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【完結】異世界転生したんだが神から貰った最強スキル【神チート】がクソ仕様  作者: Darjack
第3章

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第32話 辺境伯代行

医療室には、薬草と消毒液の匂いが立ち込めていた。


石造りの壁に囲まれた部屋の中央、ベッドには辺境伯が横たわっている。

白髪混じりの治療師が助手に汗を拭きとられながら手早く治療を行っていた。

胸部、腕、額。あちらこちらに巻かれた包帯。

どれも痛々しい、深い傷だ。


リョージは壁際に立ち、リリアと並んで様子を見守っていた。

イグナートに窓から投げ捨てられた辺境伯を、リリアが空中でキャッチした。

だが、その前に辺境伯は相当なダメージを負っている。

忙しく働く治療師の手が止まらない。

傷口の上に浮かんだ黄色に輝く魔法陣が淡く光り、傷口が少しずつ塞がっていく。


部屋の扉が開き、カイルが駆け込んできた。

「父上……!」

息を切らしながら、ベッドに駆け寄る。

「大丈夫なのか、治療師!」

「落ち着いてください、カイル様」治療師が低い声で答えた。

「命は取り留めました。ですが、重傷です。安静が必要です」


カイルが肩を落とす。

カイルの表情には緊張と焦りの色が濃い。

当然だろう。

父親が致命傷に近い重傷を負ったんだ。

治療師の手が止まり、深く息をついた。


「……処置は完了しました。あとは自然治癒に任せるしかありません」

「分かった。ご苦労であった」カイルが深く頭を下げる。


治療師は一礼して一歩下がり、看護師に細かな指示を伝えている。

カイルが辺境伯の顔を見つめている。

「……父上」

辺境伯の瞼が、わずかに動いた。

「……う……」

「父上!」

カイルが身を乗り出す。

辺境伯の目がゆっくりと開いた。


まだ焦点が定まらない。

だが、意識は戻ったようだ。

「……カイル……か」

「はい、父上。ご無事で……」

「……リョージは……」

辺境伯の視線が、リョージを探している。

「ここにおります」

リョージは一歩前に出た。

辺境伯の目がリョージを捉えた。


「……よくぞ、駆け付けて……くれた……」

「はい、間に合ってよかったです。潜入中に城への襲撃計画を掴み、急いで戻りました」

辺境伯は何度も息を整えながら、わずかに震えている。

「父上、お休みください。今は体力の回復が……」

カイルが止めようとする。

だが、辺境伯は首を横に振った。

「……いや……今……伝えねば……」

辺境伯の視線が、再びリョージに向けられた。


「……リョージ……あの魔族は……」

「ヴァンパイアのイグナートです、ルミナスへの鍵を奪うために城を襲ったようです」

辺境伯の顔が強張った。

「……そうか……」

「鍵を使ってルミナスへ行き、ルミナス・ハートを使って魔王軍を強化することが奴らの真の目的です」

「……魔王軍を強化?」

カイルが驚愕の表情を見せた。


「ただでさえ苦戦しているのに、これ以上魔王軍が強化されたらノルトヴァルトどころか王都まで……」

「……ノクス・コルは……無事か……」

辺境伯の息が荒い。

話すのも辛そうだ。


「……はい」

エレナに預けたまんまだけどね。

辺境伯が、安堵したように目を閉じた。

「……ならば……よかった……」

「父上……?」

カイルの声に、わずかな震えがあった。

辺境伯がゆっくりと目を開ける。


「……夜輝核ノクス・コルが……ルミナスへの鍵だ……」

カイルの表情が固まった。

「……まさか……代々受け継がれてきた、あの首飾りが……?」

「……あの魔族は言った……『星夜を閉じ込めた宝玉を渡せ』と……『お前が常に持ち歩いていることは知っている』と……」

辺境伯の声が途切れ途切れになる。

ゴホゴホと胸の奥に詰まった何かを吐き出すかのように咳き込んだ。

「閣下、これ以上は……」

脈を測っていた治療師が辺境伯を制した。


「私は……ルミナスへの道を開く生贄として扉に幽閉されていました」

今まで空気のように押し黙っていたリリアがポツリと語った。

「リョージ殿……」

カイルが不安げな顔でリョージを見た。

「リリアは味方です、魔王軍に捕らえられていた所を救出しました、辺境伯閣下のお命を守ったのも彼女です」

「リリアと申します、魔族のキューバキューバスと呼ばれる種族です」

カイルに向けて優雅に一礼して見せた。


「魔族……」

目を細めるカイル。

敵対者側の一族だと聞かされるのだから無理はない。

「リリアは亡命を希望しています、ルミナス・ハートに関する情報を見返りに」

今は仲違いしている場合ではないと、カイルにリリアのことを取り成した。


「……リョージに任せろ……カイル……お前を辺境伯代行とする、ルートヴィヒが帰るまでお前がノルトヴァルトを守るのだ……頼む、リョージ……」

「閣下! 予後に響きます!」

制する治療師を振り払うようにして最後の気力を振り絞った辺境伯はその場で気を失ってしまった。

呆然となったカイルが血の気を失った顔で震えていた。


「私ごときに……辺境伯代行をお任せいただけると?……父上」

「ここは治療師たちに任せて、今後のことについて話しましょう、辺境伯代行」

リョージは辺境伯代行となったカイルを促して話の場を改めた。


◇◆◇


カイルが作戦参謀として使っている会議室に通された。

石造りの壁に囲まれた質素な部屋だ。

長テーブルと椅子が並んでいる。

地図が壁に貼られ、書類が積まれている。


カイルが椅子に座り、リョージとリリアも向かいに腰を下ろした。

「……まさか、父上が私を代行に」

顔色の悪いカイルが呟く。

「お父上はそれだけあなたを認めているということですよ」

「……そうだな。兄上が前線に留まる限り、私がノルトヴァルトを守らねばならない」

カイルが顔を上げた。


「リョージ殿、リリア殿。ルミナス・ハートについて、詳しく教えてほしい。おそらくはそれが魔王軍を撃退する鍵となる」

リリアが俯いた。

「……正直なところ、詳細については魔王軍でも分からない部分が多いのです」

「どういうことだ?」

カイルが眉をひそめた。


「私は人間領への侵攻先発隊として従軍させられていました。キューバキューバスはその生存手法を人間に大きく依存しています。今回の侵攻には否定的な立場をとっていたため、魔王様への忠誠心を疑われたのだと思います」

過去を思い出すように自分の腕を抱きしめ身を震わせるリリア。


「行軍中、無理に人間の村を攻めさせられ、魔力が枯渇しかけたしたところを拘束されました。その後魔力を回復する手段はすべて奪われ、遺跡の祭壇に拘束されていました……」

リリアが申し訳なさそうな表情で続ける。


「魔族の主な幹部は若き魔公爵のアシュレイ、竜魔族のグラド、ヴァンパイアのイグナート。彼らが語るには、私は『ルミナス・ハート』に捧げる生贄だと、『ルミナスへのゲート』である遺跡の魔法陣から『ルミナス・ハート』へ至り内から門を開くのだと……」

リリアの声が震えた。


「なので私が知っているのは、ルミナス・ハートへの扉を開くには『星空を閉じ込めた宝玉』を持った魔族が遺跡の魔法陣に立つこと。ルミナス・ハートへたどり着いた者は内から扉を開くが、帰っては来れなかった。との伝承の内容……キューバキューバスを滅ぼされたくなければ、魔族のための礎となれ。と、言われていました」


リョージは質問を投げた。

「遺跡地下三階の魔方陣の先にルミナス・ハートかそこに通じる通路があるってことか、ノクス・コルを持った魔族が魔法陣に立てば隠し扉が開くと——」

リリアは頷いた。

「状況から判断すれば多分そういったことかと……」


黙って聞いていたカイルが顔を上げる。

「これで魔族が遺跡を占拠する理由が明確になった、我々の勝利条件はノクス・コルを魔族に渡さないことだ……リョージ殿に預けておいて正解だった」

カイルの信頼の羨望の視線が眩しい。ごめん、俺持ってない。

「……」

リョージの表情を見て、次第にカイルの顔色が蒼白に変わっていった。

「……リョージ……殿? ノクス・コル見せていただくことは?」

「えーと……」

言葉に詰まった。


「今、預けてありまして」

「なっ!……ど、どこに……」

カイルは絶句していた。

「な、失くすと困るので……安全な場所に……」

カイルは頭を抱えた。


「わ、わかりました。父はあなたを信じて預けたのですから深くは申しますまい、しかしノクス・コルの重要性が判明した今。魔族を退けた実績を持つあなたが持っているのが一番安全です。是非とも回収し守護をお願いしたい」

「承知しました」


「私は父から城の安全を守る重責を負いました。然るべく手配をしたのち兄の元へ向かい、ノクス・コルと今後の魔王軍への対応について協議を行います。先行して、兄に状況を伝達願えますか?」

やるべきことは見えてきた。


まずはノクス・コルを守り抜くこと。

ルミナス・ハートを起動させないこと。

その後、遺跡から魔王軍を追い出し、転送装置を封鎖することだ。

安心の完結保証付きです。


毎日20:00更新予定。


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