chapter.29
スカルグロウの船に泊めてもらうことになったブルーローズ。
彼女たちは、船の空き部屋の一つを借りていた。
「…結局、押しきられてしまったな」
「だなぁ…」
椿と詩苑がため息を吐く。
「…それにしても、なんでこんなデカい部屋あるのよ…」
私の船をバカにしてんのかしら、と、ベッドに腰かけた瑞華が呟いた。
「うわーいっ!! このベッドふっかふか!!」
そんな彼女たちをよそに、煉夏は大きなベッドの上を転げ回る。
…夜会服のままで。
「うわっ、煉夏!! 大人しくしてろって!!」
「…シワになってしまうな」
「あ~、そういえば、ダンパの服装のままだってこと忘れてたわ…」
ごろごろ転がる煉夏に、今更ながら自分たちの格好に気づいてため息を一つ。
コンコン
その時、控えめなノックの音が部屋に響いた。
「? はーい」
一番扉の近くにいた詩苑が立ち上がり、扉を開ける。
そこに立っていたのは司だった。
「司さん?」
「どうも」
突然の来訪者に、詩苑は首をかしげ、瑞華は露骨に嫌そうな顔をする。
「着替えを持ってきましたから、お風呂でもいかがですか?」
にこり、と笑みを浮かべる司。
いつの間にか司の髪は元通りにくくられていて、先程までの『俺様』は鳴りを潜めていた。
「…でも…」
悪いし、と続ける詩苑に、司は首を振る。
「いえいえ、そんなのお気になさらず。埃まみれのまま女性を放っておくわけにはいきませんし、ダンスパーティーで疲れたでしょう? それに、その格好のままでは服にシワがついてしまいますからね」
笑顔を崩さず、司はブルーローズの服装を指した。
「いやまぁ、それはそうだけど…」
「まぁまあ、固いこと言わずに」
司はにこにこしながら、詩苑に持ってきたタオルやら着替えやらを半ば強引に押し付ける。
「風呂場はこの部屋を出て右手の突き当たりにある螺旋階段を上った先です。…では」
「あ、ちょ、司さん!」
詩苑の制止も聞かず、司は部屋を出ていってしまった。
「…行ってしまったな…」
「あっという間だったな…」
「いーのよあんなヤツ。とにかく、せっかくだからお風呂もらいましょ、あたしもうくたく」
「あ、ちなみに」
「「わひゃぅ!?」」
「あは、瑞華と詩苑変な声~」
再び突然現れた司に、言葉半ばの瑞華と詩苑が妙な悲鳴を上げる。煉夏がそれを見て、からかうように笑った。
「替えの服なんですが、男所帯なもので女物の服はないので、申し訳ありませんけどそれで我慢してくださいね」
そして、今度こそ司は部屋を後にする。
遠ざかる足音が完全に聞こえなくなってから、瑞華と詩苑は人心地ついた気がしていた。




