chapter.23
「さて三千万! 三千五百! 他にいらっしゃいませんか?」
屋敷の奥まったところにある一室は、今や熱気に包まれていた。
その場にいる客たちは皆一様にペルソナを被っていて、その顔を窺い知ることはできない。唯一分かるのは、大半が高貴な身分の者たちなのだろうということのみだ。
表では華やかなダンスパーティーが行われていると言うのに、ここの空気のなんと陰鬱なことか。
「…みんな必死ね」
「それはまぁそうでしょうね」
「…別にアンタに言ってないんだけど」
「 つれないな~瑞華さん」
その会場内に設置してある椅子の最後尾に陣取り、足を組んで座っている女と、その隣に当然のように座っている男。
言うまでもなく、それは瑞華と司で。
冷徹に言い放つ瑞華の言葉を、司はにこにこしたまま聞いている。
完全に馬耳東風のようすだ。
そばには他のクルーたちもいたが、“もう勝手にやっててくれ”とでも言うような表情を浮かべていた。 同じようなやり取りが何回もされていると、さすがにつっこむのも面倒になってくるというものだ。
「…さて、皆様お待たせいたしました! 本日の目玉商品はこちら!!」
オークションの進行役が、壇上に置かれた台座にかけられた布を勢いよく取り去る。
そこには、中央に大粒のピジョンブラッドが嵌め込まれた、黄金に輝く王冠が鎮座していた。
「古の海賊王が持っていたと言われるこの宝、これを巡って数多くの血が流されたと言われております。その名もまさに“血の王冠”!」
人々の口からは感嘆の吐息が漏れる。
「んっふっふ…。待ってたわこの時を!!」
「瑞華さんやる気満々ですねぇ。…まぁ、負ける気はありませんけど」
“血の王冠”が現れた瞬間、瑞華の目がぎらりと光った。その横で、司がやはり涼しい顔で言う。
「それでは、競売開始!」
進行役の声と同時に、あちらこちらで値段を叫ぶ人々の声が上がり始めた。
そして、瑞華も礼に漏れず…
チュィンッ!
「!」
「一おふぶっ!」
叫ぼうとして、それは言葉半ばで途切れた。
その理由は、隣に座っていた司に、何かから庇うように突然頭を押さえ付けられたからだ。
それは、瑞華が立ち上がって叫ぼうとした瞬間に聞こえた不穏な気配を、いち早く察した彼の行動だったのだが、競売に夢中になっている彼女がわかるべくもない。
「ちょっ、何すんのよ!!」
案の定気づかない瑞華は、憤懣やるかたないと言ったようすで顔を上げると、司に猛抗議する。
顔を上げた瑞華の目に映ったのは、なぜか髪を纏めていたリボンが無くなっている司だった。
「……」
「ちょっと! なんとか言いなさいよ!!」
リボンが無いことを訝しく思いながらも、無言の司にしびれを切らし、瑞華が噛みつくように尋ねる。
「……な」
「聞こえないんだけど!!」
ボソリ、と呟かれた言葉に、瑞華は怒りを隠そうともしない。
すると。
「…うるせェっつってんだよ」
「「「「……えっ!?」」」」
瞬間、司の口から聞こえたのは、信じられない言葉だった。




