chapter.19
「おぉ、ひっろーいッ!」
「…思ってた以上に豪華だ……」
長い髪を短髪のウィッグの中に押し込み、夜会服に身を包んだ煉夏と、こちらは髪はそのままだが、やはり夜会服を着こんだ詩苑が感嘆の声を上げる。
「煉夏、もうちょっとかっこいい話し方しなよ」
「んん? ……おぉ、なんて広いお屋敷なんだ」
「……なんか違う……」
漆黒の膝丈ドレスを着た瑞華の言葉に、煉夏は若干芝居がかった話し方をする。それに、やはり漆黒のロングドレスを身に纏った椿が、小さく呟いた。
場所は、町一番の富豪の屋敷。
ブルーローズの面々は、見事に潜入に成功していた。
詩苑と煉夏の男装、という考えが功を奏したのか、入り口の警備員にも怪しまれることはなかった。
…どうやら二人の男装は、案外型にはまっているらしい。
加えて、その人の多さもカモフラージュになっているのかもしれない。
今、四人が立っているダンスホールは、多くの人々で埋め尽くされていた。
街の人々もいるのだろうが、遠方から来たと思われる人々も、少なからず見受けられる。
思いの外大きなダンスパーティーらしい。
そして。
「なっ、んっ、でっ! 俺らがこんなかっこしなきゃいけないんだよッ!」
「同感だ。」
「仕方ないでしょう? このダンスパーティーは男女のカップルでないと参加できないのですから」
「それに、俺の許可なく詩苑ちゃんと煉夏ちゃんに会った罰。」
「意味わかんねーよ!!」
「まぁまぁ龍、落ち着きなさい。『女性』がそんなはしたない話し方をしてはいけませんよ」
「うっわ! なんか腹立つ!!」
「……鳥肌が……」
ブルーローズから少し離れた窓辺に、スカルグロウがいた。
「こんなかっこしてるせいで、入り口の警備員にめっちゃ変な目で見られたんだぞ!?」
「気のせいですよ」
「絶対ェ気のせいじゃねぇっつの!」
「あぁ。あれは絶対気のせいじゃない」
「だよな智彌!」
噛みつかんばかりの勢いで、龍が司に言う。
智彌も、龍ほど口に出してはいないが、龍の横で静かに怒っているらしい。
今の彼ら……、龍と智彌の格好は、なんとも言えず滑稽だった。
ひらっひらのフリルがついた、ふわっふわのドレス。
加えて、智彌は黒髪ストレートのウィッグ、龍は金髪ウェーブのウィッグを被っている。
うっすら化粧もしていて、格好だけみれば完璧な女性なのだが、如何せんガタイが良すぎる。
女装しているのは、男としても背の高い部類に入る、スカルグロウの中の一番背の高い男と、その次に高い男なのだ。
その背の高さと、したくなかった女装をさせられている嫌悪とで、異様な威圧感を放っている『女』二人を、警備員が怪しまないわけがない。
その場はなんとか司と犂人の口八丁で凌いだものの、二人はやはり悪目立ちする。
貴婦人方がひそひそと噂をしているのも聴こえてきていた。
「龍も智も、もちっと声のトーン落としなよ~」
「余計なお世話だっつの!!」
ため息とともに、黒いタキシードを纏った犂人が言い、龍は地団駄を踏む。
「…大体、この格好をするなら、司と犂人の方が目立たなかっただろう」
「だよな! 二人とも髪長ェし」
尤もなことを言う智彌に、白いタキシードを着た司は、その笑みを深くした。
「さっき犂人も言ったでしょう? 罰だって」
眼鏡の奥の司の瞳が、怪しく光る。
「…司も実は根に持ってたんだな」
「だな…」
智彌と龍が深くため息を吐いた。
そのとき。
「っあーっっ!!!!」
「お前ら……っ!」
「げ…っ。このタイミングで……」
「……最悪だな」
第三者の声が、割って入った。




