第63話 行け、リョージ!
三人を連れて転移した。
「よお、エレナ。頑張ってるな」
「リョージ、昨日ぶり!」
魔王とリョージの戦いで地下深くの岩盤が割れたらしい。
砕かれた大地にこんこんと地下水が湧き出した。
魔族領と人間領の間に横たわっていた広大な荒地は、一大田園地帯へと変わった。
灌漑施設を整備し、きちんとした水田になっているのはまだほんの一部だが。
もともと温暖だった気候のおかげで二期作、二毛作が可能なことも分かった。
新王国民の貪欲な胃袋を、根底から支えてくれる穀倉地帯となってくれることを期待している。
「みんなー、休憩にしよう」
泥だらけ汗だくになって働いているオークやオーガたち。
魔物と人間が手を取り合って田園を開墾している、どこかシュールな風景だ。
程よく冷えた麦茶をふるまった。
灌漑用水路の構造についてしばしの意見交換。
作業に参加している者たちから活発に発言が飛び交った。
いい傾向だ。
人も魔族もなく、皆自分の事として真剣に取り組んでいる。
このままいけば、この国の未来は間違いない。
「とうさま」
にこにこと議論を聞いていたリョージに、エレージがおずおずと話しかけてきた。
「きょうはおしろにいきますか?」
「うん、キューバスの後に行くよ」
「ぼくリョシアンにいさまにあいたいです」
微笑みながらエレージの頭を撫でてやった。
「エレージは本当にリョシアンが好きなんだね、いいよ一緒に行こう」
「うん、リョシにいさまやさしいからすき」
朗らかに笑うエレージを抱きしめたくなった。
「お帰りリョージ」
エレージを連れて魔王城に転移すると、アグレシアとザーラは二人共にキッチンに居た。
この二人が肩を並べて料理をしているんだぜ?
信じられるかい?
今日はエレージ連れなので二人とは軽いスキンシップにとどめておく。
エレージはベビーベッドの柵の間から、ザージョの手を握ってあいさつしている。
ザージョも嬉しそうだ。
リサラはおねむの時間らしい、ザージョの横でスヤスヤと寝息を立てている。
「ルーシーは魔王様のところ?」
「うん、まだどこかの阿呆国家が悪あがきしているみたいでね、その相談。リョシアンとリョノアとシャンジも一緒だよ」
「了解、ありがと」
エレージと共に魔王の間に向かう。
「いらっしゃいませ父上、よくきたねエレージ」
年齢に見合わぬ理知的な瞳で、リョシアンはリョージとエレージを迎えた。
リョシアンは魔王の書を開いて、元魔王様と問答を交わしている最中だったようだ。
『おおリョージ。エレージもよく来た』
「おじいさま。ごきげんよう」
大きく分厚い百科事典。
その開かれたページの中から、挿絵の元魔王様ヴァルゼノスが語りかける。
ダークブラウンだった髪も髭も真っ白になってはいるが。
「紅茶を用意してくるよ」
「ありがとうルーシー」
軽く頬を寄せ合い挨拶を交わす。
リョージは両手を差し出して歩いてきた二本角の娘、リョヴィアを抱き上げた。
全身に包帯を巻いたシャンジは黒いローブを羽織り、リョヴィアを守るようにふよふよと宙に浮いている。
「リョシアン、お爺様にあまり無理難題はふっかけないでくれよ?」
「判っています父上」
にこやかに微笑むリョシアン。
『おいおいリョージ、孫の相手は本に封印された退屈爺の唯一の楽しみだぞ? 水を差さないで貰いたい』
百科事典のページの中で、前魔王陛下は憤慨していた。
『本心から降参したというにゼノヴィアめ「信用できないから」と封印の書に閉じ込た上「次元回廊に捨てよう」などと……。ルシアンナ(ルーシー)殿の助命が無ければ未来永劫回廊を彷徨う所だったわ。もう少し労ってほしいものだが』
「じいじ、ままのわるくち。キライ」
プイッと頬を膨らませたリョヴィア。
『む、リョヴィア違うぞ。じいじはなぁ——』
孫娘にたしなめられる最強魔王の図。
紅茶のトレイを持ったルーシーは微笑みながら。
「あの時、魔王陛下は私たちを一方的に葬り去ることもできたはずでした。なのにリョージとの戦いを承諾しチャンスを与えてくださった。ご厚情いくら感謝しても尽きるものではありません」
幾度となく聞かされる感謝の言葉に、本の中の元魔王様はポリポリと頬を搔き、目線を逸らしながら言った。
『いや、あの時は――素直に「リョージと手合わせしてみたかった」というのが本音でな』
「ふふ、おじい様もその様なお顔をなさるのですね」
大人びた表情のリョシアンが義祖父と母との会話を、眩しそうに眺め微笑む。
そのとき。
一天がにわかにかき曇った。
【この世界に住まうすべての住民に告ぐ】
美しくも嫌悪を煽る声が、直接頭の中に響き渡る。
【今、全天に私の姿を映している。尊顔を拝したくば天を仰ぐがよい】
全員テラスへと飛び出した。
元魔王様を封印した書物は、えっちらおっちらとリョシアンとエレージが運んでいる。
リョージたちが天空を見上げると。
空いっぱいに投影されていたのは。
煽情的な鎧兜を身に着けた、美しき女騎士の姿だ。
【私は隣接世界の支配者ウーフ・ザーマッハ皇帝が十姫騎の一人。帝姫シーオ】
……。
【こちらの世界の全住民に告ぐ。只今この時をもってこの世界の全てはザーマッハ帝が支配した】
はぁ?
【気に入らぬ者があれば、我ら10人の帝姫騎とその軍勢が相手になろう。いつでも立ち向かってくるがいい】
勝手なことを言っているねぇ。
【反逆者全員を返り討ちにすれば、必然この世界はザーマッハ帝のものとなろう、簡単な仕事である。くりかえす、この世界に住まうすべての住民に告ぐ——】
ちらりと横をみれば。
ルーシーが天を見つめながらため息をついた。
『このクソ忙しい時期にめんどくさいのが現れやがって』
とでも言いたげに、不機嫌な渋顔を隠しきれない。
「リョージ!」
不意に背後に気配が現れ、ゼノヴィアの声が上がった。
サラ、フリーゼ、シャンドゥを引き連れて緊急帰還したらしい。
「首尾は?」
どこかのほほんとしたルーシーの問いに、ゼノヴィアが答えた。
「まあまあね。パルテミス王国もこの映像を見せられて危機感を煽られたんでしょう。こちらの要求をすべて飲んで連合入りを承諾したわ、時間が惜しかったから条件の積み増しはしなかったけれどね」
政治首脳陣のえぐい会話は聞き流しておこう。
久しぶりに行くか——神チート!
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【スキル発動】:スタンバイOK!
ॐ(AUM-オーム-)神チート
Lv.923
HP:923,000/923,000
MP:923,000/923,000
スキル:
《言語理解》
《無限収納》
《魔法適正:ALL》
《感情共鳴》
《超回復》
《インヴィジビリティ》
《竜鱗鎧》
《魔力増幅》
《ダークネス・リザレクション・キラー》
《炎無効》
《雷無効》
《転移》
称号:
《双国の英雄》
《万象無双》
※神チートはAI制御のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
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リョージの口元にはニヤリと笑いの形。
——さて、と。
Fin.
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
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