第30話 助けを呼ぶ声
エレナたちの陽動が始まって数分。遺跡の周辺を見張っていた魔物たちが北へ移動していく。
その数は想定よりずっと多かった。
魔物は個体の力が人間よりずば抜けている。
個の力に自信がある故に、役割分担や連携した行動は衆の力で魔物に立ち向かう人間の方が有利なのだろう。
作戦通り遺跡周辺で徘徊していた魔物の大半はエレナの騎馬隊の方に気を取られているようだ。
リョージは夕闇の中道なき山肌を、中腹の遺跡まで登っていった。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:遺跡入口周辺敵対存在 大幅減少
残存:オーク(Lv.180)×3、ゴブリン(Lv.120)×8
遺跡内部:詳細不明(探知範囲外)
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登る途中で遭遇した魔物は少なく、山林の木々に紛れてやり過ごせた。
けれど流石に遺跡周辺は警戒が厚い。
まだ悟られるわけにはいかない。正面突破は避けたいところだ。
岩陰から遺跡の入口を観察した。三方を岩山に囲まれた窪地。中央に古代の石造建築が半ば崩れた状態で残っている。
見張りを眠らせるか。
盗賊団のアジトではそれなりに効いたけど……。
《ディープ・スリープ》×11
魔法陣が展開され、見張りのオークとゴブリンはその場で次々と崩れ込んだ。
よし。効いた。
リョージは素早く遺跡の入口へ駆け寄った。大きな石のアーチをくぐり、内部へ。
通路は薄暗く、松明の明かりが点々と灯っている。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:前方50m敵対存在なし
※注意:遺跡内部の探知精度は低下しています
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古代の遺跡だからか、チート様の探知が効きにくいみたいだ。慎重にいかないとな。
通路を進んだ。壁は精緻な石積みで、古代の高度な技術を感じさせる。
入り口だけ警戒しておけばいいという考えなのか、中に入ると極端に松明の数が少なくなった。
通路の先に階段が見えた。下へ続いている。ん? ルートヴィヒの話じゃ地下があるなんて情報無かったよね。
……石の壁が破壊された跡がある。隠し通路があったんかい。
階段の先は奈落に続く漆黒の闇。かといって明かりをつける訳にも行かない。
意を決して暗闇へ歩みを進めようとしたとき、チート様のメッセージウィンドウが起動した。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:魔法を使用します
《ダークビジョン》:消費MP5/h
効果:暗視
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視界が開けた。暗闇が青みがかったモノクロの世界に変わる。
至れり尽くせり、ありがとうございますチート様。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:《エクスターナル・デバイス》の使用を推奨。
神チートの外部端末を作成、知覚センサーとして使用
代償:依代の準備、MP3000を消費
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イイものあるじゃないですか。依代って何?
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:魔力を浸透させ知覚センサーとして使用するための媒体。
形代となる紙等を使用
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おお、アニメとかで見たことあるぞ!
階段を降りながら、リョージは無限収納からメモ用に買った紙の束を取り出した。領都の城下町で買っておいたものだ。
《エクスターナル・デバイス》
紙が淡く光り、一枚一枚が人形の形に変化し完成したそばから勢いよく飛び立ち階段下の暗闇へ消えていく。まるで魔法だ。
階段を下りながらも地下一階の様相がなんとなく頭の中に流れ込んでくる。
こりゃオートマッピングも真っ青だな。
倉庫のような部屋が並んでいる。扉は開いていて、中には木箱や樽が積まれていた。
魔王軍の物資か。武器庫らしき部屋もある。剣、槍、弓もあるが人型ではない魔物用と思われる異様な形状のものが整然と並んでいる。
見張りらしき魔物もいるが数は少ない。
巡回の魔物が時折通り過ぎるが、チート様端末は気づかれないように天井に貼りつきまたは石組の隙間に入り込んで逐次周囲の音声情報を聞かせてくれる。
会話の内容は……博打と異性の話。魔物も人間も変わらないな。
しばらく経って地下一階を掌握完了。
巡回のタイミングを躱し安全に、かつ最短コースで地下二階へと進む。
神チート、マジでチートすぎる。ゲームだと簡単すぎてつまらないってところだな。
現実ではこんなにありがたいことはない。
このまま隠れて盗聴探知してればいろいろ情報拾えるんじゃないかと期待していたら、自分がいる階層以外は音声信号をうまく受信できないみたいだ。
チート先生もいろいろ試行錯誤しているみたいだけど、初めて使った機能なんだから想定外があっても仕方がない。
階段を降りると、少し周囲の雰囲気が変わった。
通路の両側に小さな部屋が並んでいる。
壁には何かの魔法陣が刻まれているみたいだ。
人形チート様端末――すなわち子機が扉の隙間から入り込み一つ一つの部屋を知覚していく。
空の部屋もあれば魔物や、明らかに魔力が高そうな存在が感知される部屋もある。
多分そいつが魔族かな?
とりあえず使ってなさそうな部屋に身を隠しこの階の情報を集めることにした。
もし、黒狼団の頭目クラスの魔族がこれだけの人数いたら……《インフェルノ・ノヴァ単発マシマシ》で片っ端からぶっ飛ばして――そんな雑な方法で行けるのか?
魔族攻略シミュレーションを脳内で繰り返している間に子機たちはさらに奥へ進む。
地下二階の最奥に少し広い部屋があり、そこに二人の魔族らしき反応があった。
部屋に子機が侵入する前から検知できたので相当の魔力量だ。
感覚的には……人狼と同じか、それ以上だ。
『人間どもの軍勢の動きはどうだ』
若い男の声が聞こえる。天井に貼りついた子機が拾っている音だ。
『騎馬が百騎以上とのことですが所詮は威力偵察の類ですな、こちらの圧力に耐えかね一当て様子を見に来たのでしょう。下級魔物どもが迎撃していますが無理追いはしないよう厳命しております』
もう一人、しゅうしゅうとくぐもったようなしわがれ声が聞こえる。
『それでいい、ルミナスへの鍵さえ入手すれば我らの勝利は揺るがん。局地戦で無駄に損耗している場合ではない』
ルミナス?
今いるルミナス王国のことか?
鍵って何だ? こいつら領都を落としに来たんじゃないのか?
『それより、イグナートの方はどうなっているか? よもや鍵の奪取にてこずることなどあるまいな?』
『ふふ、アシュレイ殿。気が急いておりますぞ。彼の者ほどの手練れが在処まで分かっている品を得損ねることもありますまい、城へたどり着くにもまだ間がありましょう』
しわがれ声がたしなめるように発する。
城だって?……まさかこいつら、領都に別動隊を向かわせているんじゃ……。
『ふっ、言うなグラド。魔王陛下より直々に賜った今回の任務。神征魔王軍の先鞭をつけるに相応しい働きを見せれば陛下の信も厚くなろう、さすればお主も一介の軍務官から将来は将軍位も夢ではない』
神征魔王軍!?
『ほほっ、その折にはアシュレイ殿のご推挙に期待しておりますぞ。して、ルミナスへの道を開かれた後は、その功をもってゼノヴィア様へのご婚約の申し入れですな。我ら竜魔族一同、アシュレイ様のご栄達、心よりお慶び申し上げますぞ』
竜魔族……魔族にもいろいろあるってことか。ゼノヴィア……誰だろう。
『よせ、グラド。すべては――『……そこにいるの、誰?』——』
は? なんだ? 今の? 混線した? アシュレイとグラドの会話に女の人の声が割り込んだ。
『シキガミの向こうにいる方、聞こえていますね……』
気づいてる!? シキガミって"子機"のことか?
『お願い……助けて……私を……ここから……魔王軍のことも、ルミナス・ハートのこともすべて話します……私を、助けて』
声は弱々しく不明瞭、たぶん別階層だ。
ルミナス・ハート?
また新しい情報だ。
リョージは迷った。
情報収集を続けるべきか。それとも——
くそ。気になって幹部二人(推定)の話が頭に入ってこない。
声の場所は……地下三階か。かすれるような声はか細く、今にも消えてしまいそうだ。
リョージは隠れていた部屋を出た。
地下二階の脳内マップを頼りにさらに下へ降りるための階段へ向かう。
歩哨をやり過ごし、できるだけ音を立てないように。
地下二階の最奥。
幹部二人の部屋の前を通り過ぎるときは特に慎重に。
物陰に身を潜めながら、地下三階への階段へ向かった。
階段を見つけ、静かに降りていく。
地下三階。
広い空間。天井は高く、石柱が何本も立っている。
中央に大きな魔法陣のようなものが刻まれている。
このフロアには例の声の主の他に誰もいないことは子機たちが確認済みだ。
魔法陣のさらに奥へと進んでいく。
暗闇の中を何やらボソボソと呟く声が聞こえる。
「……助けて……お願い……ここから……出して」
暗闇の中聞こえる女性のささやき声。
ここだけ見たら完全にホラーだ。
床に描かれた魔方陣の奥、壁際にX型の貼り付け台が置かれていた。
そこに両手両足を広げたまま拘束されている女性の姿が見えた。
暗闇に朧に浮かぶその姿は、全裸だ――
「きて……くれたの?」
息も絶え絶えに魔族らしき女性は顔をあげた。
どきり。
モノクロ視界でもわかる。
細身の儚げな美女、濃い色の長髪が全身に絡みつきなんともなまめかしい。
額に小さな角が生えている。魔族か?
「遅れてすまん……大丈夫か?」
顔は背けたけど、ばっちり全部で見てしまったことに気づかれただろうか。
「今、助ける」
そうは言っても拘束の解き方が判らない。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.4〉:魔法使用
《アンロック》:消費MP4×4個所
効果:魔法拘束の解除
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サンキュー、神チート。
戒めから解放され、倒れ込んでくる女性の体を抱きしめるように支えた。
女性はぐったりと全身をリョージに預けた。うわ……柔らかい。
もう何日も張り付けになったままだったのか、かすかに匂いが香る。
「……ありがとう……よかった、やっぱり人間の男の人だった……」
「喋るな。すぐに外へ——」
「待って……」
女性がリョージの腕を掴んだ。
「……お願い……精を……」
「は?」
「私……の魔力源は……人間の精……もう……魔力が……枯渇してる……このままじゃ……動けない……」
彼女の潤んだ瞳がリョージを見つめた。すがりつくような必死の懇願だ。
「お願い……助けて……あなたの……精を……少しだけ……」
おいおい、精を分けるってどうやって——
耳元で唇がささやいた。
「え……」
聞かされた方法に、リョージは一瞬躊躇した。
だが——
「……分かった」
せめてもとリョージは無限収納からマントを取り出し、シーツの布代わりに床に敷いた。
安心の完結保証付きです。
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