第3話 酒宴の夜……だったのに
案内された村長の家で。村長が、木製のお椀で水を出してくれた。
「ありがとうございます」
礼を言って一気に飲み干す。冷たくて美味いーー。
生き返るぅ。もう喉がカラカラだったんだ。
「リョージ、ずっと歩いてきて疲れてるんじゃない?」
ボウガンを置いたリナは少し物腰が柔らかくなっていた。
少しは疑いが晴れたんだろうか。
「ああ、ちょっとね」
「そっか。じゃあ、ゆっくり休んでね」
水のお代わりをリナが手渡してくれた。気が利くなぁ。
さっきの警戒した表情とは違う、やさしい笑顔で微笑んでくれている。
「ニホンて聞いたことない名前だけど、すっごく遠いところなんでしょ?」
「まあ、そうだね」
いい感じに調子を合わせて架空の町"ニホン"について語ってみた。
歳相応にくるくると表情の変わるリナと話をしているとこっちも楽しくなってくる。
彼女いない歴=年齢のリョージにとって、それは人生でもっとも長い女子との会話時間だったかもしれない。
「それで、ドラゴンから逃げたときのことなんだけど……」
少し申し訳なさそうに上目遣いで聞いてくるリナ。やっぱりそこが聞きたいんだろうな、すまん、リョージ生成嘘八百で勘弁してくれ。
「いや、本当に運が良かっただけだと思うよ、遠くからドラゴンが飛んでくるのが見えたんで荷物を捨てて近くの岩場に逃げ込んだ。岩と岩の隙間に身体を押し込んでじっとしてたんだ」
「リョージは本当に運がよかったのね……あのドラゴンには何人も村人が食べられてるんだよ」
リナの目から、すっと光が消える。
「あたしの友達も……父さんも、母さんも」
「……そうか、それは残念なことだったな」
うわぁ……重い。かける言葉が見つからない。
「でも、ペータもじいちゃんも居るからね、寂しくはないよ。みんなの分もしっかり生きなきゃね」
リナが浮かべたどこか無理やりな笑顔は、やけにリョージの胸の奥に引っかかった。もう仇は取ったぞと伝えられないのがもどかしい。
◇◆◇
夕方になると、村の広場に火が焚かれ、ささやかな宴が始まった。
「皆の衆、ささやかじゃが旅人リョージを歓迎する宴じゃ! リョージは旅の最中にドラゴンに襲われ全財産を失った。しばらくこの村にとどまって旅費を稼ぎたいそうじゃ。皆何かあったら頼むぞぃ」
村長の、やや雑な紹介を受け、村の皆と挨拶を交わした。
焚き火が燃え、テーブルには料理が並ぶ。パン、肉の煮込み、野菜のスープ、果実酒。シンプルだけど、どれも美味しそうだ。
「リョージ、今日はお主が主役じゃ、こちらに座るといい」
村長に案内されて、上座に座らされた。
木を削って作ったカップにはなみなみと濃い紫色の飲み物が注がれていた。
「リョージ、ブドウ酒は初めて?」リナの問いに。
「……ああ、実はそうなんだ。日本では二十歳になるまで飲酒は禁止されていたから」
「へぇ、厳しいのねニホンて。ルミナス王国では13歳から果実酒OKよ、蒸留酒はもう少し大人になってからね」
ほう、そうか。この国はルミナス王国っていうのか。情報ゲットだぜ。
村人たちから次々と乾杯の声が上がる。
「リョージに、乾杯!」
「ドラゴンの鼻を明かした勇者に、乾杯!」
笑いが起きる。まぁこういう酒の席で肴になってやるのも旅人の務めといった所か。
「いや、ホント、隠れただけで大したことしてないんですけど……」
「いやいや、ドラゴンから逃げ延びたんじゃ。それだけで勇者じゃよ」
村長が、笑う。
肉の煮込み料理を食べてみた。木匙でスッと切れるくらい柔らかく煮込まれている。味は八角の入っていない角煮だ。他の料理も何を食べても美味い。この世界の料理、結構レベル高いな。
ブドウ酒も飲んでみたが、アルコールはそんなに強くない。甘くて飲みやすい。
「勇者にカンパ~イ!」
ペータが同じぐらいの年頃の男の子を二人連れて来た。
「おいらはミルフェ、こっちのまるっこいのがケッチン。よろしくな~ラッキーリョージ」
ミルフェもケッチンもペータの親友って感じで面白い、元の世界ではボッチ飯だったからこういう感覚は新鮮で超楽しい。
「リョージ、楽しんでる?」
愉快な三人が追加の料理を取りに行くと言って席を外した後、リナがリョージの隣に座った。
「ああ、料理すごくおいしいよ、ブドウ酒も最高に美味い」
「えへへ、ありがと。肉煮は私が作ったんだよ」
リナが、嬉しそうに笑う。
「ねえ、リョージはどこに行く予定だったの?」
あ、それ聞いちゃいます? 地理とか地名とかまったく知らないからなぁ。俺チート嘘八百起動。
「実は特に決めていないんだ……とりあえず、あちこちを見て回っている最中かな」
「そっか……いいなぁ」
リナが、少し寂しそうな顔をした。
宴は、深夜まで続いた。
◇◆◇
村人たちとさんざん酒を酌み交わし、お開きの後、上機嫌で村長が用意してくれた部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
(いやー、疲れた……でも、楽しかった)
ベッドに横になり、天井を見上げた。
その瞬間――
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【システム通知】
神チート〈ver.0.1.1α〉修正パッチ適用のため
システム再起動を実行します
※注意:再起動中は神チートスキルのすべての加護は適用されません。ご注意ください。
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「……は?」
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システム再起動中
残り時間:21,847秒
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「21,847秒!?」
21,847÷60÷60=……
「6時間!? そんなにかかるのかよ!」
その瞬間――頭がクラッとした。
「……うわ」
視界が、少しぼやける。
体が熱い。
酒が……回ってきた?
さっきまで平気だったのに。
窓から入ってくる夜風が、妙に冷たく感じる。
(……これ)
すべての加護は適用されません――
「耐性が……消えてる」
アルコール耐性も、寒さへの耐性も。
反射神経も、防御力も――全部か?!
レベル1に戻ってる……だ……と?
「おいおいおいおい!」
ベッドから飛び起きた。
「戦闘中に勝手に再起動されたら詰むだろ! おい!」
叫んでも、システムは答えない。……ダウン中だからな。
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残り時間:21,821秒
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ゆったりとカウントダウンが進む。
もしドラゴンと戦ってる時だったら。
尻尾が振り下ろされる瞬間に、勝手にシステム再起動。
レベル1では――ゲームオーバー。コンティニューは効くんだろうか?
背筋が凍った。
「……最悪だ」
毛布を引き寄せ、肩に掛けた。
長い、長い夜が始まった。
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