第61話 万象流転
「まてよ!」
「な?!」
娘と魔王の間にするりと滑り込んで来た人影があった。
「そういうことは、ちゃんと本人の前で言え」
「停止した時間の中を、なぜ動ける?」
額に脂汗を浮かべながらリョージは歯をむき出しにして笑っていた。
「ど根性?」
「…… お前、半分この世界の理の外にいるな?」
ふらふらと魔王の正面に立ちはだかる。さすがに自由には動けないらしい。
コンマ数秒でも長くゼノヴィアを守るという決意がひしひしと伝わる。
「よかろうその理不尽ごと粉砕してやろう」
語尾が震えていることに魔王自身が気が付いたかどうか。
全身全霊を込め煌鎧殻ルクス・アルマトゥーラの拳は振り降ろされた。
迫りくる死の前にリョージは目を瞑った。
——心の奥底から湧きあがってくるこの力は。
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【スキル発動】再構築完了:おまたせしました
神チート→ॐ(AUM-オーム-)神チート
Lv.237 → Lv.588
HP:28/23,700 → 588,000/588,000
MP:7/23,700 →588,000/588,000
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何? このぶっ壊れ。チート?
完全なる死を纏った、白銀に輝く煌鎧殻ルクス・アルマトゥーラの拳を受け止めたリョージの掌が白金の光を放つ。
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【スキル発動】
夜鎧殻ノクス・アルマトゥーラ
↓
神鎧殻ॐ(AUM-オーム-)・アルマトゥーラ
顕現
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…
……
………
次に人々の意識が知覚し得たのは。
白銀と白金の鎧殻が会い向かいに並び立つ姿だった。
「ゼノヴィア! 皆を安全圏に!」
リョージの声にゼノヴィアは我を取り戻した。
「リョージ?!」
「行こう、リョージの邪魔になる」
ザーラがゼノヴィア声をかけ、サラも頷いた。
女たちが退がるのを待って、魔王ヴァルゼノスは叫ぶ。
「いくぞ、リョージ」
「……はい!」
二つの輝きがぶつかり合い、離れ、またぶつかり合った。
天が裂け、大地は割れた。
岩は砕け、樹々山々はなぎ倒された。
人族と魔族の領地境界に横たわった広大な荒野は、みるみるうちに地形を変えていった。
いつの間にか魔王軍の進軍も自然に停止していた。
ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ!
「リョージ……」
破損した煌鎧殻ルクス・アルマトゥーラの頭部から露出した半顔に、濃い疲労を湛えた魔王は言った。
「もう、何度も打ち合うほどの力は残っていないな」
神鎧殻ॐ(オーム)・アルマトゥーラも自己修復が破損に追い付いていない。
「ならば……次で——」
「——終わりにしよう」
「ふぅおおおおおおおおおおおおおお!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
二人ともに右腕に魔力を集中させる。
キュゥイイイイイイイイイイ!
囂々と空間がうねり、信じられないほどの濃密な二つの魔力が渦巻いていく。
双方共に魔力充填120%超。
鎧殻腕部からキラキラと輝きの結晶が漏れ出している。
「すまんなリョージ! これも古代魔族鎧殻の権能の一つよ! 煌鎧殻自身を魔素分解し一撃の破壊力を数十倍に拡張する一発芸!」
まんまと乗せられた?!
「あらゆるものの終わりを告げる皇帝の拳——」
煌鎧殻が砕け散り、キラキラと輝く欠片が魔王の右腕に集結する。
タメは足りないがリョージも渾身のパンチで迎え撃つしかなかった。
「うぉおおおおおおおおお! 」
「万象終焉・煌帝拳!」
「万象流転・ॐ(AUM-オーム-)・インパクト!」
同時に繰りだされた右腕は絡み合うように交差する。
——すべてが解放された。
フッ——と意識が回復した。
立っているのがやっとのありさまだ。
眼前のリョージを見た。
ファイティングポーズのまま完全に意識を失っていた。
でもまだ立っている。
——恐ろしい。
魔王は生まれて初めて己の他の存在に恐怖を感じた。
(ここで禍根を絶たねば、次には勝てない)
そう確信した。
(こんな娘婿を迎えられたのであれば、魔族の行く末も安泰であったろうに)
万感を胸に、血を吐く思いでリョージの首に手刀を——
リョージから、いや。
リョージの背後で膨らんでいく膨大なエナジー!
魔王は気づいた。
(まだ——終わっていなかった!)
背後からリョージの体をすり抜け、女狩人のエナジー体が飛び出してきた。
半透明のエナジー体はヴァルゼノスに向かって飛翔しながら身長の三倍ほどの攻城弩を振りかぶり。
——殴った。
(射つんじゃないのか——?!)
気力も体力も尽きていたヴァルゼノスは避け切れない。
女狩人が通り過ぎた後。
ヅカヅカと足を踏み鳴らし、歩み寄ってきたギルドの制服を纏った受付嬢が——。
スパァアーーン!
——分厚い帳簿で魔王の頭をしこたま殴りつけた。
くらり。
ヴァルゼノスの意識が遠くなった。
パンパン!
手を打ち鳴らしながら陽気な音楽とともに踊りながら近寄ってくるのは。
妖艶なる酒場の踊り娘――。
気を取られた瞬間。
ぐぎいぃ!
尖ったヒールが魔王の足の甲に突き刺さっていた。
——!
地味に痛い!
涙目のヴァルゼノス。
さわり。
片手で魔王の頬をやさしくなであげる。
ぶうゎあぁっ!
口から霧のような火酒の飛沫がヴァルゼノスの顔面に吹きかけられ両目を塞がれた。
反対の手から振り降ろされた酒瓶が、ヴァルゼノスの脳天で砕け散った。
「が……ぁ!」
度の強い火酒に目を焼かれ、膝がくじけそうになったヴァルゼノスの耳に馬のいななきが聞こえる。
パカラ! パカラ! パカラ!
女騎士の乗った重装軍馬の突進。
パカァアーーン!
蹄で跳ね飛ばされた。
空から大地にたたきつけられた魔王のもとに。
ふわり。
天から深紅の唇のサキュバスが舞い降りた。
艶やかに舞いながら手に持った短い魔杖を振る。
ズドン!
中空から突然降ってきた巨大な掌に、魔王は押しつぶされた。
ぐぎゅ——
踏み潰されたカエルのような声が漏れた。
めきめきと周囲の地面が割れ地中へ沈み込んでいく魔王の身体。
ボンッ!
いきなり全身が炎を上げる。
「あちぃっ!」
飛び上がった魔王を襲う瞬間冷凍。
赤と青の魔人の傍らにたたずむ魔王四天王の一人【氷】
にっこりと笑いながら巨大な氷の盾を振りかぶり。
ガキィイン!
魔王は吹っ飛ばされた。
もんどりうって転がる魔王に。
どんどよよん。
胡乱な雰囲気で数多の死霊たちが襲い掛かる。
魔王の体をすり抜けるたびに、地味に貫通ダメージを与えていく。
もう、立ってなどいられなかった。
けれど倒れ込むこともできなかった。
「切り捨て御免!」
ルミナス王国王女ルシアンナ・ディア=ルミナセリオンのエナジー体は渾身の魔力を込めた魔法剣で魔王の体を逆袈裟に切り上げた。
——!
もう、魔王ヴァルゼノスには、1ミリも気力は残っていなかった。
目の前に朧に浮かび上がったゼノヴィアのエナジー体にひれ伏し、懇願した。
「我の——負けだ。魔王の全権を、お前に禅譲する——」
「——いいえ、お父様は『ここを切り抜ければ起死回生のチャンスがある』とお考えですね?」
ドキリ。と、魔王の心臓が鳴った。
「いや、違う! そんなことはない! 断じて!」
「それでは皆様、魔王ヴァルゼノス陛下が本心から降りたいと思うまで——、無限お替りを所望します!」
ゼノヴィアのエナジー体は女狩人に姿を変え、バリスタを振りかぶり——。
————イヤア……
——ァァ……
魔王ヴァルゼノスはこのとき初めて、生まれてきたことを後悔したという——。
安心の完結保証付きです。
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