第4話 森へ行く
翌朝、目を覚ますと、窓から朝日が差し込んでいた。
「……いつの間にか寝てたな」
次の瞬間――
ズキッ
「ううっ……頭が痛い」
やばい、これが二日酔いというやつか。
ブドウの果実酒は口当たりがよくて、つい飲みすぎた。
「やべぇ……」
と思った瞬間、ステータスウィンドウが光った。
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【再起動完了】
神チート〈ver.0.2.0β〉適用完了
※α版からβ版への移行が完了しました
※一部機能が追加・改善されています
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.2.0β〉:状態異常を検知。最適な対処を実行しました。
結果:状態異常解除
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「……え?」
頭痛が、嘘のように消えた。
一瞬で。
昨夜の、あの6時間。
アルコール耐性が消えていたから、二日酔いになった。
やっぱり、再起動中はスキルは完全に無効だったってことだ。
うわぁ……
頭痛は消えたけど、サッパリすっきりとはいかなかった。
全身なんだか汗臭いし、シャワー浴びたい。着替えが欲しい。
神チートでもそこまでは無理か。大型アップデートでもまだベータ版だしな。
それにしても異世界初日は波乱の一日だった。召喚されて、変なスキル貰って、ドラゴン粉砕して、リナとペータと会って、村で宴会して……
窓の外を見る。昨日と同じ青い空が広がっていた。
異世界の空。これから、どんな冒険が待っているんだろう。
楽しみでもあるが、このう○こなスキルシステムへの不安が止まらない。
「おーリョージ、昨夜は楽しんでくれたみたいだな」
部屋を出るとペータが湿った頭をごしごしと手ぬぐいで擦りながら話しかけてきた。
聞けばもう畑でひと働きして川で汗を流してきたらしい。
シャワーや湯船までは期待してなかったけど。川で水浴びかぁ……。
朝飯前に一風呂……いや、一川? 浴びて来いよとペータが新しい拭き布を貸してくれた。
森の方へ向かうと教えられた通り岩に囲まれた一角がある、赤布が下がっているその裏側が水浴び場なんだそうな。
とにかく早く汗を流したい。パパパッとフ○チンになり岩と岩の間から川へ踊り込んだ。
「おりゃぁあ!」
どぼん。
うほっ! 冷たくて気持ちイイっ!
頭まで潜ってざぱんと水面をかき分け立ち上がる。膝上ぐらいの水の高さでちょうどいい。
立ち上がったら目の前に白い人影があった。
「リ……」
リナだった。
唖然とした顔をしていたリナの顔はみるみると真っ赤に染まり。
「き、きゃぁあああああああああああ!」
でっかい悲鳴をあげて腕で胸を隠し川の中へしゃがみ込んだ。
リョージの脳裏に、一糸まとわぬリナの姿が焼き付いた。
「うわぁあああああ! ごめん、ゴメン、ごめん、ゴメン! ごめんなさい」
なんでなんでどうして? ラッキース○ベ? ペータがここだって……あ。
「もおおっつ! 後ろ向いてっ! 赤布が下がってるときは入っちゃダメってシルシだよぉっ」
「えええっ! ペータが赤布が下がってる岩の裏が水浴び場だって……」
くそう! はめられた! ペェェタあぁぁぁぁ……ありがとうございました、眼福です。
少しだけ感謝の念を示しておく。
「ごめん、すぐ出ていくから」
「ううん、私も体を洗ってすぐ出るから、それまで後ろ向いて川に浸かって汗流していて」
うおおお! 混浴バンザイ!
後ろ向きのまま川風呂が初めてだという話をしたら泡の実の使い方とか体のこすり方とか教えてくれた。リナ、ええ娘やーー。
◇◆◇
リナが帰った後、頭も体もじっくりと洗い、まったりとしながら村長宅へと帰還した。
ペータはとっくにどこかへ逃げていたらしく不機嫌そうに毒づくリナと村長が朝の食卓に着いていた。
「おはようございます、村長」
「ん、リョージも元気そうじゃの」
朝の挨拶もそこそこにパンとスープだけの朝食が始まる。昨夜の宴が特別で通常はこんな感じの質素な食事なのだそうだ。
フランスパンのように硬めのパンを千切り、リナが温めてくれたスープに浸し、柔らかくして食べるのがグリーン・フィールド流らしい。
二人の食べ方を横目に見ながら真似をした。んーこのスープ、よく出汁が効いてて美味い。
「ときにリョージ、お主の得意なことはなんじゃ? 仕事を頼むにしても得意なことの方がいいじゃろう」
村長が気を使ってくれている、ありがたや。
そう言われて、はて? リョージ何が得意なのか……ネットサーフィン? ゲーム? ここじゃ使えないな。
ここはひとつ。
「えーと……魔物でも狩ろうかと思っていますけど、そこそこ弱めのやつ、いますかね。ここいらの魔物はどんなのがいるかわかんないんで弱い奴から倒して勉強しようかなって」
神チート能力で一瞬で畑耕したりしたらなんだかマズイことになりそうな予感がする。畑仕事に使えるかどうかもわかんないし。
ドラゴン倒せたんだからもっと弱い魔物もいけるんと違うかな。
不安だけどレベルは38もあるんだから、突然のアップデートさえなければ何とかなるような気がする。
アップデートの時は実行の可否を確認するように神チートに釘を刺しておこう、死活問題だ。
そんなリョージの言葉に村長が、目を輝かせた。
「災厄のドラゴンを退治するのはさすがに無理じゃろうが、森には他の魔物がおってな。ゴブリンやオオカミが、時々畑を荒らしに来るんじゃよ」
「なるほど。じゃあ、それを退治しますよ」
「本当か! 助かるわい! 農閑期には村総出で退治したり、忙しい時期には商都のギルドから冒険者を派遣してもらって狩ってもらったりするんじゃが、いかんせん魔物どもはしぶとくてのう、わしが若いころ――」
このあと小一時間苦労話と武勇伝を聞かされた。リナは聞き飽きているのか食べ終わったらさっさと退散していった。
その日の午後、森へ向かうことになった。
「リョージ、あたしも行っていい? 道案内してあげるよ」
村長から借りた装備を支度しているとリナが、ボウガンを持って現れた。
川での一件は水に流してくれたようだ、川だけに。
「リナも来てくれるの?」
うーん、神チートの使い勝手を確かめたかったんだけど、リナと一緒でも大丈夫だろうか。
「うん。リョージは爺ちゃんの防具と剣を使うんでしょ? ボウガンで援護あった方が楽だよ」
それもそうだな、初めての森で道案内は確かにありがたいし。
「……わかった。でも、今日は様子見だから、安全第一で行くぞ」
「りょうかーい!」
◇◆◇
森に入りしばらく歩くと次第に森が深くなっていく。
「ここあたりから魔気が濃くなってきたのが判る? 魔の瘴気が多いと木もぐんぐん育つから薪には困らないんだけどね、魔物も自然発生しちゃうんだよね」
この世界での魔物というのはそういう生態系ということなんだろう。森の恵みは魔物とセットということね。
少し開けた場所で、あたり一面に散乱する落ち葉の中、リナがしゃがんで何かを調べ出した。
「リョージ、これ見て」
リナが指さす先には……枯れた木の葉が落ちているだけにみえる。
「ゴブリンの集団が歩いた跡だね、西の方へ向かってる、追いかけるよ」
ええと、リナさん? どうしたらいいのか、とりあえず森のベテラン様について行けばいいのかな。
リナ先輩の後ろを歩くこと数十分。
広げた手のひらをこちらに突き出して"止まれ"と合図をしてきた。
指先だけ"来い来い"と動かしている。
音を立てないようにリナの横に近づき、藪の隙間から向こうを覗いてみた。
いた。緑色の肌の醜悪な表情で子供程度の大きさ、赤さびた短剣や粗末なこん棒をぶら下げている。まさにゲームの世界から飛び出してきたみたいな五匹のゴブリンの群れだ。
リナがリョージの耳元に唇を近づけてきた。
「一匹はボウガンで仕留めるわ、向かってきたらよろしくね」
なにをよろしくすればいいのかしら。
ささやく吐息が耳にかかりリョージの心拍が少し跳ね上がる、いかんいかんここは真面目にやらねば。
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