chapter.27
「視界白ッ」
「うわっぷ!?」
「なんだ?」
「前見えなーい!」
突然視界が白く染まり、ブルーローズは驚きの声を上げた。
無論彼女たちは、それが司の煙幕弾のせいだとは気づかない。
前触れもなく起こった出来事に、すぐには動けなかった。
そして、次の瞬間。
「ぎゃっ!」
「うおっ!?」
「なっ…」
「ほ?」
またしても突然、彼女らの体が宙に浮く。
誰かに抱え上げられたのだと気づくのに、しばしの時間を有した。
そして、煙幕を抜け視界が明瞭になると。
「…オイ。暴れんじゃねェぞ」
「はぁっ!?」
「…少しの間、我慢しててくれ」
「う、うん…?」
「姫を助ける王子様ってか! 俺ってばかっこいー!!」
「…………」
「煉夏、落ちんなよ?」
「うん、大丈夫っ!」
ブルーローズは、スカルグロウに掻っ攫われていた。
司は瑞華を抱え上げて太ももの辺りと背中を支えて、智彌は詩苑を小脇に抱え、犂人は椿をお姫様だっこし、龍は煉夏を肩に担いでいる。
人一人抱えていると言うのに、彼らはそれをものともせず、屋敷の中をかなりのスピードで駆け抜けていた。
ダンスホールにてそれを見た客たちは、ただ呆然とその姿を見送っている。
「オイ、暴れんなっつったろ」
「そんなの知らない! おーろーせー!!!」
司に荷物のように運ばれるのが余程気にくわないのか、瑞華はじたばたと暴れるが、彼の腕はビクともしない。
「屈辱だわ…ッ!」
「運んでやってんだから文句言うんじゃねェよ」
そんな瑞華に、司の面倒くさそうな声が応えた。
「なにその言い種!! ムカつくんですけど!!」
「知るかよ。関係ねーだろ」
「関係ありまくりだっつーのよ!!!」
「…うるせーな。また口塞ぐぞ」
「うっ…。それはヤダ……」
「…ほぉ…。俺様の誘いを断るとはいい度胸だな」
「誘いじゃなくて脅迫の間違いだと思うんですけど!?」
ぎゃんぎゃんと、瑞華は司に抱えられたまま怒鳴る。しかし彼は、それを軽くあしらっていた。それはもう、心底面倒くさそうに。
「とにかく! はーなーせ~!!」
「…………」
止まらない罵詈雑言に対し、司は無視を決め込むことにしたらしい。
「…なんで片腕で運べるの…。あたし、重いでしょ?」
「…まったく問題はないが」
「いやいやいや! 問題有りまくりでしょうが!!」
智彌に軽々と抱えられたままの詩苑が、彼を上目遣いに見上げて尋ねる。すると智彌は、ちらりと詩苑に視線を送ってから、なんでもないように答えた。
それに対して詩苑は気が気ではない。
いくら自分より大分ガタイがいいと言っても、片腕ではバランスをとるのも難しいだろうし、少々役不足な気がしていた。
「…大人しくしていてくれれば、問題はない」
「でも…」
「ノープロブレムだ」
「……ハイ」
なおも食い下がろうとする詩苑に、有無を言わせない態度で智彌は言う。詩苑は大人しくうなずくしかなかった。
(は、恥ずかしい……)
なんとも言えない気分に陥りながら、詩苑はただ揺られている。
「どう椿ちゃん! 俺ってばかっこいい!?」
「知るか寄るな下ろせ。」
お姫様だっこをされているせいで、思いの外近くにある犂人の顔を押し遣って顔を背け、椿は心底厭そうに言う。
「まったく、椿ちゃんってばつれないんだから~」
「…………」
ぐいぐいと渾身の力で押しているのに、犂人の腕の力はまったく緩まない。
そこは男女の力の差なのかと思いながらも、諦めるのも癪にさわり、椿はどうにかその腕から逃れようともがいていた。
「あんま暴れると落としちゃうよ~?」
「落としてくれて構わない。早く離せ」
「またまたぁ~。俺が女の子落とすわけないじゃん~」
椿が全身で拒絶しているのにも関わらず、犂人はまったく動じない。
それどころか、むしろ逆に楽しそうだった。
「離せ。」
「やぁーだ」
「下りる。」
「だーめ」
二人は押し問答のような会話を繰り返していた。
「ちょっ、煉夏! 少しは大人しくしてろって!」
「だってだって! たっかいんだもん! すっごい楽しい!!」
「わかったッ! わかったから落ち着けって! な?」
「むぅ…」
龍に担がれたまま、不満そうに口を尖らす煉夏。それでもいくらか落ち着いてくれたからよかったと、龍はこっそり息を吐いた。
(…重くはないんだけど、落としそうで気が気じゃないんだよな…)
仮にも女の子を落とすわけにはいかない。
まぁ、この状態が女の子の運び方(?)かと問われればなんとも言えないが、犂人みたいにお姫様だっこは、気恥ずかしくて絶対にできない自信があった。
「…龍くんって、背中おっきいねー」
「ばっ! 変なこと言うな!」
「え~? ホントのことなのに…」
不意打ちの煉夏の言葉に、龍が耳まで真っ赤にする。
思わず手を離しそうになって、慌てて煉夏を担ぎ直した。
「いいからもう、とにかく大人しくしててくれ…」
「はぁ~い」
若干疲れたように言う龍に、煉夏は間延びした返事を返した。
四者四様の運び方




