四月・3 ミス・ロンリー・ハート
涼木さんから「派閥de推し活」の話を聞いてから数日。やっぱり山口がおかしい。
具体例を挙げると……。
・オレと目が合うと、ジッと見返してきたまま数秒固まる
・かと思えば、いま気がついたかのように視線をそらす
・ピアノの譜面を逆さにセットして「あれ?」とか言ってる
・みんなとセッションしていてもテンポが遅れる
・以前と比べて動きが緩慢になったような気がする
いや、普段からそんなにじっくり観察していた訳じゃ無いから、ただのオレの思い過ごしなのかも知れないが。
これは玲華も気にかけていてくれたらしく。
「ぐっちー、悪阻?」
「ぅおいそこの玲華!」
ゲシッ!
「あいたー!?」
反射的に手が出てしまったじゃないか。
「何故その発言に至ったか、後でじっくり問い詰めるから覚悟しとけ」
「ううー、ゴメンよトーちゃん。ただの小粋なれいちゃんジョークじゃよー」
ただのジョークで済むかアホ!
完全に黒冗句なんだけど、ちょっとビビったわ。
そいや大学生やってた頃、オートバイに跨がって信号待ちしていたら、歩道にいた女子大生っぽい人から、
「アタシ、絶対に産むからねー!」
っていきなり大声で宣言されて、危うく立ちゴケしそうになったことがあったっけな。いやもちろん人違いなんだけども。
後にこのエピソードを聞いたバイク仲間から、「交通事故より怖い話」と言わしめた事件だった……。
所が。
「うん、ちょっとゴメン。最近体調がヘンなんだ」
「え、そうなのか?」
「と言っても、別に病気とかケガじゃないから安心して?」
「ならいいけども」
「あはは、なんだかこのごろ食欲が、減っちゃって……」
そう言って力なく笑う山口。言われてみれば、ちょっとやつれたか?
顔色も白いと言うより「青白い」って風にも見えるし。
流石に玲華も、そして涼木さんも、無闇に声をかけるのは憚られたらしい。
音楽室だと言うのに、妙に静かな時間が流れている。
「なんなら話だけでも聞くが、どうする?」
すると山口は、一瞬オレを見た後、玲華と涼木さんに向けて「パンッ」と手を合わせた。
「ごめん二人とも。少しトオル君と二人だけで話をさせてもらえる?」
「う、うん」
「はい、ではわたしたちはこれで」
何か言いたそうな玲華の背中を涼木さんがグイグイと押し、二人は音楽室から消えていった。
廊下からも完全に二人の気配が遠ざかった途端、山口がおずおずと打ち明けた。
「……ねぇ、ボクの中にトオル君が居着いたままなんだけど、どうしたらいい?」




