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【完結】異世界転生したんだが神から貰った最強スキル【神チート】がクソ仕様  作者: Darjack
第3章

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第29話 よろしく頼みます

 翌朝、リョージは一人で城を出た。


 エレナの姿は見えない。

 昨夜客室に戻る前、彼女はこう言っていた。


「明日朝の見送りはできません。私は私の戦場で戦います」


 見送りに来ないのは当然だ。

 彼女には彼女の戦場がある。

 べ、別になんだか寂しいって訳じゃないんだからね!


 城門を抜け、馬に跨る。

 領都の朝は人で溢れていた。

 石畳の通りには荷車が並び、家財道具を積んだ人々が行き交っている。

 避難民だ。

 魔王軍の侵攻から逃れ、領都へ流れ込んできたのだろう。

 皆、疲れ切った表情で黙々と歩いている。

 気力を失ったような、虚ろな目をした人々。

 馬の腹を軽く蹴り、人混みを縫うように進む。

 避難民たちは無言で道を空けてくれた。


 城下町を抜け、街道を北西へ向かう。

 魔王軍が駐屯しているらしき遺跡へと向かう。

 馬で行けば三時間ほどの道のりだ。

 空は曇っている。

 風が冷たい。

 街道は整備されているが、北へ進むにつれて人通りが減っていく。

 時折、避難民を乗せた荷馬車とすれ違う程度だ。

 皆、領都へ向かっている。



 昼過ぎ、砦のようなものが見えてきた。


 木柵で囲まれ、櫓が立っている。

 周囲にはテントが並び、馬が繋がれている。

 兵士たちが慌ただしく動き回っていた。


 あれが最前線基地か。

 門の前で馬を止める。


「止まれ」


 槍を構えた衛兵が二人、前に立ちはだかった。


「何者だ」

「辺境伯閣下から遺跡の調査を命じられた者だ。司令官殿に目通りを願いたい」


 衛兵の一人が眉をひそめた。


「そんな話は聞いていないが」


 もう一人が訝しげに見る。


「名は?」

「リョージだ」

「何か証拠はあるのか?」


 証拠、か。

 ノクス・コルはエレナに預けちゃったしなぁ。

 本来こういう時のために預かったんだったよねぇアレ。


「今はない。だが、司令官殿に会ってお話ができればご理解いただけるはずだ」


 辺境伯たちとの会議の内容を説明すれば分かってくれる。

 ――と信じよう。

 衛兵が顔を見合わせた。


「確認を取る。ここで待て」


 一人が砦の中へ走っていった。

 もう一人の衛兵が槍を下ろさずに見張っている。

 仕方ない、待つしかない。


 馬から降り、手綱を握ったまま立っていた。

 兵士たちが遠巻きに見ている。

 怪しい奴が来た、という熱視線だ。


 しばらくして。


「リョージ……殿!」


 聞き覚えのある声が響いた。


「エレナ……様?」


 金髪を後ろで束ねたエレナが、軽装の鎧を身につけている。

 剣を腰に下げ、颯爽と歩いてくる。


「はい、お疲れ様です」


 彼女はにっこりと笑った。

 なるほど、それで見送りに来なかったのか。

 独断専行とな?

 でも、なんだか少しほっとしている自分がいる。

 衛兵が慌てて槍を下げた。


「エレナ様」

「この方はルートヴィヒ兄様のお客人です。私が保証します」

「は、はっ」


 衛兵が敬礼する。


 エレナがリョージに向き直った。


「さあ、兄の元へご案内します」

「助かります」

「私も少しは役に立つでしょう?」


 彼女は軽く微笑んで、先を歩き始めた。

 いや、来るの分かっているんだから、一言兵士に言っておいてくれれば――と、思いながら。

 エレナの同行を断ったのは自分だったっけと思い直した。

 まぁ確かに助かったわけだし。

 べ、別にまた会えて嬉しいとかじゃないんだからね!


 砦の中は思ったより広い。

 中央に大きな天幕があり、周囲に小さな天幕が並んでいる。

 兵士たちが武器の手入れや、食事の準備をしている。

 中央の天幕へ案内された。

 入口で衛兵が一礼し、中へ通してくれる。

 天幕の中は作戦本部のようだった。

 大きな机に地図が広げられ、その周りに数人の騎士が立っている。


 中央に立つ男がこちらに視線を向けた。

 金髪でエレナに似た整った顔立ち、カイルより父親の面影が濃い。

 目元に疲労の色が浮かんでいる。


「兄様、リョージ殿をお連れしました」

「ああ」


 男が一歩近づいてきた。


「初めまして、リョージ殿。エレナの兄、ルートヴィヒと申します」

「冒険者のリョージです」


 リョージは頭を下げた。


「妹を助けていただいたと聞きました。感謝します」


 ルートヴィヒが頭を下げる。

 一介の冒険者に、腰の低い御仁だ。


「いえ、当然のことをしたまでです」

「エレナから話は聞いています。あの状況で妹を救えたのは、相当の実力があってこそです。窮地にそんな方と居合わせた妹は運が良かった」


 彼は顔を上げ、笑顔で真っ直ぐにリョージを見た。


「遺跡へ潜入して魔王軍の目的を探る、との提案をされたと妹から聞きましたが。正直、私は賛同しかねます」


 ルートヴィヒは神妙な顔で首を横に振った。


「まず遺跡のある山の麓で徘徊している、数千の魔物たちの間をぐぐり抜けることが至難の業です。不可能に近い」


 ルートヴィヒの目はじっとこちらを見つめている。


「たとえそこを抜けて遺跡までたどり着いても、内部には強力な魔族が陣取っている可能性が高い。単身で潜入し情報を掴んで帰って来る、などというのは到底無理な話です。吟遊詩人の詠う英雄譚の勇者ででもあれば可能でしょうが、所詮は作り話です。現実はそうはいかない」


 イイ男だなぁ。

 こっちはどこの馬の骨か分からない風来坊。

 万が一情報が手に入ればラッキー、生きようが死のうが自分の立場には関係ない。

 それくらいの気持ちで送り出しても、痛くもかゆくもなかろうに。


「兄様」


 エレナが懐からペンダントを取り出した。


「これを」


 ルートヴィヒの目が見開かれた。


「それは! ノルトヴァルトの夜星、ノクス・コルをなぜお前が?」

「父上がリョージ殿に託されたものを預かりました」


 無くすと困るので……なんてとても言えない雰囲気だった。

 さすがにこれくらいの空気は読める。


「父上が? ノルトヴァルトの夜星を?」


 ルートヴィヒが信じられないという表情でリョージを見た。


「全権委任の証として、です」


 エレナが静かに言った。


「父上はリョージ殿を信頼しています。私も命を救っていただきました。兄様、遺跡の偵察はリョージさんの提案です、協力をお願いします」


 ルートヴィヒが黙り込む。


 数秒の沈黙の後、思い切ったように深く息を吐いた。


「わかりました。父上と妹がそこまで信頼しているのなら、私も信じましょう」


 彼は机の地図を指し示した。


「こちらへ。今わかっていることすべてを説明します」


 前線基地と遺跡の位置関係、大まかな魔物の配置、そして遺跡自体の構造へと話は移っていった。


「遺跡は長らく放置されていました。数十年前に調査隊が入りましたが、ただの石造りの建物の中央に祭壇らしきものがあるとしか知られていません」

「建てられた目的もですか?」

「はい、古代魔導文明の時代に建てられたのではないか? という推測だけです」

「そんな所に今更魔王軍が」


 エレナが口を挟んだ。


「それを知るために潜入偵察をするのでしょう?」


 ルートヴィヒが妹を見る。


「魔王軍が遺跡を占拠している理由、それを知らなければ対策も立てられません」


 ルートヴィヒは深く息を吐いた。


「くれぐれも無理はしないでください。情報が得られなくても、生きて戻ることを最優先に」

「承知しました」

「それと」


 エレナがルートヴィヒを見上げる。


「私も同行します」

「何?」


 ルートヴィヒが目を細めた。


「エレナ、お前……」

「二人なら互いに援護できます。片方が発見されても、もう片方が逃げられます」

「却下だ」


 ルートヴィヒは即答した。


「お前は後継者ではないが、それでもノルトヴァルト家の血を引く者だ。そんな危険な任務には就かせられない」

「ですが……」

「それに」


 リョージが口を開いた。


「俺が一人の方がやりやすい」


 エレナがリョージを見る。

 そんな悲しそうな目で見ないでくれよ。


「そう、ですか」


 彼女は唇を噛んだ。


「わかりました、それならば——」


 彼女は一瞬、何かを考えるような表情を浮かべた。


「別の方法で協力します」




 遺跡から約2kmの地点。

 岩陰に身を潜め、リョージはルートヴィヒと並んで遺跡を見つめていた。

 司令官がこんな最前線まで出てくるのもどうかと思うが、この辺りまでは何度も偵察に来ているらしい。

 ずいぶんとイケイケの司令官だこと。

 間違いなくどこかの妹と同じ血が流れている。


「しつこいようですが、ご安全を優先してください」


 ルートヴィヒが低い声で言った。


「情報は重要です。ですが、あなたの命も大切です。膠着状態であってもかかるのは戦費だけです。それに、国軍も編成が完了し次第援軍に来るはずですので」

「わかっています」


 夕暮れが近い。

 空は茜色に染まり始めている。


「わが妹ながら、あれは傑物です」


 ルートヴィヒが唐突に言った。


「エレナ様のことですか」

「ええ、騎士としても、戦術眼も優れている。指揮官としての才もある」


 彼は遠くを見つめている。


「あとは、いい嫁の貰い手があれば」


 そう言いながら、ちらりとリョージを見た。


「え」

「いえ、独り言です」


 ルートヴィヒが視線を逸らす。

 その時だった。

 遠くで角笛の音が響いた。

 続いて、鬨の声が聞こえる。


 遺跡の向こう側——北側から、喊声が上がっている。


「始まったか」


 ルートヴィヒが呟いた。

 魔王軍の兵たちが浮足立ち始める。

 魔物たちは北へ向かってのそりと動き出していく。


 エレナの言い出した協力。それは――

 騎馬隊を五〇騎ずつ、三隊に分け計一五〇騎で仕掛ける陽動攻撃だった。

 三つの騎馬隊はエレナの総指揮の下、押しては引き、引いては押し、縦横無尽に魔王軍をひっかき回していく。


 案の定、遺跡へ続く山道の警備はほぼ居なくなった。

 魔物たちは皆、北側へ向かっている。


「今です」


 ルートヴィヒがリョージの肩を叩いた。


「ご武運を」


 岩陰から木陰へ向かって走る。物陰から物陰を伝って――中腹の遺跡を目指すのだ。


「リョージ殿——」


 背後からルートヴィヒの声が聞こえた。


「妹をよろしく頼みます」


 え? 何、その含みのある言い方。


 振り返る暇はない。

 リョージは遺跡へと走る――影から影へと。

お読みいただきありがとうございます。


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