第42話 迷いの森の
リョージの腕を枕にしながら、満足そうなリリアの寝息を肌に感じつつ野営テントの中で横たわっていた。
ノルトヴァルト領都を発ってから三日。
リリアは日々地脈からの力の流入が増していると言っていた。
道中でリリアが使う魔法もどんどん強くなっていくのが判る。
神征魔王軍はその魔族の力が最大になったタイミングで人間領への侵攻を始める可能性が高い。と、いうのがノルトヴァルト辺境伯参謀であるカイルの見立てだ。
エレナの推測によれば魔族への源流の力が最大値へ達するのはルミナス・ハートの起動から一週間後、後四日程でその最大値へ達する見込みだという。
そしてその後、エレナが夜輝核〈ノクス・コル〉を使ってゆっくりとルミナス・ハートを停止させ、源流の力を世のすべての生き物に均等に配分されるように戻すのに1か月以上かかる。
ルミナス・ハートの操作に失敗すれば竜脈とも呼ばれる地脈の力が暴走しこのモデンリアナ世界は壊滅する。
この世界に召喚され、いきなり神チートなスキルを渡され「世界を救え」とか無茶ブリされたことを思い出す。
神様の言う滅亡の危機とはこのことなんだろうか。
ステータス・オープン
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【ステータス】
名前:アマツカ・リョージ
レベル:150
HP:15,000 / 15,000
MP:15,000 / 15,000
〇スキル:神チート〈ver.3.0.3νἀ〉《言語理解》《無限収納》《魔法適性:ALL》《感情共鳴》《火炎耐性》《超回復》《インビジリティ》《竜鱗鎧》《魔力増幅》
〇称号:【竜族無双】【魔族特効】【ノクトヴァルトの英雄】
〇装備:
《アダマス・ヴァルト》(名匠イバーナによる上業物 - 鋭利、耐久力向上、破損再生の魔法陣付与)
《νόξ・ἀρματούρα》(謎の鎧)
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まあまあのステイタスじゃないかと思う。
総督もギルドマスターのグレンも、一騎当千の実力に期待してくれているのだ。
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うーん、それなりに強くなったのかな? これから魔王軍の中心へ向かうんだ、どれだけ強くなっても足りる気がしない。
リョージは心の中で苦笑した。
「……リョージ?」
腕の中でリリアが身じろぎした。
「起こしちゃったか。悪い」
「ううん……」
薄暗いテントの中、リリアの紅い瞳がリョージを見上げる。
十分な魔力の補給を得たリリアの頬は夜目にもツヤツヤと輝いている。
「休めたか?」
「うん、今日も魔力補給ばっちりだよォ♡」
リリアはリョージの胸に顔をうずめた。ふわりと柔らかく髪の匂いがした。ぬふふ。
軽く身支度を整えた後、熱いスープとたっぷりとバターを塗ったパンで朝食を済ませる。
「ううう……シアワセ♡」
ノルトヴァルト領都の薬屋で見つけたスパイスを組み合わせて作ったなんちゃってカレースープはリリアの胃袋をがっつりと掴んでしまったらしい。
最初はこそこそ使っていた無限収納も、面と向かって指摘されてからはリリアの目の前ではガンガン使っている。
そこからスープストックを出すだけなのでらくちんなのだ。
◇◆◇
「この辺りはもう魔族領だよ、魔物や魔族がいるかもしれない、気をつけて」
「ああ」
空気の中の瘴気——魔族は魔素と呼んでいるらしい——が濃くなっていくのが判る。
荒涼とした大地。枯れた木々。
遠くには黒い山脈が連なる。
不気味な静けさの中の道を二人で進んでいく。
「魔王城へ向かうには、いくつかルートがあるけど」
「どれがおすすめ?」
「やっぱりキューバ族の領域を通るルートが最適……かな。
一応私の一族だし。他には遠回りになるルートか、私も詳細が判らないルートになるんで、時間がかかるか読めなさすぎるか」
「キューバ族の領地か……やっぱりリリアの地元を回った方が早そうだよね」
「うん。族長の協力を得られれば、魔王城へ安全に進めるルートが通れるんだけど」
「わかった。そっちに向かおう」
二人でイチャコラ足を進めていると、道の先に何かの建物が見えてきた。
「あれは……検問ね……」
魔物の兵士たちがバリケードを築き道を封鎖している。
「……キュバス族は親人間派が多いので、たぶんそれを快く思わない強硬派が封鎖しているんだと思う」
リリアは少し不安そうな表情でリョージを見た。
「どうする?」
「話が通じるなら話す。通じないなら……その時の流れで」
「……」
検問へ近づくと、魔物の兵士たちが声をかけて来た。
「止まれ! そこの者、何者だ!」
槍を構えた豚顔のオーク兵士が叫ぶ。
「私はキューバ族、サキュバスのリリアだ。神征魔王軍の従軍から帰郷する所だ」
きたー。さてこのお芝居、凶と出るか吉と出るか——リョージは内心で身構えた。
「……」
リリアの口上を聞いた検問の兵たちの顔が険しくなった。凶だな。
「ふん、キューバ族は現在インキュバスの長カイロス様の支配下にある。サキュバス族の実権は今は凍結されている」
ぶっきらぼうに答えた豚顔のオーク兵Bは、値踏みするようにリリアをねめつけていた。
「ほう? それで、私の母。サキュバスの長メルヴィアは殺されたのか?」
さらりと聞き返したリリアの声に怒気が含まれる。
——あれ? リリアさん、聞いてないですケド? 長の娘……? リョージは密かに驚いた。
取り囲んでいた兵たちは無意識のうちに半歩、じりりと下がった。
身体能力は人間並みとはいえ魔力に優れたキューバ族と敵対すれば、魔法の素養のない者はただでは済まないということを知っているのだろう。
「いや……サキュバスの長は魔王様の採決を待つまでの間、行動の自由を制限されていると聞いている」
犬の顔をした魔物兵が冷や汗をかきながら答えた。
「……そうか、ならば母の元に向かわせてもらおうか?」
「……」
「ちょいと待ちな」
検問のバリケードの後ろで寝転がっていた魔物兵が起き上った。
でかい。身長2メートルはある。角の生えた魔物、オーガだ。
「俺たちは下っ端だからな、魔王軍以外はこの検問を通すなとしか命令されてねぇ」
「ならば、通してもらおうか。勝手に故郷に帰らせてもらう」
言い捨ててリリアは歩を進めようとした。
「ちょっと待てよ、あんたの後ろにくっついてんのは人間だろ? そいつは置いて行ってもらおう」
ですよねー。
「あぁん?」
リリアが半眼になった。怖いよリリアさん。
「たしかに人間だがアタシのつれあいだ。キューバ族が人間を伴侶にするのは普通だろうが」
いやん。リリアさん、ステキ! リョージは思わず見惚れた。
「普通だろうが何だろうが今は魔族関係者以外通すなと言われているんでな」
「だから、関係者だと言っているだろうが? それとも、お前らキューバ族が伴侶に人間を選ぶから魔族じゃないって言っているのか? なら何故アタシが神征魔王軍に招聘されたよ? 魔王様の召喚状があったからだろうが!」
そろそろリリアはキレ始めた。下っ端兵士じゃ確認しようがないもんね。押し通す所存。
「いや、そうじゃねぇ……判断できる俺らの上司がサキュバスの村に居る、そこまで同行させてもらいてぇ」
「……」
これはさすがに拒否はできない、結局オーガ兵Aがついてくることになった。
「この先がサキュバス族の領域だ」
先ほどまでの街道より数段と深い森の中に足を踏み入れる。明らかに魔気・魔素が濃い。
「……ここは……」
「そうだね『キューバスの迷いの森』だよ。普通の道はずっと遠回りだからね、キューバ族だけがこの森を突っ切って最短でサキュバスの領域に入れる」
ついてきたオーガは何か言いたそうだったが、ここでリリアに逆らうのは得策でないと踏んだのだろう、それ以上押し黙った。
◇◆◇
迷いの森へ入って数刻。
「気をつけて、この辺りからは番人が出る」
「番人だと?」
オーガの訝し気な問いに、口を開こうとしたリリアだが。
ドシン……
地面が揺れる。
「……さっそくお出ましかしら?」
「何だ?」
がさがさと森を分け木々の向こうから、巨大な影が向かってくる。
ドシン、ドシン……
「!……うぉ」
オーガが唸り声を漏らした。
「迷いの森の番人だ」
オーガよりデカい、巨大な牛頭人身の魔物。
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【警告】
神チート〈ver.3.0.3νἀ〉:敵対存在を検知しました。
種別:ミノタウロス
推奨行動:逃走
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