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二月・5 More fool me

「トオル君……」

「よっ、さっきぶりだな。元気だったか?」

「トオル君!」

「そうです、私が徹君です」

「と……っっっ! トーちゃんっ!!」

「はいっ!!」


 しまった、少しからかいすぎたか。


 先ほどまで泣きそうだった玲華だが、神社の境内にある常夜灯に照らされた今の顔は真っ赤。

 もうね、怒り心頭! と言った具合だったので、オレは思わず姿勢を正した。


「心配になって追いかけてきたのに! 何よその笑顔は!」

「え、オレいま笑ってるの?」

「そうじゃよ! メチャクチャ損した気分じゃよ!」

「そりゃあ悪かった」

「謝るなー!」


 理不尽すぎる。

 そして次にはふーふーと荒い息を吐きながら、玲華が高らかにこう宣言した。


「いまからお説教ー!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 境内の隅っこに、夜風を避けつつ座った俺たちだった。


「いまアチキがなんで怒ってるか分かる?」


 妻帯者にとって最強の地雷質問(ばくだん)来たコレ。

 何をどう答えても、絶対に正解なんて無いんだもの。


「えーと、……ゴメンナサイ分かりません」

「だろーと思ったよー。あのねぇ」


 コホンと軽く咳払いをしてから、玲華は続けた。


「トオル君って、時々妙に大人っぽい所があるんだけど」

「うん?」

「そしてもう、とんでもなく優しいんだけど」

「……」

「今だってこうやってさりげなく、あたしが夜風に当たらないような位置に座ってくれてるし」

「それはまぁ」


 男として当たり前だろ。

 二月半ばと言うと、関東では雪のシーズンでもある訳で。

 そんな中、夕刻もとっくに過ぎた時間帯だ、寒くないはずが無い。


「でね、この間ファンクラブの皆んなに、改めて事情聴取(ききとり)したのね」

「うん」

「そしたらもー、トオル君の優しいとこ、頼りになるとこ、心酔しちゃってる理由なんかが、これでもか! ってぐらい出てきたのね」

「あー……」

「で、あたし自身もトオル君のステキなとことか、凄いとことか、頼りになるとこを見てるじゃない?」


 ……これ、オオトモ様が生中継(ライブ)で見てるんだよなぁ。

 流石に気を遣ってくれてるっぽいけども。


「それで皆んなと話してる最中に、ふと思ったの。ううん、気がついちゃったと言うべきか」

「うん?」


 玲華が真っ直ぐにこっちを見た。


「ミキちゃんがあれだけ懐いてるのって、トオル君が優しいのも勿論そうなんだけど、これひょっとして全部『自分が犠牲になっても構わないから』って考えてるんじゃないかって」


 ……。


「だとしたら、それはちょっと違うんじゃないかなーって、そう思ったのね」

「……」

「トオル君って、今日になるまでファンクラブの存在、知らなかったんでしょ?」

「うん」

「あのねぇ、普通はあんな状況なら怒って当然だと思うの。『自分が知らない所でコソコソすんな!』って」

「……」

「でもトオル君は怒らなかった、自分だけフェードアウトしちゃった」


 そこまで来て、玲華がスウッと息を大きく吸った。




「言い方がキツかったらゴメン。あたし、トオル君は()()()()使()()()()()()()()()んじゃないかなって、そう思ったのね」




 二人の周囲を冷たい風が吹き抜けた。

 足元の落ち葉がくるくると回って、天高く登っていき、そして地に落ちた。


「────それは」

「だからね、怒りたいなら怒るべきだし、それが出来ないならイヤならイヤって、ツライならツライって、ちゃんと言って欲しいの!」

「────うん」

「さっきだってそう! 何よ『みんなが健やかに幸せに』って! あーもう腹立つ!」


 そこまで言って、玲華が大粒の涙をポロポロと零し始めた。


「ちくしょー! よーし怒るぞー!」

「いやちょ」

「お黙りなさい!」

「うぐ」


 そこで玲華の中の何かが決壊したらしく。

 後はもう怒濤のお説教だった。


「アナタはねぇ! 優しすぎるの! 確かにね、他人の幸せの手助けをすること、それはとっても良い事だけど!」


 くしゃっと顔を歪めて。


「でもその『幸せ』の中に! アナタがいないの! 聞き取りした時に誰からも! どこからも! 一つだって出てこなかったの! それってどういう事!? おかしくない!? おかしいよねぇ!?」


 今はもう、ぐちゃぐちゃの泣き顔で。


「何がファンクラブよ! みんなアナタの優しさに当てられてるだけじゃん! だから聞いてて途中からツラかったの! ふざけんなって思ったの! こっちが苦しくなっちゃったの! 分かる!? 分かってよ! 分かりなさいよこのバカー! ふえーん!」


 そこまで言って、玲華はオレの腕の中に飛び込んできた。

 引っぺがそうかとも思ったんだが()()()()



 これは正しい使い方(オートスキルじゃない)だろうと信じて。

 今は玲華を強く強く抱きしめてやった。

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