三月・6 あの鐘を鳴らすのはどなた?
その後に案内されたのは、まぁ結婚式の段取り的な場所が多かった。
実際に使われている宴会場や、さっき食べた料理を作っている調理場。
そして引き出物を選ぶための事務室的な場所や、ウェディングドレスの展示室、そしてフォトスタジオなどだ。
「ふーん、結婚式って行進曲流して入場して、みんなで楽しくご飯食べて、最後にブーケ投げて終わるのかと思ってたけど、大変なんだねー」
「そうだな。でも考えてみたら司会の人だの結婚コーディネーターだの、あとは神父さんだのは今日はいないハズだから、実際はもっと大がかりになるんだろうなぁ」
「そっかー、実際はもっと沢山の人が、アチキたちのために動いてくれるんだねー。すごいなー」
なんだか職場見学みたいな感想を話していると、屋代さんが振り返ってニッコリ笑った。
「お二人とも素晴らしい着眼点です。そうなんです、幸せなお二人に対し、最大級のおもてなしで喜んで頂き、また未来までの素敵な記憶として永遠に残って頂けるよう、我々一丸となって日々尽力している次第です」
「ステキがすぎる……」
玲華が感極まったのか、いつもの喋り方が喪失している。
改めて周囲の部屋や調度品に感心している様子を見ていたら、屋代さんが小声で話しかけてきた。
「所で徹様」
「はい、なんでしょうか」
「先ほどフロントから連絡があったのですが、本日の企画のご予定は、玲華様お一人だけでしたよね?」
「はい、そう聞いていますが……、何か不都合がありましたでしょうか?」
「ふむ。……なるほど、そういう事ですか」
キラパーン!
だからその眼鏡どうなってるの? ねぇってば?
「この後はいよいよウェディングフォトの撮影となります。お二人には少々ご面倒かと思われますが、あちらのお部屋で着替えをして頂きます」
「やったー、待ってましたー!」
屋代さんが、そんな玲華を含みのある笑顔で見ていた。
父さん、陽気です!
────まさか簡単に髪のセットまでしてくれるとは思わなかった。
まぁいずれ、多分6月号辺りに掲載するであろう写真なのだ、あまりモサついた髪型では映えないのだろう。
続いて採寸に服選びと続き、その後はシューズやら蝶ネクタイだのの小物合わせ。
……ちょっとだけ変声機の真似事がしたくなったのはここだけの話。
腕時計型の麻酔銃も無いしな、やめとこ。
「ご支度は調いましたか?」
屋代さんが入室して言った。
「お陰様で。いやぁ久しぶりに着ましたけど、身が引き締まりますね」
「おや、以前にもタキシードをお召しになった事が?」
おっといけね。
「七五三の時でしたかね、なんだか窮屈な思いをした覚えがあります」
「そうでしたか。ご家族との素敵な思い出なのでしょうね」
うーん、屋代さん本当に隙が無いな。相手の話を受けて即座にベストな返しができる。
社長秘書としても非常に優秀なのではないだろうか。
「所でお相手の方なのですが、もう少々お時間を頂くことになりそうです」
「ああ、はい、それはもう。ドレスって装着に結構な時間が掛かるんですよね?」
「そうですね。まあ理由はそれだけではないのですが」
「はい?」
ん? 玲華のヤツ、某かの失礼でも働いてしまったのかな?
そんなオレの疑問を察したのか、屋代さんがニッコリと笑顔を作る。
「準備が整い次第お呼びいたしますので、それまで退屈でしょうがこちらでお待ちください」
「分かりました」
うーん、なーんか引っかかるんだよなぁ。
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そして待つこと三十分。屋代さんから声が掛かり、オレはホテルスタッフと共に、いわゆる「挙式会場」へと足を運んだ。
神父さんの前で誓いを立てたり、指輪交換したり、最後にチューしたりする例の場所である。
……まさかそこまでやらんよな?
オレが体内のハラハラ時計を必死にたたき割っていると。
「では新婦様達のご入場です!」
おお? これワーグナーの『婚礼の合唱』じゃないか。
流石に生演奏じゃ無くてレコードだけど、ちょっと驚いたな。
華やかで有名な『真夏の夜の夢』(メンデルスゾーン)ではなく、落ち着いた印象の曲の方が好みなオレである───。
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──────。
───ん? いま「達」って言った?
そして振り返って見下ろしたホワイトカーペットの上には。
玲華を先頭に、山口、青野、松元、涼木さん、最後方に度会先生のドレス姿があった。
「あ、あはは、トーちゃんこれ、すんごい事になっちゃったねー」




