第25話 騎士家の娘
商都リベルタを発って二日目。
リョージは馬上で街道を進んでいた。
総督府から借りた栗毛の馬は、よく訓練された従順な馬だった。
もちろん、元の世界では乗馬なんてやってなかったんで、手綱さばきはチート様にお任せモード。
街道の両側には深い森が広がっている。
進むたびに、木々の間から差し込む陽光が地面に描く影の模様をぼんやりと眺めていた。
(順調だな)
このペースなら、予定通り三日で領都に着けるだろう。
商都リベルタからの援軍。
リョージ1人。
普通なら笑われるところだが、黒狼団800人を壊滅させた実績がある。
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【ステータス】
名前:アマツカ・リョージ
レベル:92
HP:9,200 / 9,200
MP:9,200 /9,200
〇スキル:神チート〈ver.1.1.1〉《言語理解》《無限収納》
《魔法適性:ALL》《感情共鳴》《火炎耐性》《超回復》
〇称号:【災厄の竜殺し】【魔樹殺し】【守護者】【街の英雄】【魔狼殺し】
〇装備:
《アダマス・ヴァルト》(名匠イバーナによる上業物 - 鋭利、耐久力向上、破損再生の魔法陣付与)
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まあまあのステイタスじゃないかと思う。
総督もギルドマスターのグレンも、一騎当千の実力に期待してくれているのだ。
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【警告】
神チート〈ver.1.1.1〉:敵対存在を検知。
対象:魔物×5
非対象:人間×1
距離:北東方向、約800メートル
推奨行動:接近
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(魔物? それに人間?)
リョージは馬の手綱を引いた。
(操作はチート先生だけどな)
速度が上がる。
街道を外れ、森の中へ入る。
木々の間を縫うように進むと、前方から金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
戦闘の音だ。
(誰かが魔物に襲われている!)
木の間をすり抜けるには、これ以上は馬では無理だ。
すぐさま飛び降り、音のする方向へ走った。
数十メートル先、小さな空き地があった。
そこには——
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【警告】
神チート〈ver.1.1.1〉:敵対存在を識別。
対象:オーク(Lv.150)×5
推奨行動:即座に排除
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オーク!
人間に似た体躯だが、身長は2メートルを超える。
半分猪のような筋肉質な体に鋭い爪と牙。
一体のオークが人間を組み伏せていた。
周囲には、さらに四体のオークがいた。
下卑た笑い声を上げている。
「いやあああああっ! やめてぇぇぇ!」
女性の叫び声。
ちらりとむき出しの白い肌が目に映った。
くそっ!
全員相変わらず汚らしいものをおっ勃てやがって。
放映時は要モザイクだぞ!
《アイスボルト》!
白く輝く魔法陣から矢が放たれた。
瞬間、秒速10メートルを超えて駆け抜ける。
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【スキル発動】
神チート〈ver.1.1.1〉:敵対存在を殲滅します。
推定時間:0.2秒
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女性を組み伏せていたオークの頭半分が氷の矢の直撃で吹っ飛んだ。
ほぼ同時に最も近いオークを袈裟懸けに斬り裂く。
返す刀で、右側のヤツを逆袈裟に斬り上げ。
一歩踏み込み、まだ笑い続けている豚顔の喉を突き。
力技でそのまま横に薙ぐ。
最後の一体の首が舞い、地面に落ちた。
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【スキル発動完了】
神チート〈ver.1.1.1〉:敵対存在を殲滅しました。
結果:オーク(Lv.150)×5撃破
経験値:750獲得
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剣の血を払う。
さすがはギルド長のグレンから託された逸品だ、切れ味が数段違う。
空き地の隅には、複数の人間の死体が転がっていた。
騎士の装備を身につけている。
「助っ……け――」
頭の半分吹き飛んだオークの下敷きになっていた女性がもがいている。
「今助ける」
声をかけてオークの死体を引きはがし、脇へ転がした。
白い肌が目に入った。
胸元が露わになっている。
……腕と脚の周りだけを残し、それ以外の装備は引きちぎられ辺りに散乱していた。
美しい。
整った顔立ち、金髪の女性。
年齢は十七、八といったところか。
少女は自分の裸体が晒されていることに気づいた。
「!……」
腕で胸元を隠し、体育すわりの様に身を縮めた。
全身を震わせている。
リョージは視線を逸らし、背を向けた。
ごめん、『髪の毛より少し濃い色なんだな』なんて思ってないから。
肩にかけていたマントを外し、後ろ手に差し出す。
ちょっと前かがみ気味になっているのは内緒だ。
2⋯3⋯5⋯7⋯11⋯13⋯17⋯⋯――。
背後で、布の擦れる音がした。
「……もう大丈夫だ」
リョージは振り返った。
金髪の少女が、リョージのマントを胸元に当てて身を包んでいた。
それから、ゆっくりと立ち上がる。
姿勢を正すと、凛とした表情になった。
「助けてくれて、感謝する」
警戒の色が滲んでいる。
「私はエレナ。ノルトヴァルトの騎士家の娘だ」
「リョージといいます。冒険者です」
「冒険者か、これからどこへ向かう予定か?」
エレナはリョージの顔を見た。
すがるような瞳がまぶしい。素直に『助けて』って言えばいいのに。
「商都リベルタからノルトヴァルト領都へ向かう途中でして」
「そうか! 私も領都へ帰ってこのことを報告せねばならん。できたら同行を頼めないだろうか? 報酬は領都で必ず支払う」
「わかりました。その依頼、引き受けましょう」
この先の方針が決まった。
エレナの視線が、空き地の隅に転がる騎士姿の遺体へと向いた。
「……全員やられてしまった」
エレナの声が震えている。
その先は、言葉にならなかった。
エレナは倒れた騎士たちに近づき、それぞれの首から下げられた認識票を外していった。
その手は震えていた。
埋葬している時間はないからな。
死体ならば無限収納で運べるが、そこまで情報開示するつもりはない。
「……行こう」
エレナが振り返った。
目が少し赤い。
来た道を戻り、栗毛の馬を連れてきた。
馬に括り付けた荷袋から出したていでリョージの着替えを手渡した。
「重ね重ねすまないな」
赤い顔をしたエレナの身支度を待って出発する。
「二人で馬に乗っていきましょう。その方が多少は早い」
エレナは少し躊躇った後、馬に跨った。
リョージもその後ろに跨る。
エレナを後ろから抱きかかえる形になる。
エレナの体が硬くなった。緊張しているのか体温も高い。
これはハラスメントじゃないからね、断じて。
リョージは手綱を取り、馬を街道へと向けた。
空は高く、青く澄んでいた。
北の空には、うっすらと暗い雲が広がっていた。
エレナは前を向いたまま、黙っている。
「エレナさん」
「……何だ?」
「領都まで、あとどのくらいかかりますか?」
「二人乗りだと……二日はかかるだろう」
「そうですか、実は私リベルタ総督から伯爵閣下への親書を預かっておりまして、職務上魔王軍の動向など参考までにお聞かせ願えるとありがたいのですが」
「何?! おと……いや、伯爵閣下に総督殿から?」
エレナは振り返り胡乱げな視線で睨めつけてきた。
まぁ、そうだよね。
「中を見せる訳にはいきませんけど」
総督から預かった親書を胸元から取り出して見せた。
本当は無限収納に入れてあったのは言わずもがなである。
「ふむ、おじ……総督殿の封蝋で間違いはないな」
軽く息を吐いた後。
「魔王軍の侵攻まで、まだ数日は持つはずだ。我々の到着より先に領都が侵されることもあるまい。油断はできないがな」
「なるほど、ありがとうございます」
素直に礼を言った。
会話が途切れた。
街道を進む馬の足音だけが響く。
陽が少し傾き始めた頃、エレナが口を開いた。
「……君は、冒険者になって長いのか?」
「いえ、先々週ぐらいですかね、登録したのは」
この世界にやってきて一月もたっていないのだ。
「ええっ! 先々週? それほどの実力があるというのか?」
驚愕の目が年相応の少女らしく、なんだかやっとエレナの素顔を見た気がした。
「ええ、C級冒険者です」
「C級……」
エレナは感嘆の声を上げた。
「二週間で、C級とは。若いのに相当な実力者だな」
「運が良かっただけですよ」
ほとんどチート様のおかげだし、仲間にも恵まれた。
「……運も実力のうちというがな」
エレナは、再び疑わしげな目でリョージを見た。
だが、それ以上、追及しては来なかった。




