第49話 美味いものは種族を越える
朗報があります。
実はキューバスの村で発見してしまいました。
何をって?
それは――。
お・コ・メっ・♡
それも短粒種、ジャポニカ米に極めて近いヤツだ。
こうなったらアレを作るしかないだろう。
鍋で研いだ米に水を吸わせている間にアレを作るのだ。
ミノタウロス肉を大きめの角切りにし、塩とブラックペッパーを振る。
サキュバスの村で貰った玉ねぎを1cm幅のくし形切りにして。
同じくニンジンとジャガイモも乱切りにして水にさらしておく。
鍋に少々の油を引き、ルーシーから教わった魔法で熱しミノタウロス肉を炒める。
グリーン・フィールド産の赤ワインを加え、香りがついたら一度皿などに取り出しておく。
油少々を加え、玉ねぎをしんなりするまでよく炒める。
ニンニクとショウガをすりおろし、市場や薬屋で錬金術素材や薬として売られていた香辛料の粉末をぶち込む。
黄色いのや赤くて辛いやつとか、インドな薫り醸すスパイス(多分)の混合物だ。
カレースープもこれを使っているので間違いはない。
よく混ぜ混ぜしていると刺激的な薫りが漂い始めた。
さっき引き上げたミノタウロス肉と細の目に刻んだトマト、ミノタウロス骨のブイヨンを加える。
ローリエっぽい香草も忘れずに。
沸騰したら弱火にしてアクを取り除く。
フタを少しずらしてのせ、ほどよく煮込む。
ここで水にさらしていたジャガイモとニンジンを投入。
時々かき混ぜながらとろみがつくまで弱火で煮込む。
ジャガイモとニンジンを煮溶かせたい場合はもっと初期の段階で投入してもいいが、今回は形を残したかったので後半にした。
仕上げに砂糖少々と隠し味としてルーシーから貰ったコーヒーの粉末を投入。
最後に塩で味を整え——。
完成。
ミノタウロス肉たっぷりなミノタウロス・カレー!
アグレシアはまだ気を失っている。
目が覚めたら食べさせてやればいい。
「どうした? ルーシー」
何やらルーシーがさっきから落ち着かない。
ルーシーはきょどりながら顔を真っ赤にして言った。
「いや、あまりにも食欲をそそる薫りなんでな」
おう、お待たせしました。
「アグレシアはまだ起きなさそうだし、先に食べちゃおうか」
リョージは木の皿に盛りつけた湯気の立つカレーライスを差し出した。
「いただきます」
「——ふぅあ! つっ!」
思わずがっついたルーシーが熱さに悲鳴をあげた。
それでも。
「なっ、これは?! 何——」
愕然と目を見張っている。
「俺の地元の料理、カレーだが?」
「かれぇ……」
カレーの皿を見つめ神妙な顔をしていたルーシーはパクパクと匙を進め。
「おかわりを所望します」
あっという間に平らげて空の皿を差し出した。
三杯目を平らげたところでさすがに食べ過ぎたのか、虚空を見つめ腹をさすりながらふうふうと息をついていた。
「リョージ」
「なんだ?」
「あなた、グリーン・フィールド村の出身ではないわね?」
どきり。
思わずルーシーを見やる。
腹をさすりながらも目は笑っていなかった。
「えーと」
あ、しまった。
カレーを地元の料理だと言ってしまった。
グリーン・フィールド村にカレーがある訳がない。
「ん――」
アグレシアが声をあげた、気づいたみたいだ。
目を開けたアグレシアはリョージとルーシーを交互に見た。
ぼんやりしていた顔つきが急に険しくなり、その場で立ち上がる。
「——! テ、テメェ」
戦闘中気を失い、目が覚めたら目の前で敵が飯を食っていた件。
である。
どこのインチキラノベなのか?
ぐぅうううううううう~
カレーの薫りにアグレシアの腹の虫が盛大に反応してしまったらしい。
「頭打ってるからあんま無理すんなよ」
言いながら盛り付けたカレーライスをアグレシアに差し出した。
「……!」
目を白黒させながらカレーライスの皿とリョージたちを交互に見る。
「まずは食え、話はそれからだ」
リョージの有無を言わさぬ態度に釈然としないながら。
ついに食欲に屈服したアグレシアは、恐る恐る一口ほおばった。
「——ふぅあ! つっ!」
顔をそむけたルーシーの肩が震えている。
あんた人のこと言えなかろう。
驚愕の表情でカレーライスを見つめているアグレシア。
しばらくして二口目。
そして三口目からは早かった。
カツガツと食べ進め、ついに大盛り三杯目を食べつくした。
腹をさすりながら虚空を見つめふうふうと息をついていた。
うん、既視感しかない。
「食ったか? 少し横になるぞ、俺も眠い」
ルーシーはアグレシアの二杯目あたりから舟を漕ぎ始めていた。
今は毛布に包まって軽い寝息を立てている。
アグレシアに毛布を手渡し、リョージも横になった。
警戒は神チートによろしくである。
リョージが目を覚ますとアグレシアはすでに起きていた。
カレーを食べる前に気を失っていたから、あまり眠くなかったのかもしれない。
ルーシーはまだ頭から毛布をかぶっている、寝坊助さんめ。
「お前ら、いったいなんなんだ」
アグレシアがあきれた口調で言う。
通りすがりの冒険者だ。
なんていうと殴られそうだったので言わなかった。
「魔王に会って話をしたい。『源流の力』はもうすぐ停止する、人間領へ侵攻してしまえば戦争は泥沼化する。その前に止めたい」
リョージは自分の仲間が地脈の流れを元に戻していることについて説明した。
「――アタイはむつかしいことぁわかんねぇ。でも、お前の目は真剣だってのはわかる」
たしか以前にも誰かに言われたような気がする。
「――わかった、お前たちを魔王城に連れて行ってやる」
へ?
「正直、アタイはあのサイクロプス・スケルトンには一瞬ビビっちまったんだ。それをぶっ飛ばしたアンタはアタイより強いってこった」
おうおう、いい方に話が転がっていく。
「アタイは、自分より強い男の嫁になるのが夢だったんだ。惚れたぜ、リョージ」
え?
ナンデスト?
「命も助けてもらったうえ、うまいメシも食わしてもらった。これからも末永く頼むぞ、ダンナ様」
イヤ、チョト、マテ クダサイ?
ルーシーの毛布が揺れている。
くそう、聞いてやがる。
「なぁ! ルーシーはリョージのツガイなのか?」
「つ、つがい?!」
ローストオークサンドとコーヒーで朝食を済ませた。
魔王城を目指して進みだした不思議な一行。
移動中、アグレシアが質問という名の爆弾を投げて来た。
「アタイは気にしねーからな! 自然の獣たちは強いオスが何匹もメスを従えるのが普通だ、人間族のツガイはルーシー、魔族のツガイはアタイだ! よろしくな、ルーシー!」
「いや、獣じゃないし! ちょっと、あんた! ツガイとか、違うから!」
魔族領でわちゃわちゃ騒いでいるのも何だが、今はアグレシアが仕切っている縄張りのど真ん中を進んでいる。
他の魔族のことは気にしないでもいいらしい。
アグレシアの質問に答え、こちらも魔族のことを聞いたりして歩き続ける。
昼頃には視界に巨大な城影が現れた。
「あれが魔王城だ」
腕を組んだアグレシアが睨むように見上げる。
「アタイが案内できるのは通用門までだ、城の中は別の魔族達が仕切ってる。知り合いの伝手に頼るが、全員が味方って訳じゃねぇ、気をつけろ」
これまでの軽い雰囲気とは打って変わったアグレシア。
リョージもルーシーも、決意を新たに頷いた。
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