chapter.11
「……嵐が来る」
「「「へ?」」」
突然椿が発した言葉に、瑞華、詩苑、煉夏の三人は間抜けな声をあげる。
時刻は丁度お昼時。四人は昼食の真っ最中だ。
「……こんなに天気いいのに?」
煉夏がキョトンとして問う。
頭上に広がる空は、白い雲が所々に浮かんでいる、穏やかな蒼天だった。
しかし、椿の表情は真剣そのもので、それが嘘ではないと言うことを物語っている。
「……まぁ、椿が言うなら間違いないんでしょ。で? どの方角から来るの?」
「丁度2時の方角からだな」
詩苑の問いに応じて、椿が応えた。
「じゃあ、とりあえず急いで次の街に向かおうか」
「そうだな」
詩苑が言って、椿がうなずく。
「よーし、じゃあ煉夏、全速前進!」
「ラジャッ! …んん? どっちの方角??」
瑞華の言葉を受けた煉夏が、操舵室へ駆けていこうとして、はたと気づいたように言った。
「あ。そういえば…。 …どっち? 椿」
「……面舵だ」
「だって! 煉夏!」
「ラジャ~」
そして今度こそ、煉夏は操舵室の方へと駆けていった。
+++++++++
「お~……。ホントに嵐来てるよ~」
近くの島にある街の、正面の港とは少し離れた場所に錨を下ろしたあとで、船の上から遠目に見えるスコールを見た煉夏が言った。
「……ホント、煉夏のその目って一体どうなってるのか知りたいわ…」
「え~? 普通だよ?」
「「「いや、普通じゃないから」」」
瑞華の言葉に首をかしげる煉夏。事も無げにいってのける彼女に、他の三人が声を揃えてつっこむ。
遠目とは言っても、普通の人間の見える距離ではない。
煉夏以外の三人の目には、水平線の向こうに、なんとなく黒雲が見えるかな~? くらいの距離である。 それを踏まえると、どれ程煉夏の視力が異常なのかがよくわかる。
「…まぁそれは置いといて、だ。それより、昨日の戦闘で“煉夏が”壊した甲板の修理しなきゃ…」
早々に話にケリをつけて詩苑が言う。しかも、「煉夏」の名前を強調して、だ。
「あ、そう言われてみれば、あたしの宝物庫の前の床に亀裂入ってたね」
それに思い当たったらしい瑞華が手を打った。
その横で椿もうなずいている。
「ごめぇん」
「そう思ってるなら手伝ってね」
煉夏が、しまったと言う表情を浮かべながら謝った。
「ついでに、そろそろ資材も無くなりそうだから、一緒に買ってきたいんだけど…」
「オッケー。じゃあ、私はとりあえずお留守番してる。夕飯の仕込みもしたいし」
「私も、まだ読みかけの本があるから…」
「あたしは~…」
「アンタは来る。」
「いてててててて…。冗談だよーぅ詩苑ッ」
瑞華と椿が船番をかって出て、それに便乗しようとした煉夏の耳を、詩苑が問答無用で引っ張る。
それに対して、煉夏は若干涙目になりつつも慌てて弁解した。
「じゃあ、アタシらは買い出しに行ってくるね」
「うん。ついでになんか珍しい食材があるかどうか見てきて~」
「わかった」
「…気を付けて…」
「ありがと」
「詩苑詩苑っ、そろそろ耳、離して~ッッ」
「はいはい」
「ふえ~ん」
瑞華と椿に見送られながら、詩苑は煉夏の耳を引っ張ったまま引きずって、船のはしごの方へと向かっていった。




