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四月・1 迷い道

 ────もう、いいのだろうか?


 ────オレは、やり終えたのだろうか?


 あのバレンタインデーで、自分が抱えていた『誤解』が全て解け。

 今は好意を寄せてくれる女子達と、楽しい時間を過ごせている。

 去年は生前(?)の生き方の焼き直しにしかならないのかと。

 そう思っていた二度目の人生が。

 今はこんなにもまばゆい。


 ……そうか、いつの間にか、やり終えていたのか。

 それは、良かった。良かった……。



 などと、クラ○ドごっこ(しんみり)している場合じゃない。

 むしろ全然終わってない。


 オレは今、この春入学してきた新一年生への対応で、てんてこ舞いなのである。

 具体的には部活の勧誘。場所はグラウンド。

 そう、陸上部での活動及びトレーニング指導だ。


「じゃあ今から体育倉庫に行って、マットやポール、バーなんかを引っ張り出します! 手伝いお願いね!」

「「はーい!」」


 ……気のせいかも知れないが。

 今年の高飛び希望の子達って、女子ばっかりじゃね?

 オレがこの状況に首を捻っていると、コマちゃんが横で感心していた。


「流石は初川先輩です、人心掌握はバッチリですね」

「そういう問題じゃない気がするんだけどなぁ」


 先月の体験会では、少なくとも三人は男子を見かけたハズなんだが……。

 どうしてこうなった?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 翌日はテニス部だ。

 こちらは男女半々の入部希望者だった。

 まぁコートの数も限られているので、上限は毎年設けているという話は度会先生から聞いたが。


「あの人が例の紳士センパイ?」

「そーそー、コマ姫ちゃんがぞっこんなんだって!」

「「キャー♡」」


 休憩の度に新一年女子から、遠巻きではあるが熱い視線を投げかけられるのは、まぁ良いとして。

 聞こえる範囲での内緒話は、もうナイショじゃないのよ。


 どうしてこうなった……。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 更に翌日の大特異点(おんがくしつ)


 玲華と山口、そして去年からギターをこっそり始めたという涼木さんと一緒に、見学者の前で何曲か演奏をしてみせると。


「すごーい、カッコイイ!」

「私もなんか楽器始めよっかなー」


 ピンポンパンポーン♪(×複数)


 ────どうして、こうなった……。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 いやその、ね。

 女子から好意を向けられるというのは、純粋に嬉しいんだよ。

 でも去年も感じたように、数が多いと単純にコワイんだよ。


 オレって一応オッサンだったし、胃カメラのバリウムどころか、善も悪も、酸いも甘いも、清濁併せて全て飲み込んで生きてきたのよ。

 キミたちが思っているほど、オレって善人でも何でもないんだけどなぁ。


 ……え、善人じゃ、ない……?


 オレが自分の言葉にセルフダメージを喰らっていると、(いつも)の席に当たり前のように座っている玲華が声をかけてきた。

 学年が上がってもこの配置、菅野先生の「玲華(この子)については一任するわね!」という強い意志を感じる。


「紳士トーちゃん、なんかまた難しい顔してるねー?」

「『ははは、あなたたちの目にはそううつりますか』」

「三国志ネタは分かりづらいから止めた方がいいよ紳士トーちゃん」

「『お気づきになりましたか』」

「『もうまったくイライラさせおって』!」

「ハイスイマセン」


 ちなみに、今日の担当は玲華である。

 一応、三年生になったことで新しい教科書も入手できたので、オレと机をくっつける事は無くなったが、それでも距離は物理的に近い。


「まー見てれば分かるよー」

「マジで?」

「だってトーちゃんの周り、今や女の子だらけだもんなー」


 教室内の男子達から「視線(しっと)」と言う名の矢が盛大に飛んできた。

 そいや古代エジプトでは『視線で相手が殺せる』と、本気で信じられていたそうな。ならオレ、今ので致命傷だわ。

 そんな見えない矢を、精神的に一本ずつ引っこ抜きつつ。


「これがしばらく続くかと思うとやりきれん。明日からしばらく学校休もうかな」


 オレが本音をポロッとこぼした。


「『太守、それはなりませぬ』」

玲華(おまえ)こそ引っ張るんじゃないよ」


 ああもう。

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