chapter.10
「たったのこれだけ? せこいな~」
「な~」
場所は変わって、ここはジャッカルの船の上。
大将がやられたと知った男たちは、どうやら戦意を喪失したらしい。
もっとも、煉夏のあの恐ろしいほどの強さを見れば、当たり前のことなのかもしれないが…。
そんな折、瑞華はせしめた宝を眺めながら不満をもらす。
そんな彼女と同意見なのかどうなのか、あれだけ動いていたのにも関わらず、息一つ乱してはいない煉夏は、瑞華の語尾を真似て言った。
そんな彼女らの前には、相当な量の宝の山があって。
「……こんなにあってせこいって……」
「お前らの金銭感覚はどうなってるんだ……」
呆れた詩苑と椿が言っても、瑞華はやはり態度を変えなかった。
「だって、これだけじゃあ煉夏の食費に消えちゃう……」
「……煉夏の胃袋は一体どうなってんだよ……」
「……某マンガの某主人公並?」
「椿! それは言うな!! つか、言っちゃいけないだろ!!!」
詩苑の呟きにボソリと答えた椿に、詩苑は慌てて言う。
「うん。それくらい」
「そしてうなずくな煉夏ぇぇぇぇっっ!!」
事も無げに答える煉夏に、詩苑は力の限りつっこみをいれた。
「……大変だねぇ。詩苑」
「全てお前のせいだろうが!!」
同情して言う瑞華に、詩苑は怒鳴る。
「詩苑怖い……」
「誰のせいだ!」
怒鳴られた瑞華が、詩苑に向かってそう言葉を投げ掛ければ、実際欠片も怯えてなどいない彼女の様子に、詩苑は再び吠えた。
「……もう、疲れた……」
「どんまいっ」
「……おー…」
親指をグッと立て、ウィンク付きで言う煉夏に、詩苑は本当に疲れたように礼を言う。
その間椿は、我関せずとでもいうかのように、遠い目をしていた。
「……うちにあるのはそれだけだ。勘弁してくれ」
「ん~…そうだねぇ……」
脳震盪から復活した船長ジャッカルが、苦笑混じりに言う。瑞華は、それにしばらく悩んだあとうなずいた。
「うん。まぁ自分たちで獲ればいいし、今回はこれで許してあげる」
ニッと笑う瑞華に、ジャッカルは小さく苦笑を返した。
「さてみんな、引き上げるわよ~。…帰ってあたしのお金の勘定しなきゃ」
「はーい! 瑞華~ごはんまだ~?お腹すいた~」
「はいはい、船に戻ったらね。それよりもまず、このお宝!」
「はーい…」
「……ブルーローズ、しまいにゃ沈むんじゃねェの?」
「同感」
己の欲望をだだ漏れにしている瑞華と煉夏に、椿と詩苑は遠い目のまま呟く。
「よーし、今日は飲むぞ~」
奪った宝を煉夏に自船に移させて、瑞華が言った。
食費がどうのといってたわりには、その宝を即日の内に遣うのは、瑞華の豪快な性格故か。
「わーいっ! 宴会~! ごは~ん!!」
瑞華の言葉に、真っ先に反応したのは案の定煉夏で。
「……おい」
「…………」
突っ込むことにも疲れた詩苑が息と共に言葉を吐き、椿は遠い目をして、「星が綺麗だなぁ」とかなんとか言いながら、現実からものすごい勢いで逃避していた。
そして彼女たちは、ジャッカルの船から離れていく。
その背中を、ジャッカルの一味は黙って見送っていた。
++++++
「…面白いですね」
そんなブルーローズを、遠くから見つめる影が四つ。
「また出たぁ~、司の悪い癖」
影の一人の言葉に、別の一人が応じる。
「今に始まったことじゃないだろう、犂人」
彼らは一体何者なのだろうか。
「そうだよな~。いいこと言うなぁ、智彌。振り回されんのはいつも俺らだぜ」
わずかに蒼白い光の射すその世界に…
「…聞こえてますよ、龍」
「げっ」
彼らはただ、佇んでいた……――。




