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一月・11 君が好き、胸が痛い

『To:初川先輩へ

 私は、一年の女子ですけれども、先輩は玲華さんと、つき合っているそうですね。

 私は、先輩のこと、入学したときから、好きでした。

 玲華さんのことをきいてから、すごく、ショックで、勉強も手につきません。

 いつも先輩の姿をおっていました。

 好きです。本当に。涙が出るぐらい好きなんです。

 先輩に、私の方へふりむいて下さいとは言いません。

 ただ、私のことをわかって下されば、それでいいんです。

 こんなことを、先輩におねがいするのも、気がひけるけれどもダメです、先輩。

 やっぱり、私、先輩が好きだから。

 ……このことは、同級生も、だれも知りません。

 私が、一番信らいしている、山口先輩だけが知っているのです。

 だから、山口先輩に、この手紙をわたしてもらいます。


 真けんなんです。わかって下さい。

 こんな気もちになったのは生まれてはじめてです。

 心から先輩のこと、好きって言えるんです。今は。

 「好きです、本当に」 「I love you」


   返事下さい。まっています。

                 さようなら』



 ……おうふ。


 オレは山口から渡された”それ”を一読し、一瞬呼吸(いき)をするのを忘れた。


 胸が痛ぇ。


 中学一年生にして、この熱量と破壊力。

 ピンクを基調とした封筒アンド便箋で、山口から渡されたこの懸想文(ラブレター)ときたら。

 これほどの純粋で真っ直ぐな想い。

 海自のレールガンですら裸足で逃げ出す直線軌道と貫通力───


「で、どーすんのこれ」


 ───はいすいません、感心したり現実逃避(トリップ)したりしてる場合じゃなかったですわ。


 オレの目の前には腕組みをし、こちらをしかめっ面で見つめている山口がいた。


「いや、えぇ……、どーすんのと言われましても」

「さすがに中身は見てないけど、何となく想像はつくよ。で?」

「返事が欲しいそうだ」

「あー、まぁそうだねー、あの子の事だしそうなるかぁ」

「と言うと?」

「何か手元に”想い出の品”みたいなのを持っておきたいんだろうなって」

「?」

「それで諦めをつけるという、アレだよ、……なんだっけ」

「ああ、心理学で言う所の”代替行為”ってヤツか」

「……相変わらず、その知識量は一体なんなのさ」


 すまんね。あまりにも荒唐無稽な話なので、口にしても理解して貰えないだろうけどさ。


「つかオレ、別に玲華とは付き合ってるって訳でもないんだがなぁ」

「ソウダネー、デモ周リカラシタラ、キットソウ見エルンダロウネ」


 山口さんが村人Aになってしまった……。



 場所は校内の被服室。

 以前に涼木さんがポロリと言うかペロリしちゃった部屋とも言う。

 昼休みなので外は明るいが、暖房も無く冷たい空気の中。

 それでも煙が出そうなほど頭はカッカしている。

 オマケにオレの脳内では、何故か『Killing me softly with his song』がエンドレスである。


 二人してしばし思案していたが、いつまでもここにいるのはちとツライ、つか寒い。

 見れば山口も手をこすり合わせていた。やれやれ。


「取り敢えず誠心誠意、返事は書くことにするよ」


 それを聞いた山口は、ちょっぴりホッとした顔になった。


「うん、そうしてあげて? あ、だからって変に期待させるようなのはダメだからね!」

「善処します」

「かと言って、スッパリ切って泣かしちゃうのも禁止!」

「ぜ、善処します」

本当(ホント)このドラムス()はなー、まったくもーなー」

「……善処します」


 そういう訳で、オレはASAP(なるはや)で返事を作成することになった。

 傷つけず、期待もさせず、なるべく円満に解決できる文章か……。ちょっとばかり難易度高すぎじゃないですかねー、山口さん。



 できればもちっと()()()()()()()欲しい。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 結論から言ってしまうと、この「返事を書く」って方法は”半分”成功だった。


 山口曰く、オレからの返事を読んだその女生徒は、

「受験を控えて今から猛勉強中な先輩の、お邪魔や負担になってはならない」

という形で落ち着いたらしい。良かったよかった。

 少なくとも、その生徒と廊下ですれ違いざま、いきなり泣き出されたりしたらどうしよう! といった心配は無くなった訳だ。


 で、何故に”半分”だったかと言うと───。


 山口に返事を渡して貰った翌々日ぐらいから、図書室の人口増加が著しくなったのだ。それも下級生ばかり。先日のゴルゴンちゃんとの突発授業もあるだろうが、


『手紙が無理なら、せめて近くで見ていたい』


という、極めて乙女チックな理由でそうなったらしい。これは涼木さんからの談である。

 ええ、マジですか……。


 と言うか山口さんや。これ涼木さん以外にも、その生徒の存在って普通にバレてるんじゃ……?

 いくら”人の口に戸は立てられぬ”って諺があるにしても、だ。


 正直いつメンでの勉強会の最中、全く予想だにしていないタイミングでSE(あの)音が鳴るの困るんだが。えーと、その。


(オオトモさまー?)

(ムリじゃよー)


 くっ、先手を打たれてしまったか。


 いやね、生前(?)はこれだけの数の下級生から慕われているとは知らなかったのもあって、来月のバレンタインは「例のチョコ」一つだけじゃなくなるんじゃ? という懸念が出てきた訳ですよ。




 そんな事態になったら、正直もう特定とか不可能じゃない?

冒頭のラブレターの文面ですが……。

私には文才が不足しているので、当時の私が実際に頂いたものを参考にさせてもらいました。

リアル中一女子(※昭和50年代)すごい……。

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