第56話 異端の冒険者
魔王の声は穏やかだ。まるで師匠が弟子に稽古をつけているかのような口調。
リョージは歯を食いしばって立ち上がる。
このままじゃ……一方的にやられるだけだ……!
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.2.1νἀⅲ〉:緊急事態観測
左腕装甲破損。修復不可
※アルマトゥーラを解除し修復モードに移行してください
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くそ……一撃でこれかよ……!
「いくぞ、リョージ!」
魔王が再び踏み込んでくる。今度は正面から。
リョージは横に跳んで回避——したつもりだった。
「甘い」
魔王の軌道が瞬時に変わる。リョージの回避先を読んでいた。
「ぐあっ!」
脇腹に拳が突き刺さる。装甲が悲鳴を上げた。
体が「く」の字に折れ曲がり、再び吹き飛ばされる。
地面に倒れ込み、苦痛で呼吸が乱れる。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.2.1νἀⅲ〉:警告
右側面装甲破損。修復不可
HP:8,591/17,800
MP:10,725/17,800
※アルマトゥーラを解除し修復モードに移行してください
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速さも、力も、技術も……全部上だ……!
「起きろ、リョージ。まだ立てるだろう?」
魔王の声が響く。挑発ではなく。純粋な問いかけだ。
——クソ脳筋が。
リョージは震える体に喝を入れ起こす。小刻みに視界が揺れ、投影映像にノイズが走る。
(……ここで倒れたら……ルーシーが……!)
ルーシーの顔が脳裏に浮かぶ。
(俺が……守るって……言ったんだ……!)
リョージは立ち上がった。ふらつく足に気力を込める。
「そうだ、いいぞ」
魔王が微笑んだ。楽しんでやがる。
撃ち負ける
「だが、立つだけでは勝てんぞ」
再び魔王が踏み込む。
守ったら撃ち負ける。
「うおおおおおおおおおおお!」
今度はリョージもカウンター気味に反撃に出た。
右拳を繰り出す。魔王は軽く体を逸らして避ける。
リョージは続けて左のフックを放つ——が、まだ左腕は痺れている。動きが鈍い。
魔王は右手で軽く受け流し、同時に左拳をリョージの顔面に叩き込んだ。
「がっ……!」
頭が揺れる。視界が一瞬真っ白になった。
そのまま膝が折れ、地面に片膝をついた。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.2.1νἀⅲ〉:警告
頭部装甲損傷。修復不可
HP:5,736/17,800
MP:9,265/17,800
※アルマトゥーラを解除し修復モードに移行してください
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くそ……攻撃が……当たらない……!
魔王はリョージの前に立ち、腕を組んだ。
「お前は強い。ボルガやジョーエンを倒しただけのことはある」
魔王の声は静かだった。
「だが、私とお前の間には決定的な差がある。それは——経験だ」
魔王が右手を掲げる。純白の手甲に膨大な魔力が集まっていく。
「私は数百年を生き、無数の戦いを駆け抜けてきた。お前がどれだけ才能があろうと、一朝一夕にこの差は埋まらん」
リョージは歯を食いしばる。
わかってる……わかってるよ……!でも……負けられねぇ。
「——」
魔王の表情が少し和らいだ。
「まだ諦めていないな。その頭の悪さ、嫌いではない」
脳筋バンザイ! 魔王が手を下ろす。莫大な魔力が霧散した。
「もう一度チャンスをやろうか。お前の全力を見せてみろ、リョージ」
リョージは荒い息を無理やりに整えながら立ち上がった。膝が震えている。
……そうだ……まだ……!
ノクス・アルマトゥーラに残された魔力を全て右拳に集中させろ。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.2.1νἀⅲ〉:警告
HP:5,736/17,800
MP:9,173/17,800
全魔力を右腕に集約。装甲維持限界を超過します
※アルマトゥーラを解除し修復モードに移行してください
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構うか……! これで終わりだ、全部出し切る……!
リョージの右腕が漆黒の光を放ち始める。装甲が軋み、ひび割れていく。
「ほう……自壊覚悟か。良い目だ」
魔王も再び右拳に魔力を集め始める。
純白の輝きが膨れ上がる。
二人は同時に踏み込んだ。
「うおおおおおおおおおおお!」
「来い、リョージ!」
拳と拳がぶつかり合う——
ドゴォォォォォン!
衝撃波が周囲に広がり、地面が砕け、土煙が舞い上がる。
そして——
バキィ!
ノクス・アルマトゥーラの右腕装甲が砕け散った。
「——っ!」
余波を受けリョージの体は後方に吹き飛んだ。
地面を何度も跳ねて転がり、ようやく止まった。
全身の力が抜けていく。
もう立ち上がれない。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.2.1νἀⅲ〉:警告
HP:28/17,800
MP:52/17,800
全装甲機能停止。維持不可能
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ノクス・アルマトゥーラ全体に細かい亀裂が走っていく。
魔王がゆっくりと近づいてくる。
その右手に巨大な魔力が集まりつつあった。
「残念だったな。さらばだ異端の冒険者リョージ。つかの間の邂逅であったが本当に楽しかった……」
魔王が右手を振り上げる。
ルーシー……レナ、サラ、ザーラ、エレナ、リリア、アグレシア、みんなごめん……。
リョージは目を閉じた。
起き上がれなくなったリョージの全身から、砕け、さらさらと細かい砂となった夜鎧殻ノクス・アルマトゥーラが崩れ落ちていく。
魔王が振り上げた右手の先に巨大な光弾が生まれ。
無慈悲に振り下ろされた。
ギュゥン!
一瞬。
黒い渦が現れた。
黒い渦に魔王の発した光弾が吸い込まれていく。
リョージを守るように魔王の前にたちはだかった黒い影は。
魔王四天王【呪】のシャンドゥ。
突然の意外な出来事に魔王が怪訝な表情を浮かべるよりも前に、スッと空間に溶け込むようにシャンドゥとリョージの体が消えていった。
「……ゼノヴィア」
虚空を見つめ、魔王はぽつりとつぶやいた。
安心の完結保証付きです。
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