第12話 秘密の冒険者
測定室を出て、再び訓練場に戻る。
そこには、すでにレオンが待ち構えていた。
「よう坊主、測定はどうだった?」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「まあ……普通ですかね」
リョージは曖昧に答えた。
ガルドとサラが、無言で顔を見合わせる。
「そうかい。じゃあ次は模擬戦闘だな。俺も見させてもらうぜ」
レオンは訓練場の端に腰を下ろした。
「では、模擬戦闘を始めます」
サラの声にガルドが訓練場の中央に立った。
「ルールは簡単だ。俺と戦って、一撃でも入れられたら合格。ただし、こっちの攻撃を三発食らったら失格。武器は自由、魔法も使っていい」
ガルドは腰の大剣を抜いた。
「手加減はするが、本気で来い。じゃないと、お前の実力は測れねえからな」
「分かりました」
リョージは腰に差していた剣を抜いた。
「じゃあ、始めるぞ——」
瞬間、ガルドが地面を蹴った。
速い。街道で戦った盗賊なんかとは比較にならない。
大剣を横薙ぎに振るう。その一撃は、明らかに手加減しているとはいえ、並の冒険者なら避けられない速度だ。
だが。神チート様のアップデートは完了済みなんだな。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.3.4β〉:回避行動を実行します。
推奨移動:左へ0.8メートル
※神チートは AI のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
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※以下~~!! ポンコツが!
視界の端に矢印が現れる。短い赤。
色が緊急度合いで長さが距離だ、体の位置をずらす。
大剣がリョージの鼻先を掠める。ぎりぎり過ぎた! もう少し早く動くか回避距離を長くとるか。微調整、微調整。
「……ほう」
ガルドの目が、鋭くなった。
「避けたか。だが、次はどうだ!」
連続攻撃。頼むぜ神チート。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.3.4β〉:連続回避を実行します。
最適ルート:表示します。
※神チートは不正確な情報を表示することがあるため、生成された回答を再確認するようにしてください。
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※←コメントぉ~~!!
視界に青い軌跡が浮かび上がる。リョージはそれに従って、最小限の動きで避け続けた。
続いて上段。
下段。
横薙ぎ。
よしよし、さすがは神チート。指示通りに動けば面白いように回避できる。
「なんだこりゃ……」
レオンの声が聞こえる。
「全部避けてやがる……」
十数回の連撃が続く。
すべて、かすりもしない。
「……お前、本当に新人か?」
ガルドが剣を下ろし、息を整えた。
「回避能力だけなら、A級冒険者並みだぞ」
「いえ、その……」
リョージは剣を構えた。
「次、こっちから行っていいですか?」
「……来い」
ガルドが構え直す。
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【スキル発動】
神チート〈ver.0.3.4β〉:最適攻撃を実行します。
目標:右肩フェイント→脇腹
成功率:98.7%
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リョージは踏み込んだ。
剣を振るう。右肩への斬撃——
ガルドは余裕で受け止めた——はずだった。
だが、リョージの剣は受け止められる直前に軌道を変え、ガルドの脇腹へと滑り込む。
「——ッ!」
ガルドが後ろへ跳ぶ。
剣の切っ先が、彼の服を浅く裂いていた。
「……一撃、入れたな」
ガルドは自分の脇腹を見て、ゆっくりと笑った。
「合格だ」
訓練場が、静まり返る。
「……嘘だろ」
レオンが呆然とつぶやいた。
「ガルド試験官に一撃……?」
「リョージだったか。お前の初期ランクはD級とする。異論はないな、サラ」
「はい。魔力測定の結果と実戦技術を考慮すれば、妥当かと」
サラが頷く。その目は、相変わらずリョージを静かに観察していた。
「D級!?」
レオンが目を見開いた。
「新人でD級スタートなんて、めったにねえぞ!? 普通はG級かF級からだろ!?」
「だから本物だって言ってんだろ」
ガルドはレオンを一瞥し、リョージに向き直った。
「本来ならもっと上のランクでもいいくらいだが、実績がねえからな。依頼をこなしていけば、すぐにランクアップできるだろう」
「では、リョージ様。ギルドカードの発行と買取手続きを進めましょう」
サラがリョージを促す。
「はい」
リョージは彼女の後について、再び建物の中へ向かった。
レオンは、呆然と立ち尽くしたままだった。
◇◆◇
建物に戻ると、サラは受付カウンターではなく、奥の部屋へと案内した。
「買取はこちらの査定室で行います」
扉を開けると、広めの部屋に大きなテーブルが置かれていた。
壁際には天秤や測定器具、魔核の鑑定用と思われる水晶が並んでいる。
「こちらに討伐部位と魔核を出していただけますか」
サラがテーブルを示した。
「はい」
リョージはリュックを下ろし、中から討伐部位を取り出し始めた。
ゴブリンの右耳、ホーンラビットの角、フォレストスネークの毒袋—— 次々とテーブルに並べていく。
「……あの」
サラの声が、わずかに震えていた。
「はい?」
「その……量が、かなり多いようですが」
彼女の視線が、リュックとテーブルを行き来している。
「ああ、はい。三日ほど森で狩りをしてたんで」
「三日……」
サラは眼鏡を押し上げた。
オオカミの牙、オークの鼻、ブラックベアの毛皮—— テーブルが、みるみる埋まっていく。
「……リョージ様」
「はい」
「このリュックの容量では、この量の素材は入らないかと」
「……」
リョージは少し考えた。
「あの、サラさん」
「はい」
「もし、ですけど……容量が異常に大きい収納って、どのくらい珍しいものなんでしょう?」
サラの目が泳ぎ、そしてわずかに見開かれた。
「……もしかして、無限収納のことをおっしゃっていますか?」
「無限収納……?」
ちょっとわざとらしかったかな?
「ええ。無限……に近い容量の物を収納できる魔法技術です」
彼女は声を潜めた。
「事実かどうか定かではありませんが、歴史上、数名の英雄がスキルとして保有していたという記録がございます。現在、スキルとして持つ方は……王国に一人いるのかいないのか……」
「そんなに……」
「はい。もう少し容量の小さいものなら、魔道具として上級貴族や王族の方が所有しているものがあります。とはいえ、その価値は金貨数十枚以上かと」
金貨数十枚……って、おいくら万円?
サラは眼鏡の奥の瞳で、じっとリョージを見つめた。
「リョージ様のリュックは……もしかして」
「……ここだけの話ですが」
リョージは声を落とした。
「たまたま手に入れたんですが、容量がかなりあるみたいなんです」
「……なるほど」
サラは小さく頷いた。
「それは非常に貴重なものです。秘匿していただいた方がよろしいかと」
「はい、そうします」
「ギルド職員には守秘義務がございますので。私から他言することはありません」
彼女はそう言って、一礼した。
「あの……」
サラが言葉を継いだ。
「大量輸送の依頼がありましたら、指名依頼をお願いできるでしょうか? 冒険者ギルド内でも守秘事項として取り扱いますし、相応の報酬も保証されますし……」
「サラさんからの依頼なら」
リョージが答えると、サラの顔は見る見るうちに真っ赤に染まった。
「あ、ありがとうございます」
かすれる声が、意外にかわいい響きだった。
「では——」
サラは改めてテーブルの上を見た。
「かなりの量ですね。普通はこの量を狩るのに一ヶ月はかかります」
「そうなんですか」
(そういえば村長がそんなこと言っていたっけな)
「ええ。全て査定させていただきますが……あの」
彼女はリョージを見上げた。
「もしかして、まだありますか?」
「……はい」
「……やはり」
サラは小さく息を吐いた。
「こちらの査定室では手狭かもしれません。倉庫へ移動しましょう」
「分かりました」
二人は建物の奥、さらに広い倉庫へと移動した。
◇◆◇
石造りの天井が高く、魔物の素材や武具が整然と並べられている。
体育館ぐらいの広さがある。ここならアレも大丈夫だろう。
「では……」
リョージはリュックに手を突っ込み、《無限収納》から取り出し始めた。
街道で狩った魔物の素材。
そして——
ごろり、と。10メートル近い巨木が床に転がった。
「エルダー・トレント……!」
サラが後ずさりして息を呑む。
「それと……」
さらに大きな影が、倉庫に現れた。
黒い鱗。巨大な翼。鋭い牙。
体長二十メートルの黒き竜の骸が、倉庫の床を占拠した。
「……」
サラは言葉を失っていた。
「……少々、お待ちください」
ようやくそれだけ絞り出すと、ふらつきながら倉庫を出ていった。
数分後。
扉が開き、サラと——ガルドが入ってきた。
「おいおい、サラちゃん『とにかくすぐ来てください』なんて……」
倉庫の中を見たガルドの言葉が、止まる。
「……」
しばらくサラと同じ状態が続き。
「……なんだこりゃ」
ようやくそれだけ絞り出した。
「エルダー・トレントに……ドラゴン……?」
「はい」
リョージは頷いた。
「グリーン・フィールド村で討伐しました」
「……お前」
ガルドがゆっくりとリョージを振り返った。目が怖かった。
「グリーン・フィールド村で、何があった?」
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