は同じ条件を求めるという手間勝手なクソ理屈。
一瞬にしてブチ切れたリョージを制しながら。
静かな狂気を携えたルーシー王女は、その場で国王に禅譲を促し王位を簒奪。
『魂の盟友に舐めたことぬかす阿呆はコ○す』
ピキリとこめかみに青筋立てながら、にこやかな微笑みから漏れ出すルーシーの迫力に、リョージも一瞬キャン言いそうになった。
当時王女派はまだまだ少数派だった。
極めて短期間のうちにゼヴィノアの転移を駆使し、リョージや魔族の嫁たちを引き連れ国王派貴族たちの元へ、OHANASIという名の脅迫——説得行脚を行った。
平和裏に()多くの賛同もしくは当主のすげ替えにより王国の分裂を防いだものの。
すでに他国の調略を受けていた貴族たちは、ルーシーの王位簒奪に異を唱えた。
そういう彼らには身一つで周辺国家に強制的に亡命していただいた。追放とも言うかもしれない。
拉致っておいて行きたい外国を指名させ、ゼヴィノアが該当国の王宮に放置してくるという簡単なお仕事だった。
調略数に応じて諸外国にはねんごろに和平の使者(コワモテ魔族一万)を送らせて貰い丁寧な交渉を行ったものである(棒)。
その結果、虫食い状態となってしまった王国内領地へ信用のおける王女派を加増転付し、何とか回しているのが王国の現状である。
「今日のコンテナには香辛料を多めに入れてあります、各地から増産を急かされておりましてうれしい悲鳴をあげております」
カイルの満面の笑み。本来こういうのが似合うんだなと思う。
香辛料は言わずと知れたカレーの原材料になるのだ。
通商が爆発的な活発化をみせており、特に食材を輸出している国家などは新生ルミナス人魔連合王国への輸出により、好景気に沸き上がり同盟を結んだことを感謝していることだろう。
「ときに、トレント節、コンブ、ワカメ、シイタケなどの出汁食材の国外需要が加速的に増加しています。各生産拠点にハッパをかけてもらえると助かります……」
控えめに進言してくるが、カイルの目が金貨みなっているような幻覚が見える。
外貨を稼ぐのにはうってつけなんだが、生産拠点もフル回転以上に回しているのである。
「大変だと思うけど隣国との経済活動の活発化は平和外交の第一歩だからな、頑張ってくれよ」
「いえいえ、昇爵して広大な侯爵領を改めて統治しなければならない父と兄や、期せずしてノルトヴァルトを治めることになった叔父に比べれば、まだまだ……」
苦労をねぎらうリョージにカイルは微笑んだ。
◇◆◇
妻たちと共に魔王を斃したときに得た転移のスキルは本当に使い勝手がいい。
ゼヴィノアに外交を任せてリョージは国内の流通を一手に担うことができた。
もちろん並行して物資の流通網の整備も進めているが、当面はリョージの無限収納と転移のコンボがなければ国内が回っていかない。
ノルトヴァルト領都ルミナスで新伯爵となったヴァルター・マルクグラーフ・フォン・ノクトヴァルト。
およびその補佐役として活躍している元リベルタの冒険者ギルド長グレン・バルガ新子爵の見送りを受け向かった先は魔王との決戦の地。
今は『命の大地』と呼ばれる大水田地帯へと転移した。
「きたねリョージ、リョーリァはパパを待ちくたびれて寝てしまったよ」
コンテナ入れ替えの最中に、リリアがすやすやと寝息を立てるリョーリァを抱きやってきた。
最近言葉を覚え、活発に歩き回るようになったエレージの手を引いている。
「ただいま、エレージ。リョーリァもただいま」
三人まとめてハグだ。こらリリアどさくさで舌絡めてくるのやめなさい。
「エレナは今日も北の山裾のため池で陣頭指揮取っているよ。会っていく?」
「もちろん」
安心の完結保証付きです。
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