三月・3 君の実家は一万ボルト
やってきました放課後タイム。
校内放送で職員室に呼び出されたオレは、……何故かそのまま応接室に通された。なんで?
しかし、その理由はすぐに分かった。
「この度はお嬢様を助けて頂き、誠にありがとうございました」
目の前には先日大ケガをした小学生女子と。
その横には黒縁眼鏡の、なんか執事っぽい人がいて、オレに深々と頭を下げてきた。
「アッハイ、ドウイタシマシテ」
「申し遅れました、私はお嬢様のお世話をさせて頂いている、屋代という者です」
雰囲気に気圧されて、返事がロボっぽくなってしまった。
そして渡された名刺には、『(有)香坂電工』なる文字が見えた。
香坂? どっかで聞いたことがある名称だな……、って、ああ!
香坂って、地元では有名な大……と言うにはちょっと格が落ちるが、そこそこ規模の大きな企業である。加えて社長は市議会議員だったりするのだ。
知らない人は全く知らないだろうが、ミキちゃんちの様な公務員ファミリーには、なじみが深い名前のはずだ。
「ご名刺、確かに頂戴いたしました、ありがとうございます」
「ほう?」
うっかり社会人スキルを発揮したオレに向かい、屋代さんの眼鏡がキラパーンと光った。
「流石は初川家のご長男だ、しっかりしておられる」
「いえいえ、私の様な若輩者には、勿体ないお言葉です」
「そんなそんな」
「いえいえホントに」
「そんなそんな」
「いえいえホントに」
このまま無限ループに突入するかと思われた矢先。
「屋代、私にもお礼を言わせてちょうだい!」
小学生女子が口を開いた。
「そうでしたね、失礼致しました。ではどうぞ」
「はい」
そこで小学生女子改め香坂ちゃんがソファから立ち上がり、恭しく頭を下げた。
「この間は、ケガで不安になっていた所を助けていただき、本当にありがとうございました、私、香坂真子と言います。今後ともよろしくお願いいたします」
「いや、大したことはしてないですよ」
「いいえいいえ」
彼女はやけに情熱的な瞳でこちらを見上げてきた。
「あの時の私は、自分でもびっくりするぐらいびっくりしてしまって、何をどうして良いのか分からなかったんです」
ああ、やっぱりね。気絶こそしなかったものの、あれって一種のショック状態に見えたもの。
「ですが私が泣いてしまったその時、周りの人を一喝し好奇の視線から遠ざけてくれて、私本当に心を打たれたんです。世の中にはこんな素敵な殿方がいるなんて、私あの日までぜんぜん知りませんでした」
いや「殿方」て。随分と時代錯誤な物言いをする子だ────な?
あれ?
自分から見て二学年下の。
やけに時代劇がかった物言いで。
コウサカ マコちゃんて名前と言えば。
「? どうかされました? 初川先輩」
────オレが生前(?)に交際を申し込まれ、数日間だけ付き合ったことのある、例の新一年生じゃねーか!
もっと言うと、オレが小学生男子をやっている頃に、やたらと懐かれた生徒だ。
運動会の時に足をくじいたとかで、オレが保健室までおんぶしたのがキッカケだったかな。
放課後に話をする機会も時々はあったが、今の今まで記憶からスポッと抜けてたわ、すまん。
「コマちゃんか!」
「はい! そうです先輩! 私コマです! 嬉しい、覚えていてくださったんですね!」
ピンポンパンポーン♪
そんな俺たち二人を見た屋代さんは。
「では、後は若い二人でごゆっくりどうぞ」
と、お見合いの席を立つ保護者のようなセリフを残して、隣接する校長室に入っていった。




