第51話 vs.炎のジョーエン
魔王城には中央闘技場なるバトル会場があった。
魔族も意外と脳筋ぞろいのようで。
広さ的にはドーム球場ぐらいか?
観客席はもう少し間近な感じがするが。
その中心ぐらいに四角い石造りの闘技台がある。
おおむね天下○武闘会を思い浮かべていただければイメージしやすいだろう。
「武器の使用はなし。スキル、魔法、防具の使用は構わん。闘技台から落ちる、死亡する、ダウンして10カウント以内に起き上がれなかった場合、降参を意思表示した時点で敗北が決定する。敗北決定後とダウン中の追撃は禁止だ」
体育館ほどの広さのある闘技台の中央でジョーエンのルール説明を受ける。
《スカイ・ウイング》
リョージは飛空の魔法を使い空中へ浮かび上がって見せた。
「ほう、なら場外負けはないな」
腕を組んだまま足元から炎を噴出させたジョーエンは、リョージと同じぐらいの高さまで浮かびあがってきた。
ドレスの上から青い胸当てをつけたフリーゼも同様に浮かび上がり、二人の横に並んだ。
「それでは無制限一本勝負を行います、双方闘技精神に則った勝負を期待します」
アグレシアとルーシーはセコンドエリアで固唾をのんで見守っている。
「勝負……初めっ!」
《炎拳》!
フリーゼが遠ざかると同時に炎を吹き上げたジョーエンの拳が 豪! と唸りをあげながら飛んできた。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.3νἀ〉:緊急事態観測
当たれば即死します。
非推奨機能ノクス・アルマトゥーラ強制緊急起動します
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夜星のきらめき色に染まったリョージの腕が炎の拳に絡まりそのまま背負いながら闘技台に投げ落とした。
ドゴン!
乾いた音を立てて闘技台の床が砕け破片が舞う。
信じられない——。
そんな顔でジョーエンは目を見開いていた。
瞬間的に纏ったノクス・アルマトゥーラ瞬着プロセスをもう一度見ている暇はないので割愛する。
「貴様――その鎧は……」
ジョーエンのダミ声が一段と低く聞こえる。
「……いや、今は決着をつけるのが先か」
何か言いかけてジョーエンは言葉を飲み込んだ。
起き上がり体のホコリを払う。
その間にリョージは闘技台に降り立った。
「若造、貴様が何者かは判らんが次は本気でいくぞ」
「いや、さっきも結構本気でしたよね」
にやりとジョーエンの口元が綻びる。
「神征魔王軍四天王、【炎】のジョーエン、参る!」
「ええっと……通りすがりの冒険者リョージ、行きま——!」
ゴウッ!
名乗りを上げる間もなく、炎の燃える音とともにジョーエンが肉薄。
さっきの雑な大振りフックじゃない、突進と共に繰り出される左拳のジャブ。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.3νἀ〉:連続攻撃感知
左ジャブは囮、二発目はボディ右ストレート直撃確率98%
緊急自動防御起動します
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《炎弾》!
迫る左腕から発射された炎の固まりが、右ストレートを待ち受けるはずの氷の盾を砕く。
やばい!
ノクス・アルマトゥーラを貫通することは無いにしても、このまま内部のダメージが大きすぎる。
右腕でジャブをブロックしながら受け流す。
がら空きの脇腹へ飛んでくる右ストレート。
脚で床を蹴って同じ方向へ飛び、ダメージを減ら——。
跳ねようとした足のかかとをジョーエンの足先にすくわれた。
おっさん! こすい!
神チートの対応が追い付かない! ヤバい!
足かけて転ばされ、マウントとられたら負ける——。
《エクスプロージュン》!
とっさに爆裂の魔法をおっさんと自分の間で炸裂させた。
爆風に乗りおっさんから距離を取る。
ダメージ軽微。おっさんの右ストレートを肝臓に直撃食らうよりは全然ましだ。
爆煙が晴れる。
リョージは闘技台の端近くで片膝をついていた。
腹にじわりと熱が滲む、ノクス・アルマトゥーラ越しでもそれなりにくる。
おい、称号【魔族無双】! 仕事してんのか?!
ジョーエンは中央付近で仁王立ちのまま動じていない。
予想通りダメージはない。
「……爆発で距離を取る。か——」
呆れたような感心したような、しかしどこか楽しげな声だった。
くそっ、神チート+ノクス・アルマトゥーラ装備より更に格上なんてあるんか?
ズルだ! チートだチート。
舐めてたわけじゃないけど、この組み合わせなら負けるはずがないと思い込んでいた。神チートに頼りすぎていた弊害か。
(負けるかもしれない)
背筋を冷たいものが流れた。
「ふぅう——」
深く息を吐き、立ち上がる。
膝が笑っているのを悟られないよう、ゆっくりと。
(神チート、あとどれくらい持つ?)
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.3νἀ〉:状態確認
Lv.158
HP:12,300/15,800
MP:8,726/15,800
魔力残量61%
ノクス・アルマトゥーラ継続使用可能時間:推定11分
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……11分。
正面からの撃ち合いは無理だ。
かといって逃げ回れば魔力が先に尽きる。
ジョーエンはこちらの様子を見ながらゆっくりと間合いを詰めてくる。
「若造、殺してしまう前に教えろ、その鎧どこで手に入れた?」
「——貰いました」
ジョーエンはやさし気に微笑んだ。
「嘘をつけ……魔族領にあれば国宝にも値するものだぞ? 軽々しく渡す馬鹿が居るわけがない」
いや、本当なんだけど。
距離を取るように横に移動するけれど、それにあわせて詰めてこられる。
考えろ。
おっさんの強さは純粋なパワーと炎の出力。
格闘と魔法を織り交ぜてくる上に読みが鋭い。
神チートの予測より先に動いてくることがある。
——神チートに頼りすぎていた。
「……切るか」
(神チート、知覚補助機能オフ)
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【警告】
神チート〈ver.3.1.3ν〉:知覚補助機能停止
知覚補助、自動防御、予測機能を停止します
推奨しません
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警告を最後に、頭の中は静かになった。
自動防御が切れたことでおっさんの殺気がぴりぴりと肌を焦がす感覚が伝わってくる。
ジョーエンの狙っている場所が——感じられる?
間合いを詰めかけたジョーエンの足が止まった。
「若造——今、何をした」
答える必要性はナシ。
というか、そんな余裕はない。
——来る。
ジョーエンの右肩が動いた。
《炎弾》の予備動作。
爆炎が足元で炸裂。
それに乗っておっさんが突っ込んでくる。
パクられた!
《アイス・ニードル》×2連
極細の氷の針の一本が先行してくる《炎弾》を相殺、もう一本が相殺爆炎を隠れ蓑に右肩へ直撃。
殺傷力が低い分探知できなかったろう。
「ぬ——っ!!」
右肩へのわずかな違和感におっさんが気を取られている瞬間に。
《エクスプロージュン》
こっちも爆風に乗り急接近。
おっさんの軌跡に沿って体を滑り込ませ、肘を脇腹へ叩き込んだ。
ドッ。
「——おおっ?!」
ジョーエンが声を上げた。
お互いに空中で交錯し叩き落された格好だ。
本能の赴くままに。おっさんを殴った。
「なめるな若造!」
おっさんもこっちを殴りつけてきた。
もう小細工なんかしていられない。
殴った、殴った、殴った。
殴られて、殴られて、殴られた。
もう戦術も魔法もなかった。
ただ純粋に殴り合った。
気がつけばお互いの息が上がっていた。
ジョーエンの炎の出力が落ちている。
ノクス・アルマトゥーラも稼働限界が近い。
ジョーエンの拳がリョージの頬を捉えた。
同時にリョージの拳もジョーエンの顎を捉えた。
ドゴッ。
二人同時に闘技台に倒れた。
安心の完結保証付きです。
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