chapter.5
おやつ時を終え、瑞華は夕飯の仕込みのためにキッチンへと引っ込み、椿は再び読書に没頭していた。
後ろ甲板では、洗濯物を取り込み終えた煉夏が、彼女が開けた大穴を修理している詩苑の手伝いをしている。
空は夕焼けに染まり始めて、水平線が赤く輝いていた。
「……どーして煉夏はこんな風に船を破壊できるの?」
「……力が有り余ってるから?」
「あ~…、はいはい。聞いたあたしがバカだったね、分かってるよそんなことは」
誰にともなく呟いた詩苑の言葉を受けて、煉夏が答える。
その返答に、頭が痛くなるような錯覚を覚えつつ、詩苑は投げやりに言った。
「だいたい煉夏は、……? どうしたの? 煉夏?」
再び小言を言おうと顔を上げ、煉夏を見た詩苑は、無言で立ち尽くす彼女の様子に尋常ではないものを感じ、煉夏に問うた。
「……来るよ、敵」
「え?」
煉夏の言葉に、彼女の見つめる方向に詩苑が視線をやってみても、詩苑の目には赤く染まった水平線が見えるだけで、何も映らない。
しかし、こういうときの煉夏の勘はよく当たるのだ。
「……片づけといてくれる? これ」
煉夏に修理用の板の片づけを頼むと、彼女がうなずくより早く、詩苑はメインマストの上の見張り台へと登る。
そこで改めて、望遠鏡で煉夏の見ていた方角を見ると、まだ遠いが、確かに船影が見えていた。
つくづく、煉夏の野生の勘は凄いと思う。
紅に浮かぶ黒い影は美しく、しかし黒い旗を掲げるその船は、どこか物々しい雰囲気を纏っている。
向こうもこちらに気付いているのだろう。迷うことなく真っ直ぐに向かってきていた。
さほど大きくはない船である。詩苑は注意を促す声を張り上げた。
「十二時の方角に海賊船! こっちに来てるよ!」
彼女の声に、甲板で読書をしていた椿は、しおりを挟んで本を閉じると、テーブルとイスを片づけだし、キッチンで仕込みをしていた瑞華は、その手を止めて甲板に出た。
見張り台から詩苑が降りてきて、板を片づけた煉夏が最後にそこに着く。
「あれは……『ジャッカル』だな」
近づいてきている船の海賊旗を見て、椿がボソリと呟いた。
『ジャッカル』とは、最近この海で名をあげてきている海賊団だ。一筋縄では倒せない敵である。
……もっとも、“普通なら”ではあるが。
戦闘は免れないだろうと言うのに、そこにいる誰もが、焦ることなくたたずんでいた。
「……さて。どうする? 瑞華」
答えなどとうに分かっている詩苑が、苦笑混じりに瑞華に問うた。
煉夏はすでに楽しそうに目を輝かせ、その横で、椿は静かに船長の言葉を待っている。
そして、瑞華が笑った。
「もちろん決まってる。宝が私を呼んでるわ!! お宝分捕って、がっつり金儲けッ」
「……まぁ、分かり切ってたけどな」
「結局は金か……」
ハートマークつきで言う瑞華に、椿と詩苑は深くため息をつく。
「よっしゃ! 久しぶりに腕がなる~♪」
腕をブンブンと振り回しながら、音符つきで煉夏が言った。
「つーわけで、全速前進!」
「「ラジャ~」」
「ラジャッ!」
やる気なげに応じる詩苑と椿とは対照的に、煉夏は至極楽しそうに声をあげる。
黄昏の風に揺られて、漆黒の旗と帆に描かれた『ブルーローズ』が、大きくはためいた。




