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二月・4 The Cinema Show

「当初の予定では」


 度会会長がぽつぽつと、申し訳なさそうに語り始めた。


「今って例の不良三年生達のせいで、放課後まで()()()()()()()()()()()()()されてるでしょ?」

「そうでしたね」


 ────(パチン)。


「だから先生が皆んなの代表として、これを初川君の自転車に()()()()結わえて渡すことで、今日をなんとか乗り切ろうって考えてたの」


 ────(パチン)。


 先生がガサゴソと取り出した紙袋。


「はい。なんだかおかしな結果(こと)になっちゃったけど」


 ────(パチン)。


 手渡された紙袋、その中に。


「これはここにいる全員からの感謝の気持ちよ、ぜひ受け取ってね」


 ────(パチン)。


 例のチョコレートが、あの日と寸分違わぬ包装紙と重量でもって。

 そこに鎮座ましましておられた。





 ─────過去の記憶が逐一フラッシュバックした。





 つまりなんだ。

 当時もオレのファンクラブはあって。

 そこの女生徒達(かいいん)全員で相談した結果。

 個々人での受け渡しは一切禁止となり。

 その代わりに度会先生が代表として、あの高級チョコレートを贈ったと。

 代表者としての贈答なので、個人名はそもそも省略したと。



 それで合点がいった、全て理解した。


 蓋を開けたら何と言うことは無い。

 あの日のチョコは全部が全部、オレのために取ってくれた行動の、その結果だったのか。


 ─────ああ、だからあれ以降、女生徒達が距離を置き始め。

 告白を受けて付き合った新一年生までもが、後に会員から事情を聞かされ。

 そしてオレだけが勘違いしたまま、色んなものを棒に振ったと。




「は、初川……」

「トーちゃん……」


 山口と玲華が、黙りこくったオレを見て恐る恐る声をかけてきた。


「だ、大丈夫?」

「えっ、具合でも悪くなった?」


 松元と青野も、ただ事とでは無いと感じたのか。


「せんぱい……?」


 涼木さんが俺の顔を覗き込んできた。


「初川君? 顔が真っ青だけど、どうかした?」

「すいません」


 オレはと言えばもう、一声絞り出すのが精々で。


「ありがとうございます。今日はこれで帰ります」


「あっ」

「ちょ、ちょっと!」

「まってくださいせんぱい!」


 オレはすっくと立ち上がると、やや乱暴に紙袋を引っ掴み。

 そのままずかずかと音楽室を後にした。



 今は、考える時間が。


 時間だけが欲しかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 轟天号に跨がり、気が狂ったようにペダルを蹴った。

 家とは反対方向にハンドルを向け。

 オレはオオトモ様の祀られている神社へ向かった。


(待っておったよ)

(オオトモ様、ひょっとして、当時も全部ご存じだったんですか?)

(……)

(答えて下さい)

(うむ、知ってはおったよ。今更ではあるが、気の毒じゃったな)

(ホント今更ですよ……)

(すまんかったの)


 この気の良い現人神様は、素直に頭を下げてくれた(様な気がした)。

 とは言え、こうしてオオトモ様と話せるようになったのも。

 過去に戻って色々と疑問が解消できたのも。

 全てがオレの死後の話(あとのまつり)である。


 オレがすっかり項垂れて、地面にある石畳を呆然と見つめていると。


(で、お主これからどうするのじゃ?)


 オオトモ様がややトーンを抑えた風で声をかけてくれた。


(これから……?)


 ああ、そうだ。そうだな。

 オレはこれからどうするんだ? どうしなくちゃいけないんだ?

 逆にどうもしないで済んだりするのか?


 あの頃と同じく、再び皆んなから距離を置かれるのか。

 逆に詰め寄られるのか。

 その結果、誰か一人を選ぶことになるのか。


 それとも誰も選ばず、また心を閉じるのか……。



 ─────いや。それだけはダメだ。ダメに決まっているだろう。



 オレはゆっくりと、つかえつかえではあったが思考を回し始める。


(考えます)

(うむ)

(正解なんて無いでしょうけど、それでも)

(……)

(考え続けることだけは、絶対に止めません)

(……うむ分かった。儂が言えた義理では無いが、いつもお主を見守っておるぞ)

(はい、ありがとうございます)


 オレは賽銭箱にありったけの小銭を放り込み、改めてオオトモ様に向き直った。


 二礼、二拍手。


「どうか皆んながこれからも、健やかで幸せな時間を過ごせますよう」


 そして、一礼。


 少しだけ冷えた頭で、さて帰ろうかときびすを返した所で。


「トオル君……」


 息を切らせた玲華が、何故か今にも泣き出しそうな顔で立っていた。

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