第63話 行け、リョージ!
三人を連れてエレナの近くへ転移した。
「よお、エレナ。頑張ってるな」
「リョージ、昨日ぶり!」
魔王との戦いの影響で地下の岩盤にでも変化があったのか。
魔族領と人間領の間に横たわっていた広大な荒地は、戦闘の余波で細かく砕かれた大地とこんこんと湧き出した地下水によって一大田園地帯へと変わった。
灌漑施設などを整備して、きちんとした水田になっているのはまだほんの一部だ。
だが、もともと温暖な気候のおかげで二期作、二毛作などが可能なことが分かった。
新王国の貪欲な胃袋を根底から支えてくれる穀倉地帯となってくれることを期待している。
「みんなーリョージが来たぞー。一時休憩にしよう」
泥だらけ汗だくになっているオークやオーガたちと人間が、手を取り合って田んぼを開墾している姿はどこかシュールだ。
程よく冷えた麦茶を無限収納から出して皆にふるまった。
エレナと水路の構造についてしばしの意見交換。
作業に参加している者たちから活発に発言が飛び出してくる。
いい傾向だ。人も魔族もなく、皆自分の事として真剣に取り組んでくれている。
このまま進んでいけばこの国は間違いない。
「……とうさま」
にこにこと議論を聞いていたリョージに、エレージがおずおずと話しかけてきた。
「きょうはおしろにいきますか?」
「うん、キューバスの後に行くよ」
「ぼくリョシアンにいさまにあいたいです」
エレージの頭を微笑みながら撫でてやった。
「エレージは本当にリョシアンが好きなんだね、いいよ一緒に行こう」
「うん、リョシにいさまやさしいからすき」
朗らかに笑うエレージを抱きしめてやりたくなった。
◇◆◇
「お帰りリョージ」
アグレシアとザーラは二人でキッチンに居た。
この二人が肩を並べて料理をしているのだ。信じられるかい?
エレージを連れているので二人とは軽いスキンシップにとどめておく。
エレージはベビーベッドの柵の間からザージョの手を握ってあいさつしている。
ザージョも嬉しそうだ。
リサラはおねむの時間らしい、ザージョの横でスヤスヤと寝息を立てている。
「ルーシーは魔王様のところ?」
「うん、またどこかの阿呆国家が悪あがきしているみたいでね。リョシアンとリョノアとシャンジも一緒だよ」
「了解、ありがと」
エレージと共に魔王の間に向かうと、リョシアンが魔王の書を開いて問答を交わしている最中だった。
「いらっしゃいませ父上、よくきたねエレージ」
年齢に見合わぬ理知的な視線で、リョシアンはリョージとエレージを迎えた。
『おおリョージ。昨日ぶりだな。エレージもよく来た』
「おじいさま。ごきげんよう」
開いた分厚い百科事典のような本のページの中から、魔王(元)ヴァルゼノスが言葉を投げかける。
「紅茶を用意してくるよ」
「ありがとうルーシー」
軽く頬を寄せ合い挨拶を交わしたルーシーは、茶器を収めたサイドボードへ向かった。
リョージは両手を差し出してきた黒い二本角の娘リョヴィアを抱き上げた。
リョヴィアを守るように全身に包帯を巻いた黒いローブを羽織ったシャンジがふよふよと宙に浮いている。
「リョシアン、あまりお爺様に無理難題はふっかけないでくれよ?」
「判っています父上」
にこやかに微笑むリョシアン。
『おいおいリョージ、孫の相手は封印された爺の唯一の楽しみだぞ? 水を差さないで貰いたい』
本のページの中で前魔王陛下は憤慨していた。
『本心から降参したというにゼノヴィアめに「信用できないから」とに封印の書に閉じ込められた上、そのまま異次元回廊に捨てられるところであったものを、ルシアンナ(ルーシー)殿の助命により200年の封印だけで済んだのだ。もう少し労ってほしいものだが』
「じいじ、ままのわるくち。キライ」
プイッと頬を膨らませたリョヴィアにくぎを刺された。
『む、リョヴィア違うぞ。じいじはなぁ——』
孫娘にたしなめられる最強魔王の図——である。
ティーカップをたずさえて来たルーシーは微笑みながら。
「あの時……魔王陛下は私のことを拘束し、一方的に葬り去ることもできたはずなのに、あえてリョージとの戦いを承諾し私にチャンスを与えてくださった。ご厚情いくら感謝しても足りません」
何度となく交わされる感謝の言葉に、本の中の元魔王閣下は照れ隠しなのだろうか、ポリポリと頬を搔き目線を逸らしながら言った。
『いや、あの時は……素直に「リョージと手合わせしてみたかった」というのが本音でな……』
「ふふ……おじい様もその様なお顔をなさるのですね」
大人びた表情のリョシアンが義祖父と母との会話を、眩しそうに眺め微笑む——。
突如——
一天にわかにかき曇り。
【この世界に住まうすべての住民に告ぐ】
家族団らんともいえる情景に水を差す、美しくも嫌悪を煽る声が皆の頭の中に響き渡った。
【今、全天に私の姿を映している。尊顔を拝みたくば天を仰ぐがよい】
全員テラスへ飛び出した。
魔王様封印の書はえっちらおっちらリョシアンとエレージが運んでいる。
リョージたちが見上げた天空には煽情的な鎧兜を身に着けた、美しき女騎士の姿が投影されていた。
【私は隣接世界の支配者ウーフ・ザーマッハ皇帝が十姫騎の一人。帝姫シーオ】
……。
【こちらの世界の全住民に告ぐ。只今この時をもってこの世界の全てはザーマッハ帝が支配した】
はぁ?
【気に入らぬという者があれば、我ら10人の帝姫騎とその軍勢が相手になろう。いつでも立ち向かってくるがいい】
一方的に勝手なことを言っている。
【反逆者全員を返り討ちにすれば、必然この世界はザーマッハ帝のものとなる、簡単な仕事である。くりかえす、この世界に住まうすべての住民に告ぐ——】
ちらりと横をみればルーシーが天を見つめながらため息をついた。
『このクソ忙しい時期にめんどくさいのが現れやがって』
とでも言いたげに、渋い不機嫌顔を隠していない。
「リョージ!」
不意に背後に気配が現れ、ゼヴィノアの声が上がった。
サラ、フリーゼ、シャンドゥを引き連れて緊急帰還したらしい。
「首尾は?」
どこかのほほんとしたルーシーの問いにゼヴィノアが答えた。
「まあまあね。パルテミス王国もこの映像を見せられて危機感を煽られたんでしょう。こちらの要求をすべて飲んで同盟を許諾したわ、こちらも時間が惜しかったから条件の吊り上げはしなかったけれどね」
政治首脳陣のえぐい会話は聞き流しておこう。
——神チート。
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【スキル発動】:スタンバイOK
ॐ(AUM-オーム-)神チート
Lv.923
HP:923,000/923,000
MP:923,000/923,000
スキル:
《言語理解》
《無限収納》
《魔法適正:ALL》
《感情共鳴》
《超回復》
《インヴィジビリティ》
《竜鱗化》
《魔力増幅》
《ダークネス・リザレクション・キラー》
《炎無効》
《雷無効》
《転移》
称号:
《両国の英雄》
《万象無双》
※神チートはAI制御のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
_______________________
——さて。
リョージの口元にニヤリと笑いの形が浮かんだ。
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
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