第44話 族長館の攻防
キューバ族の男、いわゆるインキュバスらしき魔族が駆け寄ってきた。
「この村は魔王様の命によりインキュバス族が取り仕切っている。貴様ら何者だ」
腰から剣を抜こうとしているインキュバスが、スッと前へ出たリリアに近づいたところに、リョージは死角から側頭部へステルスキックをかます。
「あっ」
後ろで不安そうに成り行きを見守っていた二人のサキュバスが声を上げた。
よかろうもん、もう敵認定しかされてないんだから。
もう一人少し遅れて駆けてきていたインキュバスもたじろいで逡巡している間に一撃かまして意識を刈り取る。
二人のサキュバスはあっけにとられていた。
「ふふ……私の連れ合いステキでしょ?」
リリアは顔見知りの二人に自慢げに微笑んだ。どやっ。
設定なんじゃなかったっけ? その方がうれしいけど。
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.0ν〉:索敵機能使用推奨
村マップに魔族位置を表示します。
※神チートはAI制御のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
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その※の注意書き止めろって。
ってか、そういう機能が使えるなら先に言ってほしかった。
二人のサキュバスにも手伝ってもらって、近場の空き家にインキュバス二人を放り込んだ。
念のため睡眠魔法もかけておく。
マップ上の人がいるところにサキュバス二人に先行してもらう。
サキュバスだったら味方に引き入れ、インキュバスだったら魔法で眠らせる作戦。
数回繰り返せば村の中心に立つひときわ大きな族長の館、つまりリリアの実家にたどり着けた。
七人まで増えた味方のサキュバスたちには何気に館の周りにたむろってもらう。
インキュバスの強硬派が来たら騒いで知らせてもらうって寸法。
「多分、母は奥の間にいるはずです」
「了解」
簡単に地面に木の棒で描いた家の図で間取りを掌握。
索敵情報で家の中心の広間に三人が固まっていて、さらに奥の部屋に二人。
多分この二人のうちどちらかがリリアの母ちゃんな訳だな。
玄関側にはまだ気付いてないようだが、ここで《ディープ・スリープ》使うとキュバス族の魔法耐性から言ってレジストされたうえ、こっちの存在がバレる可能性があるとリリアにくぎを刺された。
リリアの母ちゃんを傷つけさせる訳にはいかないんだ。
念のために《インビジブル》を使って姿を消す。
道中で魔物集団への奇襲で多用していたのでリリアは涼しい顔をしている。
ほかのサキュバスたちはジトっとした目で見てくる。……覗きになんて使わないんだからねっ! ……多分。
さて、おじゃまします。
あ。
玄関から入った途端廊下正面の奥に居たインキュバスのお兄ちゃんが驚愕の目でこっち見ていた。
つかつかとこっちへ歩いてくるが見ている先がリョージの後ろだ。なるほど、お兄ちゃんからは玄関扉が勝手に開いて閉じたように見えた訳だ。
んで様子を見に来たと、真面目だねぇ。
でも死ね。
どすっ!
無防備の鳩尾へ腰だめのショートフックが抉り込む。
「!っぐぅ……」
ひとたまりもあるまい。
ぐったりともたれかかってきた兄ちゃんの体を、リョージはゆっくりと床に寝かせる。
ここで音を立てたら台無しだ。
音をさせずに中央広間に歩み寄るが、兄ちゃんの様子が気になったのか光点の一つが広間と廊下のほうへ移動してきている。
「気をつけろ! 魔力眼を開け! 不審者だ!」
ちぃっ——!
広間の奥から声が響く、リョージはダッシュで駆け寄る。
《アイス・ボルト》!
死角から氷の矢が走り隣の壁際に突き立つ。
スライディングしながら広間に滑り込む。
同時に。
《アイス・ボルト》×30!
氷の矢を30倍返しに拡散放射。半分目くらましだ。
《フォース・シールド》
こちらの攻撃が読まれていたのか、30本の氷の矢は丸い盾状に展開した魔方陣に阻まれはじき落された。
「おやおやおや、サキュバスのはねっ帰りが飛び込んで来たのかと思ったが、お前も人間じゃないのか?」
広間の一番奥の席に、若草色の総髪の美青年がゆったりと腰かけている。
口元に不敵な笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。こいつがインキュバスの親玉か?
魔法の発動体らしき短い棒を指先でくりくりと回している。
正直でぶっ飛ばしてもいいんだが、リリアの母ちゃんの状況が分からないからな、ここは様子見か?
「魔力を見られてるんじゃ透明化は意味ないな」
リョージはインビジブルを解除した。
「ほう、サキュバスを助けにでも来たのか? メルディアの愛人にしては少し若いようだが……何者だ?」
余裕ぶっこきやがって。ムカつく。
「サキュバスたちを解放しろ」
「ふははは、魔王様のご命令なんでね。人間領への侵攻が完了するまでは我々インキュバスがサキュバスたちを抑えておくことになっている。解放なんて無理な相談だよ」
まぁそうだろうな。
「なら仕方ないよな」
「力づくという訳だね、暴力的で実に人間らしい」
美青年は立ち上がる。その隣には、広間に残っていたもう一人のインキュバスが既に臨戦態勢だ。
美青年が指先の杖をこちらに向けた。
「われらインキュバスも人間の伴侶を持つものは多い、人間領の制圧が終わるまで大人しくしておいてくれれば、命は助けてやるが。どうだ?」
「断る」
即答すると、美青年はにやりと笑みを浮かべた。
「そう言うと思ったよ。では——」
《スタン・ネット》!
リョージの張った電撃の網が広間全体に展開する。
《ディスペル》!
美青年が冷静に杖を一振り。電撃網が霧散する。
「殺す気がないと分かる魔法展開は、相手を増長させるぞ?」
「それは勝ってから言え」
《アイス・ランス》!
氷の槍を美青年に向けて放つ。壁を壊すぐらいは勘弁してくれよ。
《フォース・シールド》!
美青年の周囲に再び魔方陣が展開し、軌道を逸らされた氷槍が天井に突き刺さる。
俺のせいじゃないぞー。
リョージは心の中で叫んだ。
《ウィンド・カッター》×5!
美青年が杖を軽く振りながら叫ぶ。
魔法の展開がリョージより速い!
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【スキル発動】
神チート〈ver.3.1.0ν〉:警告! 不可視の魔方刃接近。
視界に色付け補正します。
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青白く色づけされた不可視の風の刃が複数、異なる角度から同時に迫る。
神チートの表示する魔力の軌道が微妙に螺旋を描いている——回避させない気かよ!
咄嗟に横に転がるが、予測通りに曲がってきた筈の刃が一枚、軌道を変えカーブして腕をかすめる。
チッ、途中で軌道変更もできるのかよ。——ならば見てろよ?
《アイス・ボール》!
リョージは手の中に氷の球をつかみ振りかぶって投げた。
「ふ! 人間! 速度が遅くコントロールも甘っ……ッツ!」
斜め上に暴投したはずの氷球が大きく左下へ軌道変化して美青年の側頭部を直撃した。
理屈は知っていたけれど投げたのは初めてだったので弾道は神チートに計算してもらった。三振量産変化球スィーパーだ!
「ぐっ……貴様ァ!」
不意を突かれて悔しかったのか片膝ついた美青年は血の垂れる側頭部を片手で抑えながら血走った眼で睨みつけてきた。
「カイロスさまァ!」
すかさず成り行きを見守っていた若いインキュバスが、親分のピンチに剣を振り上げて突っ込んできた。
機を見るに敏というやつだ、優秀だな。
だけど、予測の範疇内。おそるるにタランティーノ。
リョージはアイス・ランスを一発放って若いインキュバスが防御用に展開していたフォース・シールドを相殺させた。
振り下ろされた剣をアダマス・ヴァルトで受け流し、その流れのままに後ろ回し蹴りを腹に叩き込んだ。
「ぐぅ……!」
調度品の乗ったサイドテーブルに突っ込み破壊された木片をまき散らしながら派手に転がる。
「ルザーク! 《ヒール》!」
カイロスと呼ばれていた美青年はルザークと呼んだ若いインキュバスに向けて魔法を放つ。救護系魔法か?
《スタン・ボルト》!
!
美青年カイロスが反対の手で電撃矢を放ってきた。攻勢の出鼻をくじかれた。
《アイス・シールド》!
氷系攻撃魔法の詠唱を無理やりに防御魔法へと捻じ曲げる。
バチバチバチッ!
急遽でっち上げた氷の盾を後ろから押す形に突っ込む。盾と電気矢が相殺して砕け散った。
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