三月・5 微笑みがえし
そして当日。
オレは駅前で玲華と二人、送迎車を待っていた。
すると、「ブライダルホテル KSK」のロゴが入った……。
「ジャガー Mk.VⅢ、だと?」
「トーちゃん何それ?」
「イギリスのめっちゃ希少な古いクルマ」
「なんか凄いんだ?」
「しかもその屋根をとっぱらって晒しもの仕様にしてる」
「ふーん? 確かになんかすごいねー」
そんな車が地方駅前のロータリーにやってきたのだ。それはそれは注目の的である。
でも良かった、後ろに空き缶なんかぶら下がってなくて。
「……やっぱり帰ろうかな」
「ダメー! ここまで来ちゃったんだから、トーちゃんも覚悟キメろー!」
「あいあいさー」
矢鱈と大仰な挨拶の係員に案内されて車の後部席に乗り込み、オレ達は式場に向かった。
────その後ろにどこかで見たような一台のカローラが、つかず離れずしていたことに、その時のオレは気づかなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「本日はようこそ、当KSKホテルへお越し下さいました」
「はっ?」
「こんにちわー! 今日はよろしくお願いしまーす!」
ホテルKSK、そのエントランスで俺たちを待っていたのは。
「初川家のご両名様ですね、本日は誠におめでとうございます。私は本日の案内を務めさせて頂く屋代と申します。以後お見知りおきを」
……先日会ったコマちゃんの執事、屋代さんじゃん。え、あれ?
ホテルKSK……、屋代さん……。
あ、ひょっとしなくてもこのホテル名って、『KouSaKa』のことか?
うわ、香坂グループって色々と手広くやってるイメージはあったけど、まさかホテル経営までやっているとは思わなかったぜ。
「本日は雑誌の企画と言うことで、お二人にはブライダル体験をして頂くことになっております」
「はいっ!」
「元気なお嬢さんですね」
屋代さんの眼鏡がまたもやキラパーンと光った。その眼鏡どうなってんの?
「所でお二人とも、もうお食事はお済みですか?」
「いえ」
「まだですー!」
「では簡単ですが昼食をご用意いたします、レストランまでご案内しますね」
「ありがとうございます」
……何となくではあるが。
玲華には屋代さんのことは黙っていようかなとふと思った。なんでだろね。
ナントカのテリーヌだとか、ウンタラのムニエルだとか、カンタラのコンポートだとか。
これ「簡単」ってレベルじゃないよな? 屋代さん気を遣ってくれたのかな。
普段は絶対に口にすることのない料理を堪能したオレ達だったが、玲華はもう大はしゃぎだった。
「トーちゃん、これものすごく美味しいね!」
「だなぁ」
「結婚式なんて、近所のお姉ちゃんの式に呼ばれたぐらいしか機会が無かったけど、こんなカンジなんだねー」
「だなぁ」
「トーちゃんは?」
「だなぁ、……じゃなくて、学生にはなかなか出来ない貴重な体験だよな」
「こ、これでトーちゃんの人生の内、最大級の『初めて』を頂いちゃいましたなー!」
危うく口に含んだコーヒーを、松田優作ばりに吹き出す所だった。危ない危ない。
なんせ二度目の結婚式(※体験)ってこともあって、感動も何も無いんだろうなと高を括っていたんだが。
「時と場所は選べと」
「ゴメンよー、でも嬉しいのは仕方ないし許してよー」
いざ来てみたら、玲華が思っていた以上に楽しげな雰囲気なのでおちゃらけることも出来ず。
何よりそれ以上に、オレにも玲華の「嬉しい」が感染してしまったらしい。
笑顔って伝染するもんだしな。
さてさて、この後は何があるんだ?




