四月・6 娘たちがねじれる時
ものすごく身も蓋もない言い方をすれば。
恋愛の最終目的と言うか「着地点」というのは、詰まるところ「肉欲」だと思っている。
これは生物学からすれば勿論「子孫存続」、「種の保存」という見方になるし。
神話の世界、例えば『古事記』の国産みの際にも、
「吾成り成りて、成り余れる所あり」(イザナギ)
「吾成り成りて、成り足らぬ所あり」(イザナミ)
からの、
「「いざ婚ひせむ」」って、とんでもなくド直球なセリフがあったりする。
いや、この国をお造り遊ばされた神々の話を、そこまで俗っぽくする必要は無いんだが。
そして更に穿った見方をするならば、恋愛のその先、結婚という行為は、
「相手の存在と人生を丸ごと受け入れ、抱え、どちらかが亡くなるまで、いや亡くなった後までも、その生涯を共にする勇気と覚悟があるか?」
という、究極の選択の結果でもあると言えるだろう。
まぁ自分にはその覚悟もほんの少ししか無く、死が二人を分かつ前に三行半をつきつけられた訳だが。
そしてオレは生前(?)も、どちらかと言えばかなーり奥手な性格ではあったのだ。
────所が。
「よくよく思い出してみたら、オレほぼ全員と肉体的接触まで済ましちゃってるじゃん!」
という、自分で墓穴を掘って自分で入り、可能な限り周りの土をかき集めて自分を埋めているのだと自覚すると言う、セルフ拷問ごっこをしている自分に気がついたのだった。
いずれも去年。
青野とは駅で抱き合い、その後の旅行では浴場で(※よく見えなかったけど)裸のお付き合いをし。
松元とはあの台風の日に、一晩中抱き合って過ごしてしまい。
玲華とはデパートの階段室で、キスまでして。
そして現在、山口に抱きつかれて思いっきり吸われている、と言う……。
「あの、山口さん?」
「すー……はぁ。ん? 何かな?」
「いや、何かな? じゃなくて」
場所は校内。屋上へ続く階段の、その最上階の踊り場だ。
「この間『誰も見てない時と場所限定』とは言ったものの、いくらなんでもさぁ」
「大丈夫、誰も来ないよこんな場所。それにね」
「うん?」
「ここだと音楽室なんかとは違って、部屋の中の余計な匂いが混ざらないから、トオル君だけをたっぷり堪能できるんだよ」
今日の警備担当というポジションを逆手に取った山口に、オレは休憩時間の度にこうして吸われているのだった。
「そろそろ教室に戻らないと」
「えー、名残惜しいなぁ。じゃあもう一回だけ」
スンスン。
うなじは止めろ、近くなった顔と唇を意識しちゃうから。
「あっ、ここの匂いも好きかも」
うーん、性癖が渋滞してるなぁ。今夜はより入念に、耳の裏も洗っておこう。
そしてふと、山口って一人っ子だったよな? という考えがよぎった。
ひょっとして山口、「寂しさ」と「恋愛感情」をごっちゃにしてないか?
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「うわーん、トーちゃーん!」
今日は音楽室で軽音部……じゃない、同好会の活動日だ。
正式発足一歩手前、後は顧問とメンバーが揃えば何とか形になるところまでは来た。
そんな中、いつものように音楽準備室からドラムセットを一式準備すると、突然玲華が泣きながら飛びついてきた。
「おっと、何がどうした?」
何せ猫みたいにすばしっこく駆け寄ってきたのだから避けようが無い。
オマケに、オレは既にドラムの椅子に腰掛けていたので咄嗟に動けない。
転倒を避ける意味で、仕方なく受け止めてやったのだが。
「上手く言えないんだけど、なんだか負けた気がするんじゃよー」
「情報が漠然としすぎだろ、何なんだ全く」
「だってだってー、トーちゃんてばぐっちーの夢枕に時々立ってあげてるんでしょー?」
「オレは自分の知らない間に、この世ならざる存在になっていたのか」
いやまぁ、ある意味本当なんだけども。
「ほ?」
「あのなぁ」
夢枕の意味を解説しながらふと気づけば、山口がこちらに両手を合わせ、オレにだけ見えるように「ゴメン!」と口パクしていた。
ひょっとしてお前、『トオル君が夢に出てきちゃった』とか、玲華に喋ったりしたのか?
それとも普段の生活でエア・トオル君の存在でも匂わせたのか。
「トーちゃん、アチキの枕元にも化けて出てよー!」
「だからオレの存在を幽世に送るなと、いま言ったばかりだろうが」
夢枕より酷くなっとるやんけ。もうそれ妖怪とかバケモノの類いじゃろが。
後でたっぷり、古文の『猫又』を叩き込んでやるから覚悟しとけ。
何だか情緒不安定の玲華と、それを見つめる山口との間で、オレは脳内でこう叫ぶしかなかった。
『助けよや、玲華・山口よやよや!』




