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三月・4 マイ・ピュア・レディ

 三年生も無事卒業し、終業式も滞りなく終わった3月下旬のこの日。


 長期休みあるあるな「宿題」も、春休みには課されず。

 学生達にとっては何の懸念も心配も無い、夢のような二週間の始まりである。


 それにしても昨日の伊庭先輩と伊吹先輩、いい笑顔だったなぁ。

 二人はソフトテニスのスポーツ推薦で、野球でも有名な地元の強豪校に入学。その才能を遺憾なく発揮するのだそうだ。


 自由意志での進学なのに、家族からも将来を期待されているとか、心底羨ましい。

 自分みたいに、「親父殿との確執で、行きたい高校に進ませて貰えなかった」なんて話は、きっと無かったんだろうな、ああ羨ましい羨ましい。



 ────所で。だ。


「やぁやぁ紳士トーちゃん、明後日はヒマかねー?」


 最近のオレは、何故か幹部連(みんな)からこんな風に呼ばれている。

 名字の前に枕詞のごとく『紳士』を付けられているのだ。


「ヒマっちゃヒマだが、その呼び方さぁ……」

「だって事実じゃろー? 紳士なトオルくーん♡」


 あのコマちゃんとの邂逅後、涼木さんを除くファンクラブの幹部連や、挙げ句に度会先生からも『紳士くん』呼ばわりをされているのだ。

 きっかけは、保健室の先生とのやり取りを聞いた山口が、あくまで苦笑いで会員に広めた結果だ。


 でもね? あのね?


 みんなしてニヤニヤしながら、からかい半分・圧半分で、その呼び方は止めて欲しい。共産国の将校じゃないんだから。

 いつ粛正()されるか分かったもんじゃない気がするんだよ! うっすらと! こえーよ!


「で、なんの用だよ」

「やー、実はちょっと付き合って欲しい所があるんじゃがー」

「どこよ」

「結婚式場ー♡」

「よし帰るとするか。短い付き合いだったな玲華、どうぞ末永くお幸せに」


 いつものように音楽室に(たむろ)していたオレは、カバンを抱えて退室しようとした。


「待って待ってトーちゃん待ってってば、ちゃんと説明するから! 待ってー!」


 玲華の声が遠く遠く、エコーを伴って校内に響いていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「トーちゃん、実はこれなんじゃがー」


 玲華が見せてきたのは、いつぞやゴルゴンちゃん もとい 岬ちゃんが持ってきた、例の雑誌の今月号だった。なになに?


『誌上企画! あのカップルを探せ!』


 そこには、あまり見たくない類いの文字が躍っていた。


 ……うん、何故だか猛烈に悪い予感がする。父さん妖気です!


「よし、やはり帰るとするか」

「だから待ってって言ってるじゃんかー!」

「ええい人の脚に縋り付くな、お前はお宮か!」

「今出てったら、これからトーちゃんのことは『貫一』って呼んでやるー!」


 金色夜叉(どすんばたん)


「ちょっとちょっと二人とも、その辺で止めときなよ!」


 この状況を最初から黙って見ていた山口だったが、流石に呆れたらしく仲裁に入ってくれた。

 危ねぇ。あと少し遅れていたら、熱海の海岸に銅像が建つ勢いだったぞ。サンキュー山口。


 でだ。

 要約すると話はこうだ。


 この間、岬ちゃんが見せてくれた例の「ホワイトデー」云々の雑誌。そこには続きがあって、

『この写真に写っているカップルの中から抽選で一組に、結婚式場でのブライダル体験をプレゼント!』

という企画があったんだそうだ。


 で、これは応募してくれた中から厳正なる抽選をし────。


「……応募したのか玲華(おまえ)

「当然じゃろー!」

「しちゃったかーそっかー」

「と、トーちゃん? その手の形はっ!」


 ガシッ!


「あいたたたー!」

「せんぱい、さすがに玲華せんぱいがかわいそうですよ」


 仕方ない。

 オレは涼木さんの優しさに免じて、しぶしぶアイアンクローを解いてやった。


「ううー、ヒドイよトーちゃん……」

「ひどいのはお前だバカタレ。せめて事前に相談ぐらいしろっつの」

「アタマ壊れるかと思ったー」

「いつものことじゃないか」

「壊したら結婚(べんしょう)してもらうからね!」


 何をどうやってだ。つか今おかしなルビが見えなかったか?


「あー、でつまり、その抽選に何故だか当たってしまったと?」

「そゆことー」


 しょうがないなー、もうコイツはなぁ……。

 まぁ、当たるかどうかは完全に運なんだし、玲華を責めても仕方ないか。

 見れば送られてきたというその当選葉書には、以下の文字が並んでいた。


・日 時:3月○日 13時より

・会 場:ブライダルホテル「KSK」鶴の間 にて

・内 容:素敵なカップルさんに結婚記念写真を撮影の上贈呈!

・その他:衣装・撮影費用等は全て当社負担、手ぶらでお越し下さい


 これ、ひょっとしなくてもまた雑誌に掲載されるヤツじゃん……。

 それにしても太っ腹だな。確か結婚式の写真って、ご祝儀価格で1セット5万円ぐらいだった気がするが。


「で、どうかなー?」

「どうかなも何も、当たっちゃったんだろ?」

「うん!」


 オレははぁーっと溜息をついたが、別に雑誌編集者や企画担当の人に恨みはないしな。


「わかった、行くよ」

「やったー!」


 人生二度目のタキシード仮面になるのかオレ……。


 そしてそんなオレ達を、山口と涼木さんの二人が真顔で見つめていた。

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