chapter.32
「…あれ? 迷っ、た…?」
廊下に一人立ち尽くし、詩苑は呟く。
風呂を上がったあと、煉夏が、「ちょっと探検してくるね!!」と言って、詩苑の静止も聞かずに駆け出したのをみて、慌てて追いかけてきたのだ。
しかし、ある程度分かっていたとは言え、思いの外煉夏が素早くて、彼女を見失ってしまい現在に至る。
「…うん、とりあえず帰ろう!」
自分で自分に気合いをいれて踵を返した、そのとき。
「「あ。」」
詩苑が後ろを振り返ると同時に、そこにあった扉が開いた。
そこから出てきた人物と鉢合わせた詩苑の動きが、数秒止まる。
どうやら詩苑が立ち尽くしていたのは、浴室の前だったらしい。
タオルで髪を拭きつつ立っていたのは智彌だった。
しかも、上半身裸で。
「…うわっと!? ごごごごご、ごめんなさい!!」
きれいについている筋肉に一瞬見とれていた詩苑は、次の瞬間には我に返り、慌てて彼に背を向ける。
「いや、別に構わないんだが…」
慌てふためく詩苑とは対照的に、智彌はあくまで冷静だ。
「じゃ、じゃあ、あたしはこれで…」
若干動揺から立ち直れていない詩苑がその場を離れようとすると、その背に智彌が声をかけた。
「…そんな格好だと寒いだろう。部屋で熱い茶でもごちそうしよう」
「…へ?」
恐らく、だぼだぼな服のせいで半ばまで肩が見えているからだろうが、なんの前置きもない智彌の言葉に、詩苑は虚をつかれる。
恐る恐る智彌をみると、すでにジャージに着替えていた彼が微笑を見せた。
「う、うん…?」
僅かに戸惑いを見せる詩苑の様子を肯定と受け取ったのか、智彌は満足気に頷く。
「え? ちょ…?」
「俺の部屋はこっちだ」
そして、有無を言わさずに詩苑の前に立ち歩きだした。
今さら断るのも気が引けて、結局詩苑は小さく息を吐く。
(…まぁほら、迷子になってたわけだから、ちょうどいいかなって思えば…)
無理矢理に自分の中で苦しい言い訳を考えつつ、詩苑も彼の後を追って歩き出した。
ラッキースケベ(?)




