三月・7 How Many いい顔
「えーと……」
口を開いたのは度会先生だ。
はい、ファンクラブ最年長者かつ会長なんだから、キッチリ説明して頂きましょうか?
「と、当初は初川くん達の様子を影からこっそり見るために、ホテルの方に話を通しに行ったのよ?」
「はい」
「そうしたら、そちらの屋代さん? が、『将来のお客様のため、ぜひ皆さんにも体験してもらいましょう』って」
「ふむふむ」
「流石に申し訳ないからってことわったんだけど、その、ね?」
「押し切られたんですか……」
「えっと、はい、そうね……。それにウェディングドレスって、この世の全女性の憧れですし」
なんだこの可愛い元女子大生は。
今は顔を真っ赤にしてモジモジと。
そして最後にポツリと。
「一度ぐらいは着てみたかったんだもん……」
「えーとその、先生なら遠からず本当に着る機会があるでしょうに」
ピンポンパンポーン♪
謎に好感度を稼いでしまったようだが、オレは先生から視線をそっと外した。
いきなり少女みたいな拗ね方をしないで欲しい。もう可愛いしかない。
「ははぁ、つまり営業活動の一環だったと言うことですか? 屋代さん」
オレは隣でニコニコしている、本日の案内役をチラっと見た。
屋代さん……、お心遣いはありがたいんですが、これ交通事故ってレベルじゃないですよ。
「はい、私共は女性の幸せを第一に考えるスタッフばかりですので」
なんか良い事言ってる! できれば男性の幸せもちょこっとで良いから考えて欲しい!
オレの視線を真正面から受け止めた屋代さんだが、まるで何事もない様に話を続けた。
「ではこのまま式次第の解説を始めさせて頂きます」
その大人の笑顔が、今は小憎らしい。
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「本来であれば、新郎様と新婦様が腕を組み、ホワイトカーペットの上を歩いて入場して頂きます」
「「へぇー」」
「その後は賛美歌の斉唱に続いて神父様からのお言葉が。その後にいよいよ誓いの儀式をする、という流れです」
「「ほうほう」」
「指輪の交換と誓いのキスは────」
女性陣は全員後学のためか、女性スタッフの説明に食い入るように聞き入っていた。
そんな様子をボンヤリと眺めていたが、オレは改めて屋代さんに向き直った。
「あの、なんだかすみませんです」
「おや、何がでしょうか?」
「この連中ときたら、普段から悪ノリが大好きでして」
すると屋代さんは黒縁眼鏡をクイッと直し、女性陣を見た。
「良いではないですか、別に誰に深刻な迷惑をかけている訳でもありませんし」
「いやでも」
「それにこの仕事をしていると、新郎新婦さん達はもちろんなのですが、会場にいる皆さまの本当に幸せそうなお顔を間近で拝見できるので、私自身も嬉しく思うのですよ」
「ああ、それは分かります」
「でしょう? 今も皆さまがあれほど楽しそうにしている。その笑顔を私どもがお手伝いさせて頂いている。こんなにも報われたと感じられる仕事は、世の中に少ないとは思いませんか?」
「ねー初川ー!」
そんな時、青野が声をかけてきた。
「ここでみんなで撮影するんだってさ! 」
「ああ、いいなそれ」
見れば専属カメラマン氏が、えらくゴツいカメラを三脚にセットしている。
そして今の今まで屋代さんの考えに絆されていたオレは、ひどくゆっくりとした足取りで雛壇に向かった。
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「トーちゃん、待ってるからね?」
「いずれな」
パシャッ。
「あ、アンタとこんな写真を撮るなんて、考えたことも無かったわ」
「奇遇だな、オレもだ」
パシャッ。
「ついに初川に背を抜かれちゃったね。ま、まあバランスはいいんじゃない?」
「そうかもな、顔も近くなったし」
パシャッ。
「……」
「おいなんか言え」
パシャッ。
「いつかこうしてせんぱいの横に立ってみたいです」
「そうだねぇ」
パシャッ。
「こんな年上の、しかも先生と一緒だなんてイヤじゃない?」
「何言ってるんですか、素敵じゃないですか」
パシャッ。
ペアでの写真撮影が終わった。
はーやれやれ、とんだイベントになってしまったぜ。
さて、では撮影も終わったことだし、今日はこれで解散かな?
ラスト一枚を撮り終わり、オレがそう考えた時だった。
「最後に全員で撮りますねー、皆さん中央に集まってくださーい!」
「「ええっ!」」
見れば屋代さんが、カメラマン氏の後ろで笑っていた。
「いえ、こういった機会でもないと、デザイン違い且つ複数のウェディングドレスが使われる写真というのは、なかなか撮れませんので」
そうなのだ。
服飾デザインについてはあまり明るくないので詳細は控えるけど、みんな違ったデザインのドレスを纏っているのだ。
なんだっけ、プリンセスラインとかビスチェだとかタッキングスカートだとか、色々聞いたことはあるんだけどな?
「いやでも、結婚会場的にはマズイんじゃないですか?」
「ちゃんと注釈はつけますので、その点はご安心を」
反則だ! いや販促か?
これ絶対に後で大きく引き延ばして、ホテルのエントランスとかに展示するつもりだろ。
「では新郎様の周りに集まってください! 背の高い方は前に、低い方は後ろの雛壇に上がって!」
カメラマン氏の指示で、いそいそと皆んなが移動した。
オレの左右に玲華と山口。
前には松元と度会先生。
後ろに青野と涼木さんだ。
「あ、ちょうどいい配置になりましたね。では何枚か撮りまーす!」
何回か表情や姿勢を変えつつ撮影は続いた。
しかしなんだ。
まさか二度目の人生で、こんなにも恵まれた環境に身を置くことになろうとはね。
そう言えば生前(?)には『六人とも花嫁』なんてタイトルのコミックだかラノベが無かったっけ?
今はすっかり遠くなってしまった未来の話をなぞりながら、オレはただただ花嫁さん候補達に囲まれているだけだった。




