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blue rose  作者: 灑凪
14/35

chapter.13

「ちょ、もうとりあえず船に……」


 先程のショックから今一つ復活しきれていない詩苑が、よろよろと頭を抱えながら、何の気なしに一歩下がった、そのとき。


 どんっ


「あ、すみませんっ」

 後ろに立っていたらしい誰かにぶつかった。

 詩苑は慌てて謝罪する。


「いや……。こちらこそすまない」


 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 かなりの長身で、紺色がかった黒髪に、黒い瞳。腰には紺碧の柄と漆黒の鞘の日本刀を佩いていた。


「お? 何やってんだー? 智彌(ともひさ)」


 そしてその男の連れらしい別の男が、彼の後ろからひょっこりと顔を覗かせる。


 こちらの男も、最初の男よりかはいくぶん低いが、なかなか身長が高かった。

 黒い短髪に、紅褐色を帯びた黒い瞳。手には指先の出ている黒いレザーグローブをはめている。


「…龍(りゅう)」

「…あ、何? ナンパ?? 智彌も隅に置けないな~。このこのッ」

「……しばくぞ」

「あっはっは、冗談だって~」


 詩苑たちと連れの男を見比べて、龍と呼ばれた短髪の男が、どうやら智彌という名前らしい男をニヤニヤしながら小突く。それに対して、智彌は静かに答えた。


 その一連のやり取りを、置いてきぼりを食らっている詩苑と煉夏は、ぽかんと口を開けて眺めていた。

「……ね、詩苑。これってどうすればいいの?」

「……あたしにもわかんない…」

 煉夏がこそこそと尋ねれば、詩苑もこそこそと答える。


 そこで煉夏はふと、何か既視感のようなものを覚えて、相変わらず智彌をからかっている龍の顔をまじまじと観察し始めた。

 すると、龍がその視線に気づいたのか、煉夏の方に視線を向ける。そのせいで、見事に二つの視線がかち合った。

「なんだ? 俺の顔になんか付いてるか?」

 その言葉に煉夏ははっとして、慌てて首をぶんぶんと横に振る。

「?」

 龍は不思議そうに首を傾げていた。


「…とにかく、すまなかった」

「はっ、えっ? あ、いや、こちらこそすみませんでした」

 不意に智彌に謝られて、詩苑は我に返る。そして智彌は、彼女の返答を聞くと軽くうなずき、龍に声をかけた。

「行くぞ、龍」

「へーい。…それじゃまたな、…“煉夏”」


「「……えっ!?」」


 煉夏をまっすぐに見て、思いがけない言葉を発する龍に、詩苑と煉夏は思わず身構える。その様子を見て、彼はニッと満足そうに笑うと、彼女らが口を開くより早く、背を向けて去って行った。


「……おい龍。余計なこと言うな」

「いや、だってさ……」


 そんな会話が遠ざかっていくのが聞こえる。

 詩苑と煉夏は、しばらくそこに立ち尽くしていた。


「…な、なんだったんだろう……」

 その背中を見送って、硬直からようやく脱した詩苑は顔をしかめた。

「…いや、確かにちょっとあの二人かっこいいな~とか、不覚にも思ったけどね? なんで煉夏の名前……」

 誰にともなく呟く詩苑。

「…あたしって、そんな有名?」

「ん~…。それも強ち間違いじゃないかもだけど…」

難しい顔をして唸る煉夏に、詩苑は曖昧に答えた。

 確かに手配書が出回っているくらいだから、有名は有名なのだろうが(しかも煉夏は“戦姫”だ)、ではなぜ攻撃するでもなく、捕まえようともしなかったのだろうか。

 真意は、言った本人に聞いてみなければ判らない。


「……ま、いいや。煉夏、あたしたちも帰ろ」

「ん」

 彼女の言葉に短く返事をして、煉夏は資材を抱え直す。


(……でもあの人たち、なんかどっかで見たことある気がするな~…)


 そんなことを考えつつ、煉夏は詩苑のあとに着いて歩き出した。



 彼女たちが彼らの正体を知るのは、もう少し先の話……――。


出会いは突然に

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