二月・2 It's Too Funky In Here
翌日の放課後。
オレは何故か音楽室に連行された。
「えーと?」
そこには度会先生を始め、青野、松元、山口、涼木さんが待ち構えていた。
オレを拉致してきた玲華も含め計6人。ちょっとひりついた空気が漂っている。
部屋は施錠され、この時間だけは誰も入ってくることが出来ないっぽい。
ヤだなーコワイなー、何言われるんだろ。助けてモーツァルトさん。
オレは壁で真横向いている肖像画を見たが、無関心を装われてしまった。
まぁでも、なんとなく想像はつく。
昨日オレがプライバシー侵害とも言える、『後輩からラブレター貰ったことをうっかり漏洩しちゃいました事件』について、某かのお説教かお小言でも頂戴するのだろう。
その場合は覚悟を決め、真摯な態度で平謝りしよう。
「えー、ではこれから転校生の玲華さん向けに、『今ここにいるメンバーが、どのようにして初川君と関わるようになったのか?』の経緯をお聞かせしたいと思います」
「「わー!」」パチパチー♪
─────はい?
「と言うのも今朝、玲華さんから、『アチキ、トーちゃんがこの学校でどんな立場にいるのか全く知らないので教えて欲しい!』との嘆願書が、山口さん経由で私宛に提出されたからです」
どういうこと? え、オレの立場??
つか嘆願書って何よ???
オレは議長役(?)の度会先生の発言を、まるで「今まで座っていたのが傍聴席だと思ったら、実はガッツリ被告人席だった」みたいな気分で聞いていた。
いや、正確には「右から左へ抜けていっただけ」だった。脳内での処理が全っ然追いつかない。
「これは初川ふぁんく」
「先生ストーップ!!」
「Funk?」
玲華が首をかしげた。オレもだ。
オレの何がソウルミュージック?
「……そうでした、先生ちょっと先走りました」
「気をつけて下さいセンセー……」
何故か山口が冷や汗かきまくりな様子で、度会先生に進言していた。
ふと見れば、玲華以外の全員が、ちょっぴり気まずそうにもじもじしている。
「要するにですね初川くん」
「はい」
あ、オレにも発言権はあったのね。
拒否権はなさそうだけど。
「ここにいる全員、初川君にはなんらかの形で助けて貰ったり、お世話になった子じゃない?」
「はぁ、まぁ」
「そして昨日みたく、初川君が女子から好意を向けられて凹んじゃったって話を聞いて、これは根の深い問題だと私が勝手に判断。初川君主催の勉強会メンバーに声をかけ、今月のことも含め玲華さんとも情報共有が必要だろうという話になったんです」
「なっちゃったんですか」
「なっちゃったんです」
いやなんでさ。
────そこからはもうダメだった。(オレが)
度会先生が、車の修理について感動を交えつつ話し。
青野は、如何に自分の家族が守られたかを熱く語り。
松元はあの台風の日の話を、少々ボカしつつ白状し。
山口は、当たり前だがバンド活動の楽しみ方を訴え。
涼木さんは胸を見せた事を伏せたまま皮膚ガンの件。
それは何というか、改めて露呈した「オレの行動結果」の告発状たちだった。
そして最後に、女子全員がクリスマスイベントでの話を盛大に暴露すると。
「わきゃー……」
参加していなかった玲華が鳴いた。
「トーちゃん、それは罪作りなことをしましたなー」
「もう煮るなり焼くなり、三枚におろしてポン酢かけるなりしてくれ……」
メチャクチャ恥ずかしい。
肉体が若返ったせいで無茶もしてきた自分を、こうも好意的に客観視させられるとは思わなかった。
「なるほどなー、それなら後輩ちゃんからのラブレターも納得じゃよー」
「はい、これでれいちゃんも『こっち側』の仲間入りね」
よく分からんが、玲華が『あっち側』の人になってしまったらしい。
「それでね、初川くん」
「はい」
度会先生がコホンと咳払いし、ゆっくりと言った。
「初川君は、自分が思っている以上に、他の生徒達にも影響を与えているの。しかも良い方向にね」
「……」
「だから今後、他の人から何をどう言われても、何をされても、初川君はドーンと構えていなさいってこと」
「……」
「少なくともここにいるメンバーは、初川君に救われているの。よって全員君の味方よ、分かった?」
「話が急すぎて色々とアレですが、理解はしました」
「だーかーらー!」
青野が割って入った。
「また風嶺夜にご飯食べに来なよ!」
松元が。
「ハンバーグ、また作ってあげるね」
山口が。
「次のシュトーレン、アルコールなるべく飛ばしておくよ」
涼木さんが。
「ヤキトリの美味しいお店をご紹介します」
「と、言うわけで」
パン! と度会先生が手を打った。
「初川君はこれで帰っていいわよ。あ、玲華さんはもう少し残っててね?」
「はぁ」
「はーい! トーちゃんは先に帰ってくれてていーよ」
「分かった」
やっと介抱 もとい解放されたか。
オレは鞄を掴むと一目散、壁のモーさんをチラっと睨んで帰路に就いた。




