第24話 銀月亭、新しい朝
「これでお前も正式にC級だ」
グレンが新しいギルドカードを手渡しながら言った。
「ありがとうございます」
ギルドマスターの執務室で二人だけの授与式だ。
「今回の報酬だが……正直、いろいろ立て込んでいて査定に時間がかかる。リベルタ総督からも功績絶大であるとのお言葉はあったが報奨金の額はまだ決めかねているとのことだ。ギルドから前渡金として小金貨30枚を支払う。残りは口座に預けておく。それでいいか?」
「構いません」
リョージは小金貨の入った袋を受け取った。
グレンは真剣な表情でリョージを見た。
「それと……リベルタ総督が、お前に会いたいとおっしゃっている」
「総督が……ですか?」
「ああ。黒狼団壊滅の報告を受けて、直々にお呼びだ。すぐに総督府へ向かってくれ」
「分かりました」
リョージは頷いた。
総督府は、商都リベルタの中心部にある立派な建物だった。
衛兵に案内され、リョージは謁見の間へ通された。
奥の席には、初老の男性が座っていた。
リベルタ総督、ヴァルター・ノルトヴァルト。
ノルトヴァルト辺境伯の弟で、商都リベルタの統治を任されている人物だそうだ。
「よく来てくれた、冒険者リョージ」
総督は穏やかな口調で言った。
「黒狼団を壊滅させたそうだな。見事だ」
「ありがとうございます」
リョージは頭を下げた。
「単刀直入に言おう」
総督は真剣な表情になった。
「現在魔王軍が、ノルトヴァルト領都に向けて進軍していることは、お前も知っているだろう」
「はい」
嘘です。初耳なんですけど? 何その非常事態!
「領都は今、危機に瀕している。だが、リベルタからは大規模な援軍を送れない。この商都も、先の盗賊団からの被害で防衛戦力ギリギリな状態であるのが現状だ」
総督はリョージを見、細い目をさらに細めた。
「そこで、そなたに頼みたい。リベルタからの応援の冒険者として、領都へ向かってほしい。単身で800人規模の盗賊団を壊滅させた男だ、文字通り一騎当千の活躍を期待している」
リョージは黙って頷いた。
「……即答か」
総督は少し驚いた表情を浮かべた。
「では、ギルドを通して正式に指名依頼を出そう。支度金として金貨5枚を支払う。もちろん成功報酬は別だ」
「ありがとうございます」
「馬は用意する、なるべく早く出発してほしい。いつごろ出られそうだ?」
「今日明日で準備を整えて明後日の朝には」
「流石だな、即断即決。なかなかに頼もしい」
そんなこんなで総督府から冒険者ギルドにとんぼ返りした。
総督から直に預かった依頼書をグレンに手渡すと中身を確認してため息をついていた。
「わざわざ本人を呼び出して依頼書の搬送とは……総督も人が悪い。まぁ、一度お前の顔を見て置きたかったんだろうな。ではギルドを通して正式に指名依頼しよう。領都への援軍派遣だ」
依頼書には総督の目の前で受領のサインをしてある。
「支度金の金貨5枚と辺境伯閣下への親書は、直接預かりました。明後日の朝、総督府から馬で出発します」
「……」
グレンはじっとリョージの顔を見つめていた。
「持っていた剣は破損したそうだな」
「ええ、グリーン・フィールド村の村長から預かった大切な剣だったんですが、修理不能だそうで……」
「……」
おもむろに立ち上がったグレンはギルド長室の後ろの壁に架けられた長剣を取り、一度その鞘を丁寧に撫でた後。ずいとリョージに差し出した。
「持っていけ、自警団の剣よりはマシなはずだ」
「え……。いいんですか?」
おいおい、なんだかお高そうな装飾がてんこ盛りですけど?
「壁の肥やしになっているよりもお前に使われる方がその剣にふさわしい」
リョージはそれを受け取り鞘から抜いてみた。
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【鑑定】
神チート〈ver.1.0.1〉:銘
名匠イバーナによる上業物
鋭利、耐久力向上、破損再生の魔法陣が刻まれている。
百人斬っても大丈夫。
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「おお……」
「……判るのか……流石だな」
いや、チート先生の解説読んでただけなんですけどね。
なんだか、ギルド長の生暖かい視線に包まれながら。執務室を後にした。
月下の酒場の二階にある一室。
二日間、買い出しに付き合ってもらったサラと一緒にザーラの部屋に呼び出された。
あの熱い一夜を思い出してしまう。
今は三人だけの空間。
ノルトヴァルト領都へ向かう準備に時間は取られていたがもちろん男としての責任から逃げる気はカケラもなかった。
むしろ落ち着いて話をする場を用意してくれたザーラに感謝だ。
「ザーラ……そしてサラ。俺は君たちに言わなきゃならないことがある……」
あのとき。もっと違和感の正体を追究していれば盗賊団の陽動作戦に引っかからなかったかもしれない。
そうすれば、皆……女性としての尊厳を穢されるようなことにはならなかったはずなのだ。
ポカッ!
痛っ!
「え……」
魔族の人狼に殴られても痛くなかったのに?!
ザーラの一撃クリティカルヒット? 神チート忖度すんの? 怖ワッ!
「リョージ。あんた、助けた娘たち全員に自分が責任取りますとか言ってるんだって? 正直、みんな引いてるんだけど」
「……えーと? そりゃ——」
もっと早く気づいて、もっと早く動いていれば。だれも傷つかなかった訳で……。
「ちーがーうーだーろ?」
ザーラが仁王立ちで遮った。
「兵隊が盗賊団に騙されたことも、町が襲われたこともあんたにひとっかけらも責任ないでしょう」
なにこれ、ザーラさん怖い。
「あんたはたった一人で盗賊のアジトに乗り込んで私たちを助けてくれたんだよ? それで十分ありがとうなんだよ」
「でも……」
「いいから」
ザーラは強い口調で言った。
そして、サラの手を取った。
「リョージ。サラを見て」
サラは俯いていた。
「サラは……あんたのことが好き。ずっと前から」
「ザーラ……」
サラが小さく呟いた。
「だから、サラをお嫁さんにしてあげて」
ザーラの言葉に、リョージは息を呑んだ。
「サラ」
ザーラは今度はサラの両手を掴み。
「残念だけどリョージは故郷に大切な人を残してきてるの、あんたの好きになったのは最高の男なんだからそれは当たり前の話よね? 二番目の妻じゃ嫌だなんて言わないでよ?」
サラがゆっくりと顔を上げた。
真っ赤になった顔の、眼鏡の向こうの瞳には涙が浮かんでいた。
「ザーラは……おねぇちゃんはどうなるの? おねぇちゃんだって本当は……」
「何言ってるの! 私みたいなあばずれがリョージに相応しいはずがないじゃないの。私はもう十分に思い出を貰ったから……」
「……サラ」
リョージはサラの名を呼んだ。
「俺は……君を、妻として迎えたい」
サラの目が見開かれた。
ほろりと一滴の涙が零れた。
「そして……ザーラ」
「何よ」
「君も俺の妻になって欲しい」
母親の様なまなざしをサラに向けていたザーラのキョトンとした顔。
「な、何馬鹿なこと言ってんの、場末の酒場女なんかあなたに相応しい訳が……ないじゃない、一夜の思い出だけで充分よ!」
「駄目っ!」
今度はサラが叫んだ。
「私一人だけ幸せになんてなれない…」
「だ、そうだ。ザーラ。諦めて俺たちの幸せの為に、いや俺の幸せの為に頼む」
ぐッと頭を下げて見せた。
「君たちは、俺の妻として、本当の姉妹になるんだよ」
「あ……」
サラが目をキラキラさせて嬉しそうに笑った。
「……おねぇちゃん……本当の! おねぇちゃん!」
縋り付くサラの頭を撫でながら。
「……あんた、本当に馬鹿ね」
そう言って、ザーラはぽろぽろと涙をこぼしながら笑った。
そして、サラの背中をポンと押した。
「さあ、サラ。行ってらっしゃい」
「え……?」
サラが戸惑った表情を浮かべた。
「リョージと一緒に行きなさい」
「で、でも……」
「いいから」
ザーラはサラをリョージの方へ押し出した。
「私はもう済ませてるからね。今度はサラの番」
サラの顔が真っ赤になった。
「ザ、ザーラおねぇちゃん……!」
「ほら、行った行った」
ザーラは二人を部屋から追い出した。
去り際、ザーラがリョージの手の中に押し込んだのは。
銀月亭のスイートルームの鍵だった。
部屋に入ると、サラは緊張した面持ちで立っていた。
「サラ……」
リョージは彼女の名を呼んだ。
サラがゆっくりと顔を上げた。
「ちっとも怖く……ないです」
サラは震えながら小さく微笑んだ。
「リョージ様なら……」
リョージはサラを抱き寄せた。
サラの体が少し震えている。
「大丈夫だ」
リョージは優しく囁いた。
「ゆっくりでいい」
サラはリョージの胸に顔を埋めた。
「……お願いします」
月明かりが部屋を照らしていた。
サラの肌が、月の光に白く浮かび上がる。
リョージはゆっくりと、サラの服を脱がせた。
サラは目を閉じて、身を任せている。
その体は、初々しく、そして美しかった。
「サラ……」
リョージは彼女の名を呼んだ。
サラが目を開けた。
その瞳には、不安と期待が混じっていた。
「痛かったら、言ってくれ」
「……はい」
リョージはサラを抱きしめた。
サラの体が、一瞬強張った。
「っ……」
小さく声が漏れる。
「大丈夫か?」
「……大丈夫、です……」
サラはリョージの背中に手を回した。
「このまま……続けて、ください……」
リョージはゆっくりと動いた。
サラの吐息が、耳元で聞こえる。
時間が、ゆっくりと流れていった。
翌朝。
リョージが目を覚ますと、隣でサラが眠っていた。
穏やかな寝顔だった。
リョージは静かに彼女の髪を撫でた。掛け布がずれていたので、そっと引き上げてやろうとして——ベッドの真ん中に、目が引き寄せられた。
シーツには、小さな血の跡があった。
(……え?)
目を疑った。
これは……
「なぜ……?」
リョージは混乱した。
サラの乙女は……もうあの盗賊たちに……
でも、この血は……
「そうか……」
サラも、ザーラも、他の娘たちも……
よかった、本当は誰も、傷つけられては――。
リョージは深く息をついた。
(本当に、よかった……)
サラがゆっくりと目を開けた。
「リョージ……様……」
「おはよう、サラ」
「……おはようございます」
サラは恥ずかしそうに微笑んだ。
リョージはサラを抱きしめた。
「サラ……ありがとう」
「え……?」
「いや、何でもない」
リョージは微笑んだ。
サラは不思議そうな顔をしたが、すぐにリョージの胸に顔を埋めた。
二人は、しばらくそのまま抱き合っていた。
「今日、領都へ向けて出発する」
リョージはサラに告げた。
サラは悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作った。
「……はい。お気をつけて、いってらっしゃい」
「必ず帰ってくる」
リョージはサラと唇を重ねた。
「待っていてくれ」
「はい……」
サラは涙を浮かべながら、頷いた。
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