chapter.33
(…暑い…)
風呂で逆上せてしまったため、夜風に当たろうと甲板に出てきた椿は、船の手すりに寄りかかっていた。
予想以上に複雑な船の作りに、自分でさえ若干迷いそうになったのに、これでは詩苑や煉夏は迷うのではないか、あ、でも、煉夏は本能でなんとかなりそうかな、などと思いつつ、ぼーっと頬を撫でる風を受けている。
「椿ちゃーん、1人?」
「……」
急に聞こえた第三者の声に、椿の表情があからさまに歪む。
「俺も一緒に風にあたろうかな~?」
「うるさい消えろ。」
「ホントは嬉しいくせに~」
「死ね馬鹿。」
椿の嫌悪を欠片も気にせず隣に並ぼうとする犂人に、彼女の強烈な一言が飛ぶ。
しかし、彼にはなしのつぶてのようで、やはり効果はないようだ。
「…………」
嫌気がさしてその場を離れようとする椿の耳に、かすかな声が届く。
「…スコールが来るかもな…」
聞こえるか聞こえないかの小さな呟きだったが、幸い椿の耳には届いていた。
「なん…」
なんのことだ、と問い質そうとした椿も、その変化を感じることができた。
風が、変わった。
湿り気を帯びる風は、スコールの前触れだ。
“天空の奏者”と椿が呼ばれる所以は、やはりその実力による。
その椿よりも数秒早く、その変化を感じたのだ、この犂人は。
(…なんかムカつく)
複雑な心境に陥る椿を知ってか知らずか、犂人が椿の横の手すりに背を預ける。
その距離、約50㎝。
「…夜空がきれいだね」
「……そうだな」
「…明日の朝ごはん何かな~?」
「……知らん。」
「あっ、流れ星」
「…………だからどうした」
自分の隣で下らないことをほざく犂人に適当に相槌を打ちつつ、なんだかその場を離れるのも悔しくて、椿はただ海を眺めていた。
「…椿ちゃん、寒くない?」
「別に。」
ふと、犂人が言う。
それに間髪いれずに彼女は答えた。
それで話は終わりかと思いきや、不意に肩に僅かな重みを感じた。
自分の肩を見下ろすと、上着がかけられている。
「やっぱり、寒いでしょ?」
「…………」
それの正体が、犂人の着ていた上着だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
笑顔で言う犂人をちらりと見て、そしてすぐに視線を外す。
その後に続く言葉はなく、犂人は静かにしていた。
「……一応、礼は言っておく」
「…え?」
「……なんだ」
「……いや、なんでも」
隣で小さく笑う気配を感じたが、椿はそれをすべて無視する。
「どういたしまして」
「……ああ」
満天の星の下、月の光を弾く波が輝く。
(黙っていれば静かなのに…)
そんな当たり前のことを考えつつ、椿は大きく息を吐いた。
垣間見える、別のかお




