第45話 《基底の隆起》グラ=トルザム
《アイス・ラ——《グラビトン・プレス》!
「だはっ!」
「ぐはっ!」
ゼロ距離でカイロスにアイス・ランスを叩き込もうとして二人とも、のしかかってきた重力に潰された。
「うぎぎぎ……」
リョージもカイロスも床にうつぶせに床に張り付けられている。
相撲取りにでも乗っかられてるみたいな気分だ。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.0ν〉:重力魔法を感知。
対抗魔法を取得しますか?
※再起動が必要です(推定5分)
○今すぐ再起動する
○再起動スケジュール
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アホか! 再起動した瞬間潰れるわ!
「メルディア! 降参だ! 重力魔法を解除してくれ!」
「あら? カイロス。子供の時より諦めがよくなったじゃない?」
リリアの声かと思ったがリョージが目線だけ声の方向に向けたら、カイロスのものとよく似た意匠の服装を纏ったリリアそっくりの美女が居た。
リリアはその後ろでハラハラしながらこちらを見ている。
予定通りリョージが相手の気を逸らし時間を稼いでいる間に、母ちゃんを救出する作戦は成功したらしい。
リリアの横に居る絵画から抜け出たような蜂蜜色髪の藍眼な人間の美少女の、冷めたジト目線が気になるけど今はそれどころじゃない。
「グラ=トルザムを返してもらうわよ」
「もう手を放してる、勝手に取って行ってくれ! 重い!」
悲鳴に似た声をあげたカイロスの手元から短い木の杖がふわりと浮き、リリアの母ちゃん(多分)、メルディアの手の中へ飛び込んだ。
「立場逆転ね、カイロス」
あどけなく小首をかしげる姿がコケティッシュだ……。だけど、リリアの母ちゃん、リリアの母ちゃん。と、……自分に言い聞かせ。
「まあ《基底の隆起》(グラ=トルザム)を手にした君に勝てるとは思っていないよ。さて、魔王様になんと言い訳したらいいか」
さほど困った風でもなく、カイロスは気怠そうに起き上がると衣服についた埃を手で払っていた。
「こちらは魔王様の言い訳を聞きたいわ。人質代わりとして娘の従軍を強制させておきながら、ルミナス・ハート起動の贄にしようとした件についてね」
にこにこと慈愛の女神のように微笑むリリアの母ちゃん。
張り付けたような笑顔の一枚下には般若の憤怒顔が埋め込まれていそうな空気がヒシヒシと伝って来る。
「あ゛?」
美青年カイロスの眉間が曇った。
「いや、俺は魔王様とサキュバスを抑えることと引き換えに、キューバ族全体の安全保障を約束したんだぞ? 当然リリアもその範疇内だろ。生贄なんて話は誓って聞いていない!」
カイロスも同調して憤っている。
続けてリリアが口を開いた。
「追求しても『先遣軍司令のアシュレイが独断専行した』と逃げられると思いますよ」
アシュレイの名を聞いたメルディアとカイロスは同時に。
「「あの腰ぎんちゃく『太鼓持ち』がぁ?」」
おぞましき虫を見るときの眼つきで二人。美男美女が台無しである。
「そこにいる……リョージに助けてもらいました、アシュレイとグラド——イグナートまでもリョージが滅ぼしました」
ちょっとほほを朱に染めてはにかむリリアが可愛らしい。
やらんぞ?
「……なるほど、手練れのイグナートを斃すとは……やるなリョージ。サキュバスの癖に男嫌いのリリアを矯正までしてくれたとは……重ね重ね礼を言わねばならんな」
リリアの母ちゃん。メルディアは深々と頭を下げた。
え? リリアさん、男嫌いだったの? 初耳。
◇◆◇
「リョージィ~~お願い~~」
元男嫌いのサキュバスことリリアさんの甘えた声。
その彼女のたっての願いで何かおいしいものを皆にふるまいたいと言う。
何という無茶ぶり。
まぁ惚れた女のお願いを何とかするというのも男の甲斐性か。むふぅん。
リョージは先程倒したミノタウロスを無限収納から取り出した。
アニメ化or実写化されたらモザイク処理されるだろう解体シーンは倍速で飛ばし。
ロース、カルビ、ショートリブ(バラ)、ランプ(モモ)、ハラミなどを切り出し、一口大に切る。
アダマス・ヴァルトの制作者イバーナも、料理に使われるとは思いもよらなかっただろう。
神チート〈ver.3.1.1νἀ〉(※ローカルアップデートした)の剣技で角切りステーキを大量生産。
うむ、さすが神チート。使える。
ホールペッパーと岩塩を魔法で粉砕。
一口大に切ったミノタウロス肉に塩コショウで下味を付けた。
魔王の手下とインキュバスたちを拘束し終わった、サキュバスとメルディアたちが興味津々といった様子で覗いていたので。
タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、セロリ、マッシュルーム、ニンニクをゴロリととり出し。
「タマネギとセロリは3cm大、にんじんは1cm厚さのいちょう切りで、にんにくは半分に切って芽を取り除いて」
と、強制お手伝いである。
立っている者は親でも使う。働かざる者食うべからずの精神だ。
その間に肉には軽く小麦粉をまぶしておく。
フライパンでは間に合わないので中華鍋でミノタウロスの脂を熱して十分に出た脂に肉を入れる。
ジュワァッという心地よい音と共に香ばしい匂いが広がった。
「うう……」
メルディアをはじめサキュバスの面々の口からため息のような声が漏れる。
旨味を閉じ込めるための焼き色を表面につけるまでの間に、寸胴に菜種油を入れタマネギとニンニクを投入。
クラッシュ岩塩を振ってタマネギの水分を出しながら炒める。
ここは手伝いたくてウズウズしていたリリアに任せた。
タマネギが透明になってきたらニンジン、セロリ、マッシュルームを投入。全体がなじむまで木べらでかき回す。
野菜につやが出てきたところで完熟トマトを賽の目に切って投入。疲れたら交代してもらいながら酸味が飛ぶまでかき回してもらう。
全体がなじんできたら焼き色を付けてぎっちり旨味を閉じ込めたミノタウロス肉を投入。
中華鍋にグリーンフィールド産のブドウ酒を惜しげもなく注ぎ込み肉の旨味すべてを寸胴に流し込む。
水分が半分程度になるまでの間に煮込みとアク取りをしっかり。
適度なタイミングでオーク骨を煮込んだブイヨンを足す。
道中寝る前の残り火で毎晩仕込み続けた逸品である。
明日からはミノタウロス骨と筋肉でデミグラスソースを作ってみよう。
リベルタ、ノクトヴァルト、道中でゲットした香草の類をぶち込み。
水分量に気をつけながらひたすらにアクを取る。
「ここから二時間くらい煮込むぞ」
「え!?」
リリアの顔が絶望に彩られた。
「美味いもの作るには時間がかかるんだよ」
二人の夫婦漫才を聞きながらメルディアが微笑んでいた。
ひたすらにアクを取り続ける。徐々に部屋中に濃厚な香りが満ちてくる。
香草を除きザルで一度濾した後。さらに三十分煮込んで、塩で味を調える。
「完成だ」
つやのある深い茶色なビーフシチュー。さあ、食ってくれ。
中央のホールに作られた食事会場でサキュバスたちの前にずらりと並べられた皿にシチューが盛りつけられる。いつの間にかパンが焼かれ、サラダが盛り付けられていた。やるなサキュバス。
「いただきます……」
まず最初にメルディアがスプーンで一口すくい、口に運んだ。
瞬間、彼女の目が見開かれた。
「これは……何という味わい……」
「美味しいでしょう、母様! リョージの料理は最高なの!」
リリアが得意げに胸を張る。
他のサキュバスたちも次々と口に運び、歓声を上げている。
「人間の料理って、こんなに奥深いものなのね……」
メルディアがしみじみと呟いた。
「ただのシチューですよ。でも、美味しく食べてもらえて嬉しいです」
温かい料理と、温かい笑顔。
何気に隅っこの方で足を拘束されながらも、夢中でシチューとパンをほおばっているカイロス他、インキュバスの面々の姿も見受けられた。
つい先ほどまで戦闘をしていたとは思えない、穏やかな時間が流れていた。
安心の完結保証付きです。
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