第19話 迷宮入り
衛兵詰所前に向かうと、既に多くの冒険者と衛兵が集まっていた。
レオン、ミラ、ドラン。ガルドとグレンの姿も見える。
そして、ギルドからサラが駆けつけてきた。
「リョージ様……」
彼女が駆け寄ってきた。昨夜のザーラを思い出し胸の奥がズキリと痛んだ。
「おはよう、サラ」
「お、おはようございます……」
サラは少し複雑そうな表情をしている。
「あの……お気をつけて、くださいね」
「うん、必ず戻ってくるよ」
「……約束、ですよ?」
サラがリョージの手を握りしめた。
「約束するよ」
嘘じゃありません、今日は本心です。
しばらくして、衛兵隊長のバルトスが現れた。
「全員、揃ったようだな」
彼は地図を広げ、森の奥の一点を指差した。
「黒狼団の拠点は、ここだ。古い遺跡の跡地に潜んでいる」
衛兵と冒険者たちが地図を見つめる。
「我々は三つの班に分かれて侵入する。第一班は正面から、第二班は側面から、第三班は後方を警戒だ」
バルトスは各班のリーダーを指名していった。
リョージは第一班でガルドと一緒に正面から突入組、レオンパーティは第二班だった。
衛兵隊の後について進軍を始めた。
森へ向かう道中、だんだんと妙な違和感を覚えた。
チート様は何も伝えてこないので、具体的に何が引っ掛かっているのかは分からない。
「リョージ、どうした?」
ガルドが尋ねてきた。
「いえ……少し、嫌な予感がするだけです」
「……お前の予感か。気をつけた方がよさそうだな」
半日ほど進み、森の奥に古い石造りの遺跡が見えてきた。
三方を岩山に囲まれた場所で後ろに逃げ場はないし正面からの防御も弱そうだ。
石造りの古い建物で、所々が崩れている。どうみても拠点には向いていない。
どうしてこんな場所を選んだのだろう、だからこそ衛兵隊の調査も行き届かなかったと言えばそうなんだろうが。
「あれが黒狼団の拠点か……」
ガルドが呟いた。
「妙に静かだな、慎重に行こう」
バルトスが合図を送り、第一班が動き出した。
リョージとガルドは遺跡の正面へと向かう。
他の衛兵と冒険者たちは、側面へ回り込んでいく。
「リョージ、準備はいいか?」
「ええ」
リョージは村長の剣を抜いた。もうだいぶ手に馴染んできた相棒だ。
「では、行くぞ」
先頭の衛兵が遺跡の前広場へと突入した。
瞬間――
遺跡後方と左右の岩山から無数の矢が降ってきた。
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【警告】
神チート〈ver.0.5.5β〉:遠距離攻撃を検知。
対象:矢×多数
推奨行動:右手側石柱の影に退避
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「身を隠せ!」
ガルドが叫ぶ。
リョージは咄嗟に傍らの石柱の影に身を滑り込ませた。矢が石柱に当たって跳ね返り地面に突き刺さる。
「敵襲だ!」
「迎撃準備をしていやがった!」
遺跡の中からも、武装した盗賊たちが現れ矢を撃ち始めた。
十人、二十人、三十人――わらわらと湧いて出て来る、大楯もちも多いし弓も多い、むしろ弓兵隊だ。
「数が多いぞ!」
「大楯前へ! 押し出せ!」
ガルドが剣で飛んでくる矢を薙ぎ払う。
リョージも剣を振り回し、飛んでくる矢を防いだ。
「くそっ、なんだこいつら! 弓が多すぎるぞ!」
「怯むな! こちらも反撃しろ!」
かといって弓兵の数は限られているし、こっちは撃ち上げ、向こうは撃ち下ろし、どう考えても撃ち下ろしが有利だ。
盗賊たちの三方から撃ちかけて来る矢に衛兵隊は劣勢を強いられている。
衛兵隊や冒険者隊から散発的に魔法攻撃が飛ぶが、目立てばそちらに弓矢が集中して黙らされてしまう。
(くそっ! どうすればいい? 教えて神チート先生!)
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.5.5β〉:攻撃魔法の使用を推奨します。
自動照準を使用しますか?
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おおう! 《魔法適性:ALL》があ~るじゃないですか!
今まで魔法使う機会がなかったのですっかり意識の外にあった。
向こうの矢が届くということはこちらからの射線も通っている訳で。
空間に現れた丸に十字の照準器風の3Dマーカーが自動照準で赤く切り替わった瞬間、心の中でAボタンを押した。
「ぐぁぁ!」
遠くで叫び声が聞こえた。
空中に描かれた魔法陣から飛び出した一本の白い矢がまっすぐに駆け上り盗賊の弓兵に突き立ったのだ。
「アイスボルト!」
思わず中二病風に叫んでみた。
隣の柱の陰でガルドが嬉しそうな顔でリョージを見ていた。
魔力量知ってるでしょうに。登録票にも魔法適性に全属性って書いたし。
「アイスボルト!」
「アイスボルト!」
本当は掛け声要らないんだけど雰囲気ってことで。白氷の矢を次々と連射していく。
盗賊団の弓矢が狙って来るがアイスボルトの連射速度のほうが早いので逆に黙らせられている。
魔法の矢だから撃ち上げても威力はたいして変わらない。
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残MP:8,156 / 8,200
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MPの減り方から言って1MPで一発発射、ならば1,000発ぐらいは撃っても大丈夫だな。
数十発ほど打ち込んだところで左右の岩山からの攻撃が止んだ。
その隙に。大楯を揃えた第二班が突入した。
レオンたちの雄叫びが聞こえるようだった。
多くの負傷者を出した第一班が左右に分かれ後詰めの第三班が態勢を立て直して突入した。
冒険者たちも次々と遺跡中へ入っていく。
「リョージ! 人が悪いぞ、魔力はあってもなかなか使わないから魔法は苦手なのかと思ってた」
ガルドが晴れやかな笑顔で言った。
「いやぁ、とっておきなもんで」
笑ってごまかした。魔法初めて使ったなんて言えねぇ。
「押せ! 一気に制圧するぞ!」
どこからかバルトス衛兵長の叫び声が聞こえる。
第三班と入れ替わったので今は第一班が後詰めの体制になる。
その後は大した抵抗もなく遺跡は衛兵たちが占領した形になった。
「制圧完了!」
衛兵の一人が叫んでいる。
バルトス衛兵長はご満悦で衛兵達の労をねぎらっている。
しかし。
遺跡内の捜索が進んでいく度に、バルトスの表情は険しくなっていった。
「どうされましたか? バルトス衛兵長殿」
ギルド長のグレンは難しい顔をしているバルトスの元へ向かった、リョージはガルドと共に何食わぬ顔でついていってみた。
「……グレン殿、これは一杯食わされたかもしれん」
バルトスは苦虫をかみつぶしたような表情で言葉を絞り出した。
バルトスに促され目を向けた遺跡の一角には、たしかに火を焚いたような跡はあったが冒険者が野営する程度の焚火の跡だけだった。
それを見てグレンも顔をしかめた。
「なるほど……三十人近くを捕縛されてもまだ反撃してくるような規模の盗賊団の拠点にしては生活の痕跡が薄すぎる……」
バルトスが周囲を見渡す。
「寝床も毛布があるだけ、村々から盗んだ食料も、行商人から奪った品物も……ほとんど何も残されていない」
「バルトス隊長! ご検分願います!」
衛兵の一人がバルトスへ声をかけた、後を追うグレンに続いてガルドとリョージもついていく。
そこは遺跡の裏手に当たる場所だ、あれだけの矢を射かけて来た弓手たちを追い詰めたはずだったが一人も発見できなかったという。
その場所は下が切り立った崖だった。
普通の人間が駆け降りることなぞとても出来るはずがない、神チートが発動したリョージを除いては。
ふと、岩陰で風に吹かれて動いたそれを目が追った。
それは黒く太い一本の剛毛だった。
人間の髪の毛ではありえない。
そういえば、捕まえた盗賊たちの衣服にもこれが付いていた様な気がする。
指でつまんで凝視するとチート先生が発動した。
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【鑑定】
神チート〈ver.0.5.5β〉:判定 ダイアウルフの毛
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お、鑑定機能も標準装備でしたかチート様。
「ダイアウルフ?」
思わず復唱したリョージの声をグレンが聞きつけた。
「それは、ダイアウルフの毛なのか? 確かにダイアウルフなら人間を乗せたままこの程度の崖を駆け下ることなぞ造作もないはずだが……」
言い淀んだグレンのセリフをガルドが引き継いだ。
「ダイアウルフは魔物だ、人間には絶対懐かん、食われて終わりだ」
消えた盗賊団の謎は迷宮入りした。
「隊長! バルトス隊長!」
息を切らした衛兵が駆け込んできた。
「隊長! 商都からの伝令です!」
グレンら関係者以外の者がいたにもかかわらず問答無用で衛兵は叫んだ。
「商都が襲撃されました!」
「何だと!」
「黒狼団が商都内部から突如現れ、街を襲っているということです!」
「くそっ、嵌められたか!」
バルトスが地面を叩く。
「全軍、直ちに商都へ戻るぞ!」
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